「COBOL人材がいない」、基幹システムのレガシー継承に向けた模索が進む鍵になるのは生成AI?

仕様が把握できない、他システムとの連携ができないなど、老朽化・陳腐化するレガシーシステムの移行需要が高まる一方、議論の対象になっているのがCOBOL人材の不足だ。その課題解決を模索する動きが目立っている。

» 2025年12月26日 05時00分 公開
[遠藤文康@IT]

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 企業の基幹業務を支えてきたプログラミング言語「COBOL」。仕様が把握できない、他システムとの連携ができないなど、COBOLで構築されたシステムが“レガシー化”する一方、そうしたレガシーシステムを扱える人材は不足。その問題が顕著になっていることを背景に、システムの維持・刷新やスキル継承を模索する取り組みも進んでいる。生成AI(人工知能)技術の活用も追い風になっている。

レガシーシステムの負のスパイラル

 AMC ソフトウェアジャパンは2025年10月28日に開催した「モダナイゼーション フォーラム 2025」で、長年にわたって使われてきたCOBOLで構築されたシステムなどのレガシーシステムが、多くの企業にとって引き続き重要な存在でありながらも、その維持・刷新に当たっての課題解決もまた重要なテーマになっていることを強調した。情報処理推進機構(IPA)の「2024年度ソフトウェア動向調査」では、レガシーシステム移行の状況に関して「レガシーシステムを現在も使用中」に該当する企業は56.6%となっている。

画像 レガシーシステムの現状:移行の状況(提供:AMC ソフトウェアジャパン)

 既存のシステムを破棄し、移行は実施しないと判断した回答は、わずか0.8%にとどまる。移行が完了している、あるいは実施中の層が一定ある一方で、レガシーシステムが事業に不可欠な存在でありつつも、抜本的な決断が先送りされている状況がうかがえる。

 移行が進まない要因としては、人材不足や予算不足、業務部門の抵抗、他のプロジェクトに対する優先度の低さなどが挙げられる。AMC ソフトウェアジャパンは、こうした要因が複雑に絡み合い、移行の長期化によって投資効果への納得感が得られにくくなる悪循環に陥っている点を指摘する。その背景には、既存システムの複雑さによって作業が困難になるといったブラックボックス化の問題や、現状からの変更に対する不安や抵抗感があることが示唆された。

背景には人材、スキル不足

 COBOLなどの言語の人材不足やスキル継承に起因する喫緊の課題は、基幹システムの維持・刷新を現実的に進めるための新たな動きを呼んでいる。トヨタグループのシステムインテグレーターであるトヨタシステムズは、次世代人材が生成AIツールを活用して基幹システム開発に向き合うための取り組みを発表。こうした動きの背景にも、旧来システムに関する技術確保の難しさや、ブラックボックス化したシステムを改修する難しさといった課題がある。

COBOL人材不足の解消に向けた模索が進む

 こうしたレガシーシステム移行の課題解決に向けた動きが、特定の企業に限られたものではないことは市場動向からも読み取れる。デロイト トーマツ ミック経済研究所のレポート「レガシー&オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場動向 2025年度版」によると、国内の同市場は2024年度から2029年度まで年平均成長率(CAGR)10.0%で成長する見通しだ。メインフレームを中心としたレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場は、2023年度の3480億円に対し、2025年度には5118億円へと拡大する。

画像 レガシー&オープンレガシーマイグレーション全体の市場規模予測(提供:デロイト トーマツ ミック経済研究所

 案件数では、メインフレームから別のプラットフォームに乗せ換える「リホスト」が増加している。一方で売り上げベースでは、既存システムを再構築する「リビルド」や、「Java」など別の言語へ書き換える「リライト」の伸びが目立つという。中でもリビルドについては、メインフレームからの撤退を発表している富士通も積極的に展開しているとされる。

 一方でオープン系のレガシーシステムを対象としたオープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場では、2023年度の7515億円に対し、2025年度は1兆619億円となる見込み。

COBOL人材不足に向き合う取り組みが活発化

 こうしてマイグレーション、モダナイゼーションの需要が引き続き堅調な一方で活発になっているのが、COBOLの人材不足に向き合うための取り組みだ。前述のトヨタシステムズは、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)の支援の下、次世代人材が生成AIツールを活用して基幹システム開発に取り組む「レガシーコードラボ」を2025年10月に設立した。COBOLや「PL/I」といった言語の開発力維持とスキル継承を主な目的としている。こうした言語の専門人材が高齢化する一方、次世代人材の育成や確保が課題となっていることが背景にある。

 同社は、生成AIを活用した開発支援ツール「TG4X」(Toyota Systems GenAI for DX)を日本IBMと共同で開発した。COBOLやPL/Iでの開発経験がない人材でも、TG4Xを通じてコードや仕様の理解、生成を行えるようにする狙いだ。

 SCSKは、FPTコンサルティングジャパンと合弁会社「COBOL PARK」を2025年3月に設立する。主にメインフレームを利用している組織に対して、既存システムの維持やマイグレーションの支援を提供する。この取り組みの背景には、同様の課題感がある。COBOLを中心とした技術のエンジニア育成が、熟練技術者の高齢化や若手の学習者減少といった要因により難しくなっているのだ。

 COBOLの専門知識が希薄な開発者を支援する取り組みとしては、COBOLで構築されたソースコードをJavaに自動変換するサービスもある。例えば伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、レガシーシステムのモダナイゼーションを支援する独自サービス「re:Modern」の提供を2025年10月28日に開始した。単なる言語変換にとどまらず、要件定義から保守・教育支援、運用フェーズまでを視野に入れているという。

生成AIの使いどころを見極める

 レガシーシステムの専門人材不足が深刻化する中で、課題解決の手段として注目を集めるのが生成AI(人工知能)だ。だが重要なのは、生成AIを「どう活用するか」にある。効果的に活用するには、まず解決すべき課題を正しく見極める必要がある。

 AMC ソフトウェアジャパンは、先述のユーザーカンファレンスでこの点に言及。「技術者の育成に時間がかかる」という課題に対しては、スムーズな開発やデバッグを支援する手段として、サンプルコードや技術ドキュメントの生成、コード補完機能などが有効だとした。また「ナレッジ(知識)が未整備で、情報検索に時間がかかる」といった悩みに対しては、自然言語でのナレッジ検索機能が役立つと説明した。

 一方で、生成AIには誤った回答を出力するリスクがある点にも注意が必要だ。さらに、生成AIの出力結果をそのまま受け入れてしまうと、開発者が学習する機会を失い、将来的にシステムの中身が不透明になる「ブラックボックス化」を進行させる要因にもなりかねないと、同社は生成AIを活用するに当たって重視すべき観点を挙げる。

 同様に、モダナイゼーションフォーラムのセッションでは、コードの説明やレビュー、メンテナンス作業を効率化するための“コードを読み飛ばすテクニック”、さらにコードの生成に関しては特にテストコードを大量に書く場合には生成AIの活用が有用だと紹介された。

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