米ベンチャーキャピタル最大手が、国内スタートアップ企業の開拓に乗り出した。日本に期待するものとは何か。そもそも同社の投資戦略とはどのようなものなのだろうか。
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米ベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、以下a16z)は近く東京に拠点を設立し、国内スタートアップ企業に対する投資活動を本格化する。優れた日本の起業家を発掘し、日本の官民投資家と協力して支援していきたいという。
2026年2月前半には、東京都内で起業家、投資関係者をそれぞれ対象とした カンファレンスを開催。日本企業投資第1号として、日本人起業家が米国で設立したShizuku AI(シズクAI)への出資を発表した。
2009年設立のa16zは世界最大級のVC。ソフトウェアスタートアップを中心に、アーリーステージの投資を手掛けている。資金を供給した後アドバイスを与えるという伝統的なVCの役割に留まらず、投資先の製品戦略や販売戦略、人材獲得などに直接深く関わるという特徴がある。
今回投資したシズクAIは、AIキャラクターを展開する企業。バーチャルYouTuberの「しずく」は完全に自動で歌を歌ったり、インタラクティブにおしゃべりしたりできる。同社は日本に研究開発拠点を設け、人間に寄り添うコンパニオンとしてのしずくの機能を高める一方、新たなキャラクターの開発を進める。
a16zが考える日本の強みは、まずコンテンツIPだ。ゲームやアニメをはじめとして、世界に通じるコンテンツを生み出す土壌があり、制作ノウハウも優れている。これをAIと掛け合わせることで、さらにスケールさせることができるという。
「日本には優れたIPがたくさんある。そして生成AIはコンテンツ制作を助けることに大きな価値がある。例えばソニーのような企業は、自社の膨大なコンテンツでAIモデルをトレーニングすることで、次世代のエンターテインメントを開発することも可能だ」(a16z ゼネラルパートナー、マーティン・カサド氏、以下同)。
次にロボティクス。日本の得意分野として知られてきたが、中国がAIを活用してキャッチアップを進め、強力なプレーヤーとなっている。だが、日本のスタートアップは国家間の緊張を踏まえ、米国市場への重要なサプライヤーとしてAIロボットを開発していける、という。
また、「日本には多数の優秀なAI研究者がいる。基盤モデルを開発してほしい」ともカサド氏は話す。
現在のところ、LLM(大規模言語モデル)は事実上米国と中国の独占状態。だが国や地域レベルでスクラッチから開発した独自のAIモデルを持つことは、ソブリンAIの観点から重要だとする。
日本はシステムやマイクロチップで成功を収めた歴史がある一方、ソフトウェアではうまくいったことがない。だがAIモデルはソフトウェアというよりシステム/マイクロチップに近い。大量の資金が必要で、非常に複雑なプロジェクトだからだ。日本にとってはいいビジネスチャンスになる、という。
「日本政府によるAI投資の少なさに驚いている」
AIモデルの開発には膨大な資金が必要だ。スタートアップ企業は国や大企業の助けがなければやっていけない。国はもっと積極的に支援するべきだという。
AIとは単なる技術的イノベーションではなく、資本の在り方そのものの変革でもあるとカサド氏は言う。
「Anthropicの最新モデルClaude 4.6はわずか20人のチームによって開発された一方、巨額の資本インフラが必要となっている。米国では小規模なチームに数十億ドル規模の資金を投じることに抵抗のないベンチャーキャピタルや大企業、政府が存在しているが、他国では必ずしもそうでないのが現状だ」
AIへの投資に大きなリスクが伴うのは事実。a16zはそもそもどういう戦略で投資しているのか。
同社では、「最大の失敗は大きな勝者に投資し損ねること」と考えているという。投資の半分はうまくいかない。実際のリターンの大半は、ほんの数件の成功案件から生まれる。
まず、有望だと思える市場を全て検討する。それぞれの市場が将来大きくなるかどうかは予測せず、各市場で「最高の企業」を選び出す。
各市場を狙う企業全てに会い、チーム、技術力、生産性を評価する。明確なリーダー企業がいると判断したら、そこに大きく投資する。明確な市場が存在していない場合は「人」に投資する。複数の優秀な創業者が同様なビジネスチャンスに挑もうとしているなら、それだけで市場があるとみなす。
投資判断の軸は、「チーム」「技術的アプローチ」「ビジネスモデル」だという。
「例えばTabularという企業があった。データベースのテーブル形式という非常にニッチな分野だ。3社ほど競合があったが、1社だけ明らかに技術もチームも優れていた。そこに投資し、数年以内に(Databricksに)買収された。結果的に、私たちの持ち分は何十倍にもなった。その1件の成功だけで、うまくいかなかった投資分をはるかに上回る利益が出た」
AIの世界では、これまでの投資に関する常識が通用しないとカサド氏は説明する。以前は、資金を与えてもすぐに大きな成長が生まれるわけではなかった。資金を出して、じっと待つのが普通だった。しかし今は、資金を投入するとモデルが作られ、すぐに急成長が起きる。ただし、その成長は長くは続かない。するとまた資金調達が必要になる。成長がさらに多くの資金需要を生み出す、というサイクルが生まれている。
「新しい世界に入った。投資家も考え方を変えるべきだと思う」
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