中小IT事業者が押さえておきたい「Microsoft Azure」提案時のコスト効率化の基本〜提案を受ける情シス部員も必読「オンプレミスとクラウドのコストの違い」〜中小IT事業者のためのAzureクラウド提案実践ガイド(2)

前回は中小IT事業者がエンドユーザー企業へクラウドを提案する際に必要となる「責任共有モデル」や「価格決定モデル」の基本的な考え方を解説しました。今回は、オンプレミスとクラウド(特にMicrosoft Azure)とのコスト効率の比較を通じ、クラウド提案・導入の実質的なメリットを具体的に掘り下げます。利用シナリオに沿った提案パターンについては、次回以降で解説します。

» 2025年12月04日 05時00分 公開
[黒木武範株式会社インテルレート]

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「中小IT事業者のためのAzureクラウド提案実践ガイド」のインデックス

連載目次

 クラウド提案の現場では、「クラウドは高い」「オンプレミスの方が価格は安価で安定している」といった意見をよく耳にします。しかし、それらは“表面的なコストだけ”を比較しやすくした場合の印象に過ぎません。

 本稿では、中小IT事業者がエンドユーザーにクラウドを提案する際に、どのような視点でコスト効率化を図るべきか、そして「Microsoft Azure」(以下、Azure)を選ぶ理由を整理していきます。

「クラウドは高い」は本当か? オンプレミスとクラウド(Azure)のコスト構造の整理

 まずは、従来のようなオンプレミスサーバを導入した際のコスト構造を振り返ってみましょう。多くの中小企業のエンドユーザー案件では、以下のようなコストが発生します。

オンプレミスサーバ導入時のコスト

  • 構成する機器のコスト:サーバ本体、USP(無停電電源装置)、ネットワーク機器など
  • 構成する機器の利用に必要なライセンスコスト:OSライセンス、CAL(クライアントアクセスライセンス)、ソフトウェア/ミドルウェアのライセンス、周辺機器の追加機能ライセンスなど
  • メーカーによる保守費用:5年間の保守パック製品や月額/年額払いの保守コスト

 これらの外部への支払いが発生するコストに加え、IT事業者による保守稼働に対する費用――本連載第1回で説明した「価格決定モデル」でいえば、「IT事業者側の運用管理費用」が発生します。これは、基本的には外部への支払いは発生しません。厳密に言えば「給与」という形で支払われますが、1つの提案案件の収支における仕入れ原価としては見なされず、100%が粗利として評価されるケースが多いと思います。

 一方、クラウド(Azure)の場合は、次のようなコスト構造となります。

クラウドのコスト構造

  • 構成するサービスの(インフラ)利用料:1カ月当たりの利用時間、保存データ量、回数といった「量」に対して、「リージョン」と呼ばれるデータセンターの地理的位置およびサービスのスペックや品質サイズごとに決められた単価を乗じた価格
  • 構成するサービス利用に必要なライセンス利用料:OSライセンス、ソフトウェア、ミドルウェアのライセンス費用。クラウド事業者から請求される場合は、上記の利用料と同様に利用時間といった「量」を基に、単価を乗じた価格。ライセンスを調達して持ち込む場合は、その取得費用も含む

 クラウドではIT事業者の外部に対して支払いが発生するコストは、基本的にはこの2つです。これにオンプレミスと同様、IT事業者による保守稼働に対する費用となる「IT事業者側の運用管理費用」が発生します。

価格決定モデルを構成するコスト――見えないコストを可視化する重要性

 ここで、本連載第1回を思い出してください。クラウドの「責任共有モデル」により、システムやサービスを提供するためのインフラの運用責任をクラウド事業者が一部背負い、その費用がクラウド利用料に含まれていると説明しました(図1)。

ALT 図1 本連載第1回で紹介した価格決定モデルの例

 また、中小IT事業者の顧客である中小企業では運用管理を丸投げしていることが多いため、この部分にコスト意識がありません。クラウドのコスト構造には、従来オンプレミスには含まれていなかった「運用管理のコスト」が含まれているため、コスト効率が悪く映ってしまうというわけです。

 クラウドを販売する側がそのコスト効率をオンプレミスと比較する場合、「見えないコストを可視化する」ことで、クラウドの自動化や冗長性で削減できることをエンドユーザーに明確にし、クラウドのコスト効率の優位性を示す、といった伝え方をしているクラウド事業者のWebサイトやクラウド提案セミナーが多くあります。

 しかし、本連載の対象としている中小IT事業者のエンドユーザーには、残念ながら当てはまらないことの方が多いと筆者は考えています。

 先ほども説明したように、そもそも見えないコストの大きな部分を占める「運用管理にまつわる人件費」を中心としたコストを中小IT事業者に丸投げしているわけなので、そういうアピールをしても全く響かないのです。

