IPアドレスは“通信相手を識別するための番号”というのは、一般に広く認識されていることだが、IPアドレスの価値はそれだけにとどまらない。位置情報の判定や不正検知、マーケティングなどさまざまな目的で使われている。IPv4だけでも約43億個あるIPアドレスを網羅的に調査してきた創業者に、その利用価値を聞いた。
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IPアドレスは「通信相手を識別する番号」として一般に広く理解されているが、IPアドレスの役割や価値はそれにとどまらない。IPアドレスに付随する情報は、位置情報の判定や、金融サービスにおける不正検知、マーケティング戦略などさまざまな分野で活用されている。
IPアドレスに活用の価値があることとは別に、IPアドレス“そのものの価値”という側面もある。IPv6(Internet Protocol version 6)のアドレスが普及する中で話題になる機会も減ったが、IPv4(Internet Protocol version 4)のアドレスが枯渇していることを背景に、IPアドレスは移転・売買の対象となってきた。
こうしたIPアドレスの利用動向をよく知る会社がある。約43億個のIPv4アドレスを含め、IPアドレスにひも付く位置情報を網羅的に調査し、データベース化してきたGeolocation Technology(旧:サイバーエリアリサーチ)だ。同社は2000年の創業以来、IPアドレスにひも付く位置情報や企業情報の提供、IPアドレスの移転など、IPアドレスに関する事業を手掛けてきた。
前編『なぜIPアドレスで「どこにいるか」が判別できる? IPv4、IPv6を網羅するデータベースの正体』では、同社創業者で代表取締役社長の山本敬介氏へのインタビューを基に、同社がどのようにしてIPアドレスごとの位置情報を調査し、事業化してきたのかを紹介した。
本稿ではIPアドレスからどのような情報が分かりどのような利用価値があるのか、また売買の対象にもなっているIPアドレスの枯渇と移転などについてまとめる。
まず、IPアドレスからどのような情報が分かるのか。山本氏によれば、IPアドレスから引き出せる情報は3つに大別できる。
1つ目は前編でも紹介した位置情報。IPアドレスそのものに位置情報に直接的に結び付く情報が含まれているわけではないが、公開情報や運用情報を組み合わせることで判定できるようにする。IPアドレスは、IPアドレスの割り当てを担うインターネットレジストリによって管理され、ISP(インターネットサービスプロバイダー)などの組織にどのIPアドレス帯が割り振られているのかが公開されている。日本ではJPNIC(Japan Network Information Center)がそうした「WHOIS」(IPアドレスやドメイン名の登録情報を照会する仕組み)の情報を提供している。
ただしこうした公開情報で分かるのは、あくまで登録上の割当先までだ。Geolocation Technologyの場合は独自の調査データを組み合わせて、国から都道府県、市区町村といったレベルまで判別できるようにしている。その中でも2つの基本的な手法がある。手掛かりの一つになる情報としては、IPアドレスからホスト名(IPアドレスにひも付いた機器やサーバの名称)を逆引きすることによって得られる場所に関する情報があるという。例えば「shizuoka」といった名称が含まれていれば、静岡周辺の設備に収容されていると考えられる(図1)。
IPアドレスの逆引きで位置情報を特定できない場合は、ルーター名など通信経路上の情報を参照し、それらに含まれる地域識別子などから位置情報を推定する手法もある(図2)。IPアドレス逆引きによる判定、またはこうした経路情報による判定を組み合わせた結果などに基づいて判定可能になるという。
2つ目が企業情報。山本氏によればこれは同社のサービスとしてもよく使われており、法人名はもちろんのこと、その企業の住所や電話番号などの連絡先、売上高や従業員数といった企業属性などが含まれる。
この企業情報もIPアドレスから直接的に判別できるものではない。例えばIPアドレスからドメイン名を逆引きし、関連するWebサイトなど調査することで企業情報の特定につなげることができるという。そうした関連情報をデータベース化することで、IPアドレスにひも付いた企業情報を提供できるようになる。
こうした企業情報は、例えば自社のWebサイトや記事にアクセスしたIPアドレスから、どこの企業に所属する人が関心を寄せているのかを把握することが可能になるので、マーケティング戦略として活用したり、連絡先も併せて入手できれば、営業活動そのものに直結させたりすることもできる。最近では、「Google Analytics」のようなアクセス解析ツールや、マーケティングオートメーション(MA)と連携させて活用しているケースが目立つという。
モバイルの利用も
