生成AIで顧客体験の継続的な革新に取り組むべき理由Gartner Insights Pickup(422)

顧客の期待がかつてないほど高まる今、企業には「迅速で個別化された体験」を提供できるかどうかが問われている。その鍵を握るのが生成AIだ。人間のように自然な対話で、膨大なデータから顧客の本音を読み解く生成AIは、CXを再定義し、企業の競争力を左右する存在となりつつある。

» 2025年11月14日 05時00分 公開
[Don Scheibenreif, Gartner]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 企業に対する顧客の期待はかつてないほど高まっている。今日の消費者は情報への即時アクセス、シームレスな製品体験、迅速な問題解決を求める。企業が期待に応えなければ、顧客は不満を抱くだけでなく、離れていく。あらゆるインタラクション(やり取り)がブランドの評判を高めるか損なうかの分かれ道となる。

 生成AIは、顧客体験(CX)のゲームチェンジャー(新たな波を起こして構造変化をもたらすもの)として急速に台頭している。従来の自動化とは異なり、生成AIは人間のような自然な対話で顧客と関わり、ニーズを予測し、パーソナライズされたガイダンスを大規模に提供する。新規ユーザーのオンボーディング(使い慣れるまでの支援プロセス)や、やりとりの要約から、コンテキスト(文脈)に応じたアドバイスや情報の提供に至るまで、生成AIは日常的なやりとりから真の価値を生み出す。

 CXは全社のデータやワークフロー、タッチポイント(接点)にまたがる部門横断的な性質を持つ。そのため、生成AIは広範囲にわたる影響をもたらし得る。生成AIの可能性の追求をためらう企業は、この技術を活用して優れた体験を提供し、顧客のロイヤリティーを獲得する競合他社に後れを取る恐れがある。

 Gartnerがあるウェビナーで行った調査では、回答したリーダーの38%が、大規模言語モデル(LLM)でトレーニングされたアプリケーションを導入する取り組みの主な目的として、CXの向上と顧客維持を挙げた。26%は、売上成長を挙げた。

 生成AIが進化し、CX戦略により深く組み込まれるにつれて、企業は新たな機会と責任に直面する。この技術がどこで最大のインパクトをもたらし得るかを理解するとともに、顧客の信頼とブランドの評判を守ることが不可欠だ。

より深い顧客インサイト

 生成AIは、企業が顧客を理解し、対応する方法を変えつつある。膨大な量のフィードバックや調査データを迅速に照会、分析する能力により、生成AIツールは、これまで以上に迅速かつ正確に、顧客インサイトを獲得する方法を提供する。

 その好例が、「顧客の声」(VoC)プラットフォームだ。このプラットフォームは現在、ベンダー主導の調査、内部調査、リアルタイムの顧客フィードバックから集約された大規模データセットを、生成AIを使用して検索するようになっている。検索結果はセグメント、データソース、または期間でフィルタリングし、テーマやパターンを特定できる。そのため、顧客にとって何が最も重要かをより迅速に発見し、チームとして積極的な対応を取ることが可能になる。これはより賢明な意思決定と、よりパーソナライズされたCXにつながる。

 企業は、既存のVoCおよびCXプラットフォームで利用可能な生成AIの機能を検討し、導入すべきだ。導入に当たっては、CX戦略が単に市場動向に追随するのではなく、自社の差別化につながるように、コンテキストに即した独自の顧客インサイトを提供するソリューションを優先するとよい。

生成AIによる戦略的優位性

 生成AIは、企業におけるCX戦略の実行と拡張を大きく加速させる。その影響は技術の活用方法にも及び、広範なCXビジョンの一環として、投資のアプローチの変革も必要になる。

 例えば、生成AIにより、企業はCXに新たなレベルの創造性を取り入れ、従来のプロセスの限界を超える革新的なインタラクションを設計できる。生成AIは、人間だけでは管理できない大量のデータセットを分析することで、人間の限界やバイアスの克服を支援し、CXを改善するためのより幅広いアイデアを生み出す。

 これにより、チームはビジネスの実務上の制約に適合しながら、見過ごされがちなCXを構想し、洗練させられる。さらに、生成AIは人間の判断を補強し、CXの取り組みの優先順位付けを助け、より自信を持って投資決定できるように導く。

 生成AIが最も効果を発揮する分野を特定し、その中でCXのビジョンと成果を直接支える分野に注力することが重要だ。これにより、顧客中心のアプローチを維持しながら、生成AIの変革力を活用できる。

機会とリスクのガバナンス

 生成AIがCX戦略により深く組み込まれるにつれて、強固なガバナンスと部門横断的なコラボレーションが不可欠となる。企業は、生成AIの責任ある導入を確保する上で重要な役割を果たす。より深い顧客インサイトの導出と、より創造的なインタラクションの実現を目指すとともに、データ品質の低下、未検証の出力、顧客の信頼喪失といったリスクを抑える必要がある。

 生成AIの活用によるCXの成熟への取り組みでは、短期的な成果や個別のパイロットプロジェクトから、まず生産性の向上につなげ、そして差別化された全社的なCXの創造を進めることになる。

 取り組みが前進するにつれて、顧客データを民主化し、事業部門間のチームワークを促進し、従業員がインサイトに基づいて行動できるようにすることがますます重要になる。あらゆる段階において強固なガバナンスが、技術投資とイノベーションを支え、新しい機能が責任を持って、かつCXの戦略的目標に沿って、導入されるように保証する。

 企業は、CXガバナンスを全社的なAIポリシーと整合させ、部門横断的なコラボレーションを促進し、データ規律と従業員トレーニングに投資する必要がある。このアプローチにより、顧客重視を貫き、長期的価値を守りながら、生成AIの可能性を引き出せる。

出典:Build the next generation customer experience with GenAI(Gartner)

※この記事は、2025年8月に執筆されたものです。

筆者 Don Scheibenreif

Distinguished VP Analyst


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

4AI by @IT - AIを作り、動かし、守り、生かす
Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。