 では、可視化が無駄なのかというとそうではなく、可視化することのメリットはエンドユーザーではなく、中小IT事業者側にあるのです。

 見えないコストの例としては、停電や災害時の業務停止リスクといったものがあります。クラウドの場合は、クラウド事業者側で対処しますが、オンプレミスの場合は、IT事業者へ連絡が入り、営業担当者やエンジニアが対応することになります。この対応時間がコストになります。そもそも、休日夜間に機器障害が発生した場合の対応も、追加の人件費が発生する点においてコストです。

 また、クラウド、特にAzureの場合、ストレージは「ローカル冗長ストレージ」と呼ばれる最低限のものでも、3重でデータの複製が作成されます。これらの3重の複製先となるストレージに障害が発生しても、クラウド事業者のデータセンターで対処されます。一方、オンプレミスの場合は、たとえメーカーの保守契約があったとしても、保守の手配はIT事業者側で行うことがほとんどですから、こういった対応コストも発生します。ですから、これらの隠れたコストを可視化しておくことが重要になります。

 これらの可視化された見えないコストはクラウドを利用することで、その分のコストを「IT事業者側の運用管理費用」から減らせ、これらを含めたクラウド提案におけるコスト効率を高めていけるのです(図2)。

ALT 図2 IT事業者側の運用管理費用から“見えないコスト”を引く

 コスト効率を高めるためには、1年または3年の固定された期間にAzureのリソース利用を約束することで利用料を節約できる「予約インスタンス」や、本連載第1回で紹介した「Azureハイブリッド特典」を利用することも重要です。

中小IT事業者がエンドユーザーにクラウド提案を行う際のコストの見せ方

 エンドユーザーにクラウド提案する際、そのコストをオンプレミスのコストと同じように当てはめて提示する場合は、「構成する機器のコスト」「構成する機器の利用に必要なライセンスコスト」「メーカーによる保守費用」といったものは、メーカーから仕入れが発生する費用として説明しやすく、エンドユーザーにも理解してもらいやすいコストです。しかし、IT事業者側の運用管理費用については、IT事業者の人件費として見られやすくなります。

 クラウド提案の際には、「構成するサービスの(インフラ)利用料」と「構成するサービス利用に必要なライセンス利用料」が、メーカーからの仕入れが発生するコスト部分として認識されます。そして、この費用の60カ月分の費用と、オンプレミスにおける仕入れが発生するコスト部分を比較すると、オンプレミス側が安価になることが多くあります。

 ただ、先ほど述べたように、「運用管理」といったエンドユーザーにとっては見えないコストを基にIT事業者側の運用管理費用を減らした場合、クラウド提案に対してエンドユーザーの心象が悪くなりがちです。

 エンドユーザーから見れば、IT事業者側が得をするため、クラウドを提案しているように映ってしまうからです。クラウドのメリットを十分にエンドユーザーへ伝え、理解してもらえればよいのですが、残念ながらまだまだ中小企業におけるクラウド移行が進まない現状ではそれも難しいようです。

 例えば、商談のきっかけがオンプレミスハードウェアの保守期限切れの場合や、OSのサポート期限切れだったりすると、エンドユーザーは「別に今のままシステムは使えるし、困っていないのに」という思いが強くなります。現状のままでよいと考えている状況で新しい「クラウド」を提案され、そのメリットを享受するのがIT事業者側だけのように感じられてしまうと、クラウドの提案を進めることは難しくなります。

 では、どのように提案を進めるかというと、クラウド利用にかかるコスト部分と、IT事業者側の運用管理費用を1つの明細項目にして提示するのです。

 クラウド事業者のインフラを利用した「IT事業者独自のマネージドサービス」として提供するという形にします。こうすることで、コストの要素ごとに比較されることを避けられ、そもそも「所有のためのコストから」(資本的支出)から、「利用のためのコスト」(運用経費)への移行をエンドユーザーにも理解してもらいやすくするわけです(図3)。

ALT 図3 オンプレミス構成をクラウドでマネージドサービス化した場合の見積もり明細例

 なお、資本的支出が運用経費に変わることが、クラウドのメリットと伝えられることもありますが、本連載で想定しているエンドユーザーにはメリットとならない場合も多くあります。エンドユーザーが、システムの導入にオペレーティングリース(会計上のリース取引の一種)を利用する場合、そもそも現行のハードウェアやその上で稼働するアプリケーションの購入費も、資産計上されずに費用として処理される場合も多くあります。

