キャリアアップ=転職時代のリスクとは転職を阻む意外な落とし穴(3)

転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。

» 2003年10月09日 00時00分 公開
[鈴木敦子キャリアデザインセンター]

キャリアアップ=転職が当たり前に

 キャリアを積むために転職する。そんな考えや生き方が当たり前な時代になりました。

 転職がまれだった時代には、「石橋をたたいて渡る」という言葉のごとく、事前に転職に対しての下調べを十分過ぎるほど行う必要がありました。転職をした場合の金銭的な問題、職場環境の問題など、念には念を入れて確認をする、そうしたスタンスが当然だったようです。ところが転職が一般的となった最近では、転職に関するデメリットをまったく意識せず、いきなり行動に移す方が多くなりました。しかし、それがために思ってもいなかったリスクに見舞われることもあるのです。

 今回は、転職をする際にどのようなリスクやデメリットが考えられるのか、いくつかの例を挙げながら解説していきましょう。

ボーナスがない!

 半年後に結婚を控え、マンションを購入したエンジニアの柴田さん(仮名:29歳)。マンションはローンで購入したものの、今後の結婚生活を考えると現状の年収では厳しいと判断し、転職を決意しました。そして転職活動の末、無事年収アップとなる大手ベンダへの転職を果たしました。が、この時点で彼は非常に重要な金銭的デメリットに気付いていなかったのです。

 気付いていなかったのは、ボーナスのことでした。転職直後には、ボーナスが支払われることはまずありません。ボーナス支給時に入社後3カ月ほどだった柴田さんは、会社の規定により支払われませんでした。が、すでにマンション購入でローンを組んでいた柴田さんは、うっかり目の前のボーナスに関するデメリットを見落としていたのです。

 「1回分のボーナスをあきらめる」ことは、転職で避けられないデメリットといえます。日本にある企業の9割9分は、転職して半年に満たない従業員へのボーナスを支払っていません。つまり、柴田さんはこのデメリットを転職前に確実に把握し、ボーナスが1回分ないことを前提に転職に挑むか、転職時期を調整する、といったことが必要だったと思います。

まあ、なんとかなるだろう、のはずが……

 富岡さん(仮名:27歳)は、社員20名ほどの急成長しているベンチャー企業で働いていました。新卒で入社した当時から昼も夜も休日もなく働いて、やっと会社が成長軌道に乗ってきたタイミングで、私のところに相談にきたのです。

 「ある程度スキルも身に付き、そろそろ普通の生活をしながら働きたい」。それが富岡さんの要望でした。富岡さんは実力がある方だったのですぐに転職できました。が、われわれスタッフからすると心配な点が1つあったのです。

 それは、富岡さんが日系の中堅ソフトハウスに転職したことです。そのソフトハウスは、彼がいままでいた急成長ベンチャーとは正反対の社風を持つ企業でした。富岡さん自身はそれが気に入ったのか、「大丈夫です。すぐになじめます」とはいっていましたが……。

 そしてその心配が現実のものとなりました。彼が相談しに来たのです。そのときに漏らした不満点とは、「中途入社した社員の昇進・昇給は、プロパーの社員に比べて明らかに遅い」というものでした。結局、実績を出している自分がなぜ評価されないのかという不満に耐え切れず、彼はその半年後に退職しました。

 富岡さんの場合は、デメリットを甘く見たケースです。中途採用社員の数が多く、評価もプロパーと対等になされる。それが富岡さんの所属していたベンチャー企業の社風です。その意識がどこかに残っており、転職先でもそうだろうと高をくくっていたのでしょう。

 こういった、「当然だと思っていたことがそうではない」ことは、転職ではよくある話です。自分ではおかしいと思っても、その企業では当然のルールであったりし、それに異を唱える意見は簡単に聞き入れられることはありません。こうしたことをなるべく避けるため、社風の違いを把握すること、そしてそれによって起こり得る事態をなるべく多く想定しておき、転職するかどうかの判断材料にすべきでしょう。

転職後、同じ仕事が待っていた

 東条さん(仮名:26歳)は一貫して金融系プロジェクトにかかわってきたCOBOLエンジニアです。システムのオープン化の流れを受け、自分自身の市場価値が徐々に落ちてきていることを実感し、キャリアチェンジのために転職を希望しました。転職活動で苦労した末、彼のポテンシャルを評価してくれた某受託システムインテグレータに転職しました。そしてそこからのキャリアアップを夢に描いていたのです。

 が、なんと入社すると配属先は前職と同様、金融系の汎用プロジェクト。利用する言語もCOBOLだったのです。上司からは「このプロジェクトの人員がどうしても足りないので、少しの間だけ助けてくれ」といわれ、渋々引き受けたのですが、5カ月経過しても人員補強がされる様子はまったくないとのこと。簡単に辞めるつもりはないのですが、このままの状況が続くのでは、と東条さんは気が気ではない様子です。

 東条さんのように、会社の状況の変化によって仕事内容が変わることはあります。社内の誰もが予想していなかったことがほとんどで、回避が難しいデメリットです。転職の際には、最悪な状況としてこうしたことも十分にあり得るのだ、という認識を持っておくべきでしょう。そのうえで、自分の転職理由やチャレンジしたいことをきちんと伝えておくことが必要だと思います。そのリスクを背負うのが嫌であれば、転職をしないという選択肢も考えましょう。

 このように、転職によって環境が変わることでさまざまなデメリットが生じることはあるのです。自分自身でキャリアを切り開いていく姿勢を持った方が多くなったことは喜ばしいのですが、どうも足元がおぼつかない方が多くなっているのも事実のようです。キャリアアップというメリットのウラに、何かしらのリスクやデメリットが確実にあることを決してお忘れなきように。

著者紹介

鈴木敦子

青山学院大学教育学科を卒業後、キャリアデザインセンターへ入社。転職誌『type』の広告営業、人材紹介営業を経てマーケティング課へ異動、現在に至る。中途採用人材による企業の活性化を願い、転職希望者の心理を考え続ける日々を送っている。



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