知っていると何かのときに役に立つかもしれないITに関するマメ知識。「iMac」「iPod」そして「iPhone」。ご存じの通りこれらはAppleの製品名です。実は「iPhone」という名前は、Appleが自由に使える名前ではなかったのです。歴史的製品「iPhone」が、その名前を巡って繰り広げた、知られざる商標権ゴタゴタについて解説します。
「iPhone」の世界中で繰り広げられた“名前の争奪戦”と和解の物語「iMac」「iPod」そして「iPhone」。ご存じの通りこれらはAppleの製品名です。頭に「i〜」が付くと、Apple製品と認識している人も多いかもしれません。でも、「iPhone」が「iPhone」ではなかったとしたらどうでしょう。実は「iPhone」という名前は、Appleが自由に使える名前ではなかったのです。歴史的製品「iPhone」が、その名前を巡って繰り広げた、知られざる商標権ゴタゴタについて解説します。
Appleが初代iPhoneを発表したのは2007年1月のことです。しかし、その7年前の2000年に、既に「iPhone」という名前は存在していました。ネットワーク機器ベンダーの「Infogear Technology」がVoIP(Voice over IP)電話機の名前として「iPhone」を使用しており、商標登録していました。
そのInfogear Technologyは、2000年にネットワーク機器大手のCisco Systemsに買収され、「iPhone」の商標権もCisco Systemsに移りました。AppleがiPhoneを発表した時点では、Cisco Systemsが「iPhone」の商標権を持っていたことになります。
iPhoneが発表されると、当然、Cisco Systemsは商標権の侵害であると訴えました。一方、Appleは「スマートフォンとVoIP電話機では異なる製品で競合するものではない」として、「iPhoneの名称は変更しない」と強気の姿勢を見せました。
Cisco Systemsは直ちに「商標権侵害」でAppleを提訴しました。iPhoneの発売を目前に控えたAppleにとっては、裁判によっては製品が出荷できなくなる可能性があるピンチを迎えてしまったのです。
歴史的な製品の船出は、いきなり法廷闘争から始まったのです。Appleがここで折れて、別の名前を採用していたら、今のiPhoneの成功はなかったかもしれませんね。
巨大企業間の商標紛争は、どちらも引くに引けず長引くものですが、この「iPhone戦争」は43日という異例の速さで終結しました。2007年2月21日には、両社が和解に達したと発表されました(Appleのプレスリリース「Ciscoとアップル、iPhoneの商標について合意」)。
AppleのCiscoとの商標合意に関するプレスリリース和解の核心は、「両者は販売するそれぞれの製品にiPhoneの商標を全世界的に自由に使用することができます」というものでした。どちらか一方が名前を独占するのではなく、両社の所有権を認め合った上での「共存」するという形で決着したのです。その他の合意内容は公開されていないため、金銭のやりとりなどがあったのかは分かりません。
Cisco Systemsは、ヨーロッパでも「iPhone」の商標を保有していたので、この和解によってアメリカとヨーロッパでの商標権の問題は解決したことになります。
iPhoneの商標権に関する問題は日本でも起きました。
日本の老舗インターホンメーカー「アイホン」が、国内では「アイホン」、海外では「AIPHONE」の商標を持っていたのです。アイホンといってもピンと来ない人も多いかもしれませんが、一戸建てやマンションのインターホンはアイホンとパナソニックの2社でほぼ寡占状態なので、自宅のインターホンはアイホン製かもしれませ。
Appleとアイホンの間で、商標に関する協議が行われました。結果、Appleはアイホンに商標の使用料を支払うことと、片仮名表記を「アイフォーン」と音引き(ー)を含むものとすることで合意したのです。
商標の使用料については公開されていませんが、アイホンの「有価証券報告書[PDF]」を見ると、48ページの「受取ロイヤリティー」に毎年1億5000万円が経常されているので、これがAppleから受け取っている商標使用料だと思われます。
アイホンの有価証券報告書また、Appleの日本語Webサイトの下部には、小さな文字で「iPhoneの商標は、アイホン株式会社のライセンスにもとづき使用されています。」という記載が確認できます。
Appleの日本語Webサイトアメリカや日本以外の国でもiPhoneに類似する商標で争いが起きます。メキシコでは、コールセンター向けのソフトウェアサービスを提供している「iFone S.A de C.V」との間で商標権での争いが置きました。
iFoneは、iPhoneが発売される前の2003年に「iFone」の商標を登録しています。Appleは、メキシコで「iPhone」の商標を登録する際、「iFone」が登録されていることを知ります。Appleは、「iFone」の商標登録の無効化を求めて訴えを起こすのですが、メキシコの裁判所は「iPhone」と「iFone」の発音が非常に似ているという理由で、Appleの訴えをしりぞけ、iFoneの商標権が認められました。
さらに、逆にiFone側が「iPhone」は商標権を侵害していると反訴しました。裁判の結果、iFone側の主張が受け入れられ、Appleが敗訴してしまいました。
裁判の結果を受けてAppleは、iFoneに和解金を支払って解決したといわれていますが、金額や条件などは明らかになっていません。ただ、Appleのメキシコ向けWebサイトでは、iPhoneの製品情報や購入方法などが掲載されているので、販売禁止までは至っていないようです。
Appleはこれらの商標紛争で、強硬な姿勢を見せつつも、最終的には金銭的な和解や名称の共有という柔軟な手段で「iPhone」という名前を守り抜きました。もしCisco Systemsと、日本でアイホンと和解できなければ、今手にしている「iPhone」は別の名前になっていたかもしれません。「iPhone」という名前を守るという強い意志と、スピード感のある対応こそが、iPhoneの歴史的な成功の裏側を支えていたといえるでしょう。
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