Gartnerは、AI由来の温室効果ガス排出が2028年にIT全体の50%へ拡大すると予測している。AIの学習や実行には大量の電力、専用インフラ、冷却設備が必要で、コスト増とサステナビリティ目標の阻害要因となる。持続可能なAI活用には、エネルギー使用量だけでなくライフサイクル全体を測定し、透明性を確保した包括的な管理枠組みの導入が不可欠だ。
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AIモデルの急速な進歩は、新たな産業を創出し、ビジネス変革を促進しているかもしれない。だが、その環境フットプリント(環境負荷)に対する懸念も、同様に急速に高まっている。Gartnerは、AIモデルが2028年までに、ITによる温室効果ガス(GHG)排出量の50%を占めるようになると予測している。2025年はこの割合は約10%にとどまる。
AIモデルのトレーニングと実行には、膨大なコンピューティング能力、新しいITインフラ、高度な冷却システムが必要となる。これらへの投資は予算を圧迫し、サステナビリティ(持続可能性)目標の達成を妨げかねない。
だが、AIの環境負荷は、エネルギー消費だけにとどまらない。水の使用、追跡困難なサプライチェーン、電子廃棄物、隠れたAIライフサイクルコストは、常に見過ごされる。ベンダーからの透明性のある、標準化された報告も乏しい。
AIの持続可能な導入を実現するには、AIの環境影響を測定し、軽減しなければならない。トレーニングや推論の直接的なエネルギー使用量を計算するだけでは不十分だ。
環境影響を真に管理するには、これまでの姿勢を改め、包括的な透明性を要求するとともに、持続可能性をビジネス戦略に統合する全体論的な測定フレームワークを採用する必要がある。そうして初めて、イノベーションと環境責任を両立させられる。
AIモデルの環境負荷を正確に測定することは、環境影響を管理するために不可欠だ。AIモデルの複雑さ(サイズ、パラメーター数、トレーニングデータの量、計算リソースの要件)は、その持続可能性とリソース消費を直接決定づける。
集計アプローチでは、AIのカーボンフットプリント(炭素負荷)をIT全体の負荷の一部として捉える。多くの場合、導入前後にベースライン測定を行い、PUE(電力使用効率)、WUE(水利用効率)、ITEU(IT機器利用率)、廃棄物といった主要指標に対するAIの相対的影響を評価する。
この手法により、ITによるGHG排出量に与えるAIの影響度を大まかに把握できるが、個々のAIモデルの具体的な環境影響についての洞察は得られない。各AIモデルの炭素負荷を正確に特定することはより困難だ。多くの大規模AIモデルのエネルギー消費量について、ベンダーから詳細なデータが提供されていないことが主な原因だ。
AIが持続可能性に与える影響の複雑さをより適切に把握するために、AIモデルのライフサイクルのさまざまな段階で環境負荷を定量化するのに役立つ、モデル固有の新たな手法が幾つか開発されている。その中には、AIの環境影響を構成要素(ハードウェア、ソフトウェア、データライフサイクル、水使用、エネルギー消費)に分解するものや、ソフトウェアベースの排出量追跡ツール、AIエネルギースコアなどが含まれる。
これらの手法の1つ以上を用いてスコープ1と2のGHG排出量への影響を定量化したら、スコープ3のサプライチェーン排出量を加えて、計算を完了させる。
これらは完璧な解決策ではないが、採用が進むにつれてその精度は急速に向上している。可能であれば、構成要素ベースの測定を優先するとよい。それが最も正確な測定手法だからだ。
社会的な反発は、効果的なAI導入に対する最大の障壁の一つだ。一部の国では、電力や水の安定供給に関する地域社会の懸念から、AIデータセンターの拡張計画に対するボイコットが発生し、遅延や中止に至ったケースもある。企業は運用効率だけでなく、AIインフラが社会や環境に与える広範な影響も評価しなければならない。
従来のデータセンター設計は効率と信頼性に重点を置いてきたが、社会的公平性を考慮することで、地域社会により広範な利益をもたらし、ステークホルダーの信頼を強化できる。
革新的な再利用スキームがその好例だ。このスキームには、近隣の建物にエネルギーを供給する熱回収システム、かんがいや産業利用を支援する水リサイクルの取り組み、電子廃棄物を最小限に抑えるための地元リサイクル業者との提携などが含まれる。
再生可能エネルギーへの公平なアクセスも利点だ。地域電力網に接続された新しい太陽光や風力発電施設に投資することで、AIデータセンター運営者は地域社会のクリーン電力利用を支援できる。同時に、エネルギー正義を促進し、利益の公平な分配を確保して、弱者が取り残されないようにすることも可能になる。
明確な持続可能性計画は、リーダーが環境責任を維持しながらAI利用を進めるために不可欠だ。これは、AIの開発とデプロイ(展開)のあらゆる段階で持続可能性を考慮し、ライフサイクル全体にわたって排出量を計算し、削減の機会を組み込むことを意味する。
最も効果的な削減方法の一つは、モデルの効率化だ。エネルギー効率や炭素効率の良いモデル(計算量が少なくて済むスパースアーキテクチャなど)を設計することで、エネルギー使用量を大幅に削減できる。
事前トレーニング済みモデルの活用も、トレーニングに必要なリソースの削減につながる。例えば、コーディングタスクにChatGPTのような汎用(はんよう)LLMを使用する代わりに、コーディング支援に特化したモデルを使用すれば、はるかに低い環境コストで同等の機能が得られる。
インフラも重要な役割を果たす。クラウド展開では多くの場合、規模の経済が働く他、再生可能エネルギー利用を推進しているプロバイダーを利用することになるが、全てのAIワークロードが等しく恩恵を受けるわけではない。エネルギー供給源を慎重に最適化している場合、オンプレミスインフラの方が持続可能性が高いケースもある。
透明性、再生可能エネルギー調達、運用効率を考慮し、展開の選択肢をケースバイケースで評価することが重要だ。
結局のところ、持続可能なAI戦略を構築する目的は、単に二酸化炭素排出量を削減することではない。イノベーションを長期的なレジリエンス(回復力)と整合させ、自社が環境を損なうことなく、AIの恩恵を活用できるようにすることにある。
出典:Managing AI’s environmental impact(Gartner)
※この記事は、2025年10月に執筆されたものです。
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