知っている人が転職先に:転職を阻む意外な落とし穴(8)
転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。
世間は狭い
今年から、弊社にも数名の中途採用者が入社しています。その1人に、私の学生時代からの友人(仮名:友田氏)が勤めているS社から転職してきた女性がいます(年齢は私と同じです)。彼女は大学卒業後、S社に新卒で入社したそうです。同期は何十人もいるので、まさかとは思ったのですが、「同期で友田さんって知らない?」と聞いてみました。すると何と2人は同期で一番仲の良い友達で、寮まで同じだったというのです。世間は狭いと実感した瞬間でした。
実は弊社を通じて転職された方からも、よく似たお話を聞くことがあります。転職したら幼なじみがいた、昔の上司とまた働くことになった、などなど。親しくなるような人とは、選ぶ会社や仕事の志向も似てくる、ということがあるのでしょうか。
転職先に思わぬ人が
転職先に友達がいたケースでは、偶然の縁を喜ぶハッピーな事件で済むのですが、偶然の縁が転職の思わぬ障壁になったり、モチベーションが下がるケースもあるのです。
大手ネットワークインテグレータ(SI)T社から、さらなるスキル向上と年収アップを目指し転職活動を始めた伊東氏(仮名)は、希望の企業U社から内々定を得るまで進みました。
そして具体的な年収交渉のため、前職の給与基準や希望年収についての面談をしていたときのことです。U社にT社で同部署だった先輩(浅野氏)がいたことが分かったのです。面接官に「いろいろと仕事で苦労したと聞きましたよ」といわれ、浅野氏が自分の仕事ぶりなどを面接官に話したことが分かったのです。
先輩の浅野氏から面接官に自分の実績がどう伝えられているのかに不安を覚えた伊東氏は、それが気になって、自身の待遇に対する考え、要望を十分に伝えきれないまま面談を終えてしまったのでした。ただ、それを知らずに強気な交渉を続けていたら、話がこじれてしまう可能性があったかもしれません。
モチベーションに影響が
また、こんなこともありました。ソフトウェアベンダV社の開発SE職から、顧客交渉やマネジメントの力を身に付けて、経験と視野を広げたいと、SI企業W社の面接に臨んだ川田氏(仮名)。面接後、その感想を彼に聞くと、「よい結果は出ないと思います。私も正直、どうしても入りたい気持ちがなくなってきました」というのです。
驚いて面接内容を聞くと、慣れない面接であまりうまくPRできなかった、という反省もあったのですが、面接官が開発パートナーとの交渉担当をしている方で、川田氏が勤めている会社の人とも緊密なネットワークを持っているようで、社長から開発メンバーまで多くの人と面識がある、ということでした。
そのうえその面接官は、「御社と新しいビジネスができないかと思っているんですよ」と、少し商談のような雰囲気にもなってしまったそうです。
新しい環境へのチャレンジ、と意気込んで面接に臨んでいた川田氏にとっては、少し肩透かしを食わされたような気分になったようでした。さらに疑心暗鬼なのかもしれませんが、その企業に入社したら、現在勤めているV社とのつながりを生かした仕事を任されてるのでは、と考えたようです。
採用を決定する立場からすると、応募者の働きぶりを知っている人間が内部にいるのであれば、意見を聞いてみたいということもありますし、仕事上で共通のネットワークがあればそれを話題にするのも、必ずしも不自然なことではないかもしれません。
悪いことだけではない人的ネットワーク
この2人の例のように、転職のきっかけや目的によって、「意外なご縁」が邪魔をしてしまうことはあります。
いままでの仕事ぶりや人間関係に何か後ろめたいことがあるかどうか、ということではないにしても、転職とは少なからず「新しい環境」を求める思いがあるものです。その思いが転職のモチベーションの支えになっている方にとっては、人的ネットワークに足をひっぱられてしまうのです。
人のつながりばかりは防ぐ術がありませんし、すべてを把握したうえで転職活動をするのは不可能です。「世間は狭い」とはよくいいますが、こんなポイントもあるのだと、頭のどこかに記憶されているといいかもしれません。
が、思わぬネットワークが逆によいチャンスを生み出したり、面接でより深くコミュニケーションできた、という例も数多くあります。人的なネットワークは重要なことです。IT企業では、そうした人的なネットワークで採用がとんとん拍子で進んだり、商談が進むことが多いようです。IT企業には限りませんが、人的なネットワークはビジネスに欠かせない重要な要素だと思います。
著者紹介
石川裕麻(いしかわゆま)
早稲田大学教育学部を卒業後、キャリアデザインセンターへ入社。転職雑誌『type』の広告営業を経験後、人材紹介事業部での営業とキャリアカウンセリングを担当。
マーケティング部へ異動し現在に至る。
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