近年は会社からのアクセスに限らず、テレワークで自宅のネットワークから仕事で必要な情報にアクセスする機会が広がっている。こうした利用トレンドを踏まえて、モバイルデバイスにひも付いた地域や会社属性の情報も提供できるように開発を進めている。これは同社のデータベース「SURFPOINT」の新たな拡張として、近くリリース予定とのことで「業界内からの期待も大きい」(山本氏)。
3つ目がインターネット回線種別などのネットワーク情報。光ファイバーの「FTTH」(Fiber To The Home)なのか、「ADSL」(Asymmetric Digital Subscriber Line)なのかといった利用回線や、ISPの情報が含まれる。
例えば、正規のユーザーであれば利用する回線やISPを頻繁に変更することはないという前提に立てば、こうした回線情報は不正アクセス対策に応用できる。
Torなどの匿名ネットワーク
「VPN」(Virtual Private Network)や、匿名性の高いインターネット通信を実現する技術およびネットワーク「Tor」(The Onion Router)など、身元を秘匿するために使われるネットワークについても特定できる。
金融サービスでは悪意を持ったユーザーが身元を隠して不正を働くためにTorを悪用することがあるので、「アクセス元やIPアドレスを偽装してやってきたものをリスクとして判定するために使われる傾向にある」(山本氏)。
データベース上でIPアドレスにひも付けられる情報はさまざまだ。SURFPOINTでは、国勢調査データや刑法犯データ、気象データといった情報もある。
「IPアドレスにどのような情報を付属させられるかについては日々模索している」と言う山本氏。その活用に関しても、セキュリティ分野をはじめ、応用し切れていない領域はまだ多いという。例えば「接続先となるURLをIPアドレスに変換し、それがリスクのある国のIPアドレスであれば接続をブロックする」といった仕組みをネットワーク機器に実装できる可能性もあるだろう。
こうしたIPアドレスに付随する情報は“IPアドレスの利用価値”だと言えるが、IPアドレスの価値はそれだけではない。IPアドレスそのものが売買の対象になっているという側面もある。
IPv4のアドレスは約43億個に限られ、世界のIPアドレスを管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)が2011年に在庫が枯渇したことを発表した。その後、各地域のインターネットレジストリでも新規割り当てが終了していった。こうしてIPv4のアドレスが有限であることを背景に、IPアドレス枯渇の根本的な対策としてはIPv6の導入が必要という前提には立ちつつ、使用していないIPアドレスを移転し、効率的な割り振りができるよう、移転に関するポリシーが策定された。こうしてIPアドレスを新規に大量に割り当てる必要がある事業者を中心に、IPアドレスの移転、売買への関心が高まってきたといういきさつがある。
これまでにも市場全体でIPv4アドレスの供給が追い付かない傾向にあり、売価は上昇。「IPv4はそれだけ希少性のあるものになった」(山本氏)。Geolocation TechnologyとしてもIPアドレスを移転するサービスを提供しており、3年ほど前までは「1社で6万件を買いたい」という案件もあったそうだ。一方で、そうした移転案件の交渉を進める中では、そもそも「IPアドレスが売買の対象になり、買いたい人がいるだけの価値がある」ということに驚く企業も珍しくなかったという。
とはいえ、IPv4アドレスの売価は上昇傾向にあったが、「そうした傾向は必ずしも続かない」と山本氏は語る。プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスを変換する「NAT」(Network Address Translation)による組織内での効率的な利用や、IPv4とIPv6の混在環境に対応したネットワーク機器の普及などもあり、企業が直ちに大量のIPv4アドレスを追加取得しなければならない状況は減りつつあるようだ。
なお、アジア太平洋地域におけるIPアドレスの割り当てを担うAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)は、「IPv4.Global」(IPv4アドレスの売買・移転を仲介)のデータを引用し、2016年以前にアドレス当たり10ドル未満で安定していたが、2020年半ば〜2022年には45〜60ドルに上昇したとまとめている。直近では(2026年1月10日までの直近40日間)の平均はアドレス当たり22ドル程度で落ち着いているという。
IPアドレスが「通信相手を識別する番号」であることに変わりはないが、それにはさまざまな利用価値がある。業務のデジタル化やセキュリティリスクの高まり、インターネットに接続する端末やシステムの多様化が進む今、こうしたIPアドレスの利活用に関する基本を知っておいて損はないだろう。
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