ソフトバンクが5Gで音声通話(VoNR)を開始 やっと「一人前」になった5Gの活用法羽ばたけ!ネットワークエンジニア(95)

2020年にキャリア各社による5Gサービスが始まってから6年近く、5Gでは電話が使えなかった。音声通話サービスは4G(VoLTE)で提供され、5Gはデータ通信のみのサービスだったのだ。だが2025年10月、ソフトバンクが5Gで音声通話を扱う技術であるVoNRを実装し、音声通話も5Gで可能にした。これが企業ネットワークにもたらすインパクトについて述べる。

» 2025年11月25日 05時00分 公開
[松田次博@IT]

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 ソフトバンクは2025年10月2日、5G SA(5G Stand Alone)ネットワーク上で音声通話をする技術、VoNR(Voice over New Radio)による音声通話サービスを開始したと発表した。キャリア(携帯電話事業者)各社が2020年にサービスを開始した5Gは、これまで電話としては使えなかった。つまり、5Gは「携帯電話」ではなかったのだ。

 ソフトバンクは日本のキャリアとして初めて5Gによる音声通話サービスを開始した。それは単に5Gで電話ができるようになったというだけでなく、企業ネットワークに革新をもたらすものだ。

これまでの音声通話は4Gが担っていた

 筆者は2021年12月にキャリア5G(キャリアはKDDI)を使ったプライベート5Gネットワークを構築した。事業所内に5G、4Gの基地局を設置し、アンテナを数多く設置して、実質的にその事業所「専用」のプライベート5Gを実現したものだ。

 当時は2つの理由で5Gだけの設備ではプライベート5Gネットワークが作れなかった。1つは5Gの方式がNSA(Non-Stand Alone)だったことだ。NSAは5Gを4Gのコアネットワークで制御するため、制御信号のやりとりのために4Gの設備が不可欠だった。

 もう1つの理由が、5Gだけでは音声通話ができないことだ。5Gに対応したスマートフォンは、5Gでデータ通信はできるが、080/090などによる音声通話はできない。音声通話は4G(VoLTE、Voice over Long Term Evolution)でしかできなかったのだ。

 スマートフォンで5Gによるインターネットを利用している最中に電話が着信すると、一時的に5Gから4Gに切り替えて通話をする。通話が終わると5Gに戻る。スマートフォンから電話を発信するときも同様に4Gネットワークで発信する。

 その後、5Gを5Gコアで制御する5G SAが使えるエリアが広がり、データ通信だけなら5G設備のみでできるようになりつつある。しかし、音声通話は相変わらず4Gに頼ったままだった。

 図1は、5G SAで企業のプライベート5Gを構成した例だ。オフィスビル内には5Gと4Gの基地局装置を置く。MU(Master Unit:親機)やHU(Hub Unit:中継器)からなるDAS(Distributed Antenna System)は5Gと4Gで共用できる。音声通話は4GのVoLTEを流れ、5Gのデータは5G網を流れる。

図1 5G SAと4Gでプライベート5Gを構成した例
BBU:Base Band Unit
RU:Radio Unit(子機)

VoNRでプライベート5Gは、5G設備だけで構築可能に

 VoNRの音声通話でのメリットとして、5Gから4Gへの切り替えが不要なため発信から接続までの時間が短縮されること、VoLTEより広い帯域を使えるため高音質を実現できること、遅延が少ないこと、が挙げられる。しかし企業ネットワークを作る上では、これらは小さなメリットに過ぎない。

 企業ネットワークにとってのVoNRの最大のメリットは、プライベート5Gを5G設備だけで作れるようになることだ。冒頭で述べた通り2021年時点でも、5Gと4Gの両方の設備を使って事業所内のプライベート5Gを、企業にとってもキャリアにとってもメリットのある形で実現できた。

 5G設備だけで構築できるようになれば4G設備が不要になるため、設備費用が削減され、キャリア5Gによるプライベート5Gの実現性がさらに高くなる。図2がその構成だ。

図2 5G SA/VoNRによるプライベート5Gの構成

 このようなプライベート5Gのメリットは、オフィスビル内に有線LANや無線LANが不要になることだ。企業が自前のネットワークを持つ必要がなくなる。

 キャリア5Gによるプライベート5Gはキャリアのサービスであるため、企業がローカル5Gのような面倒な免許申請を行う必要はない。設計や工事もキャリアが実施してくれる。自前のネットワークを持つよりもコストを下げることが期待できる。

 サービスなので陳腐化の恐れがない。キャリアは新しい技術の適用や新サービスを実現するために、ソフトウェアやハードウェアを更新する。自前の機器を使う場合に不可避なEOL(保守期限切れ)を気にする必要はない。サービスは必ず継続される。

 現時点でVoNRはソフトバンクしか提供していない。ソフトバンクのVoNRは2025年9月末で、東京都、大阪府、北海道、愛知県など12都道府県の一部の地域で提供されている。

 VoNRを使うにはスマートフォンもVoNRに対応している機種でなければならない。ソフトバンクのVoNRが使えるのは2025年10月の発表時点ではXperia 10 VII(エクスペリア・テン・マークセブン)のみだが、今後、サービスエリアや対応スマートフォンの拡大を図るそうだ。PCは音声通話が不要なので、従来の5G対応のSIM(PC内蔵SIMやeSIM)で接続できる。

 NTTドコモ、KDDI、楽天モバイルはVoNRの対応時期について情報を公表していないが、近い将来に対応することになるだろう。

 企業にとってVoNRは、データと音声の統合が可能なキャリア5Gによるプライベート5Gネットワークの実現性を大きく高めるサービスだ。キャリア各社の動向を見ながら、プライベート5G導入の検討を進めてはいかがだろう。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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