2025年第2四半期の無線LAN機器の出荷は世界全体で19%増となったが、「Wi-Fi 8」の登場を含めて将来を見通した場合、ABI Researchは無線LAN市場の未来は決して明るくはないと指摘する。
調査会社ABI Researchが2025年10月23日(米国時間)に発表した調査結果によれば、世界全体の無線LAN(Wi-Fi)機器の出荷は、2025年第2四半期(4〜6月)に前四半期比で19%増加した。
2024年後半は無線LAN機器の出荷が低迷した一方、2025年には企業の機器更新サイクルの中で「Wi-Fi 7」(IEEE 802.11be)の導入が軌道に乗り、出荷が安定して増え始めるとの期待があった。だが米国関税への懸念など不確実性が浮上し、発注の前倒しが相次いだことで、実際には出荷の急増につながったという。
ABI Researchのプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・スパイビー氏は、出荷急増を喜ぶ声もある一方、今後に控える「Wi-Fi 8」(IEEE 802.11bn)の登場を含めて無線LAN市場を長期的に見た場合には、直近の状況は必ずしも祝福できるものではないと指摘する。
スパイビー氏は「予期しない追加関税や貿易制限の可能性が背景にあり、今後の市場は不安定な状況にさらされている」と懸念を示す。
2020年代の後半にかけて市場の成長を後押しする要因となり得るのが、無線LANの次世代規格であるWi-Fi 8の登場だ。ABI Researchによると、初期のプロトタイプ(試作品)は2026年に登場する。同社は年間出荷台数は2027年の40万台強に始まり、2030年には8140万台に増加すると予測している。
だがWi-Fi 8の登場には必ずしも期待できないとの見方もある。従来の無線LAN規格は、主にデータ伝送速度の向上を重視して設計されてきた。Wi-Fi 8は、「超高信頼性」の確保を狙っている。この設計方針の転換は、ユーザー体験の向上につながるものの、データ伝送速度のように数値で分かりやすく伝えるのが難しく、その利点を訴求しにくいという課題がある。結果として、データ伝送速度の向上に価値を見いだしていた企業にとっては、Wi-Fi 8を利用する必要性は感じにくいと考えられる。
スパイビー氏は「消費者や企業がWi-Fi 8を広く採用するためには、無線LAN業界は同技術の市場投入戦略を考え直す必要がある」と述べる。必要なのは、利用者がWi-Fi 8の価値を数値で測定できる、明確で透明性の高いベンチマーク(評価基準)の作成だ。複数のアクセスポイントを連携させて通信品質を最適化する機能についても、その利点をうまく伝えるための訴求方法を考案する必要があるという。
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