Azureの販売におけるマネージドサービス化

 「マネージドサービス化」は、Microsoftも「クラウドソリューションプロバイダー(CSP)制度」の特徴として推奨しています。IT事業者がAzureを再販する上では、このCSP制度に基づく必要があります。CSP制度の詳しい説明はここではしませんが、CSP制度を使わずにエンドユーザーに代わってIT事業者がAzureを契約し、その利用料を請求する行為は、その購入方法によっては「製品条項」で禁止されています(画面1)。

ALT 画面1 Azureサービスの再販売および再頒布は禁止されている

 本稿の対象としている中小IT事業者でAzureを再販する場合は、CSP制度を利用することになります。CSP制度でAzureを再販する場合、MicrosoftのWebサイトの説明によると、独自のソリューションやサービスへのバンドルを認めており、マネージドサービスを付加価値サービスとして付けた上で販売できます(画面2)。

ALT 画面2 CSP制度の場合、マネージドサービス化や再販売できることが特徴として記載されている

 中小IT事業者がクラウドを提案するに当たって理解すべき、オンプレミスとのコスト構造の違いは、クラウド事業者側のコストに含まれている運用管理のコストにより、IT事業者側の運用管理コストが削減可能であるということです。その上で、エンドユーザーへ提示する際は、クラウドの利用料とIT事業者側の運用管理コストを含めたマネージドサービスとして提案することで、単純なコスト比較を避けることが可能になります。

運用効率の観点からAzureを選ぶ理由

 では、数あるクラウドサービスの中で、なぜAzureを選ぶのでしょうか。中小IT事業者にとっての実務的な理由は、やはり「Microsoft製品/サービスとの親和性の高さ」にあります。

 例えば、クラウドの仮想マシン上で動作するWindows Serverのイベントログを、クラウドサービスのインフラを利用して収集・分析し、エラーや障害が発生した場合は通知するといった、Windows Serverの運用監視の自動化が容易になります。

 Azureの場合、さまざまなインフラストラクチャの監視データを収集・分析する「Azure Monitor」サービスを使うと、Azure仮想マシン上のWindows Serverのイベントログを収集し、異常を検知した場合にアラートを通知するといった運用管理を「Azure Portal」のGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)の画面操作のみで設定できます。また、イベントをフィルタリングする場合の手順も、「Microsoft Learn」にスクリーンショット付きで解説されているので、他のクラウドサービスより比較的簡単に設定可能です。

 また、Azure Portalから「Windows Admin Center」を使用することで、Azure仮想マシンの管理UIを表示しなくても、Azure仮想マシン上のWindows Serverを管理することも可能です。

 エンドユーザー先に設置したWindows Serverにリモート接続してWindows Admin Centerを操作するよりもはるかに安全で、直接エンドユーザー先のサーバを操作しないため、操作ミスによるリスクも減らせます。

 これに、複数のテナントにまたがるAzureリソースを一元的に管理する「Azure Lighthouse」サービスを併用すると、さらにIT事業者側にとって、エンドユーザーに対する運用管理効率を上げることが可能です。

 これらAzureの特長を生かすことで、IT事業者側の運用管理コストをさらに削減することが可能になります。

まとめ

 オンプレミスとクラウドを単純に「どちらが安いか、高いか」で比較するのは適切ではありません。クラウドの価値は、「運用負荷の軽減」「可用性の向上」「障害リスクの低減」といった“目に見えにくいコストの削減”にあります。

 特に、中小企業では、運用担当者の不在や機器障害の対応遅れがシステム停止リスクを高めることになります。Azureを利用することで、これらのリスクを低減し、安定した業務継続性を実現できますが、これらを実現するために必要なコスト意識が希薄な中小企業ではメリットが伝わりにくい傾向にあります。

 そのため、提案を行う中小IT事業者自らが、付加サービスやマネージドサービスの形でAzureの利用料を取り込んだ価格を提示することで、単純なコスト比較によりクラウド提案が受け入れられない事態を避けられます。

 中小IT事業者にとって、クラウド提案は単なる販売手段ではなく、自社のサービスを拡張するビジネスモデルの転換点です。次回は、実際にエンドユーザーにAzureを提案する際の構成の基本と活用シナリオを紹介し、バックアップ/移行/リモート環境など具体的な提案パターンの橋渡しを行います。

筆者紹介

黒木 武範(くろき たけのり)

株式会社インテルレート 執行役員CTO。地方を中心とした複数の中小SIer(システムインテグレーター)や創業期のITベンチャーなどに所属していた経歴を持つ。営業からインフラの設計および構築、システム開発における設計や開発、テストといった、幅広い実務実績あり。SIerの自社パッケージ製品のクラウド対応を企画から販売体制まで構築した経験から、現職でMicrosoft AzureとAWSのプリセールス活動および構築支援を行っている。地方のSIerでの経験を生かし、SIerとエンドユーザーの関係性の実態に即した支援を得意とする。趣味はキャンプ。Snow Peak好き。


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