転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。
1年前のある飲み会で、友人がある会社に転職を決めたと語った。会社の名前は聞けば誰もが知っている有名企業で、いわゆる“優良企業”の1つだ。その席では皆が「おめでとう」といい合って盛り上がったのだが……。
それから半年後、彼と再会した。すると転職した企業を「辞めたい」と思っているとのこと。彼が辞めたいと思った理由はうまく表現できないようだが、簡単にいえば「それまでの企業のカルチャーと違いを感じ、ウマが合わない」ようだ。
1年前に彼からその会社の名前を聞いたときにふと思ったのは、「あの会社も中途採用をしていたんだ」ということだった。
日本の企業では、大企業でもまだまだ中途採用をさほどしていないところは多い。または、人材不足が顕著な部署に限って中途採用を行っていたり、ようやく中途採用を開始した、といった企業も少なくない。
こうした場合、中途採用の受け入れ態勢が企業に、とりわけ現場にできていないことが多い。そもそも経営側や人事で採用方針を決定していても、現場では中途採用を必要としていないと考えている場合すらあるのだ。
彼もそのような状況にあった。社員のほとんどはプロパー社員で、社員の体質をひと言でいえば体育会系という。そのため、上下関係も厳しい。彼自身は学生時代に体育会系だったので、別にその体質が苦手とか嫌いなわけではない。ただ、途中からそこに入るのが大変だったようだ。
配属された部門でも、新卒社員として扱えばいいのか、同年代の社員と同じように扱ってよいのか分からなかったが、結局は新卒として扱うようになったという。また、彼の上司は、その企業のプロパー社員と同じように彼に接することはできないようで、その結果、彼は微妙な立場になってしまったようなのだ。
エンジニアの場合、そうした受け入れ態勢のゆがみは、特にプロジェクトへのかかわり方に直接影響してしまう。プロジェクトのリーダーを任せたいといわれて入社したはずが、現場では中途採用者にマネジメントを任せることへの反発・批判が強く、リーダー経験が一向に積めない、という例も実際にある。
中途採用に慣れていない企業では、中途入社した者に対するフォロー体制が整っていない場合もある。マネジメント方法、開発の進め方など、その度企業に固有のノウハウを伝える場がなく、プロジェクトで十分な力を発揮できないこともある。
こうした問題を抱える企業のケースは少なくない(今後、中途採用をしていなかった企業も徐々に中途採用をするだろうと考えると、一層深刻な問題となる可能性がある)。通常は有名大手企業に転職となると、その時点で成功と考える場合が多いだろうが……。
上記のような例は極端だとしても、多かれ少なかれ、慣れ親しんだ環境とのカルチャーの違いはあるものだ。
ただ、それを知っておくのと、知らないでいるのとでは、心構えも違えば、実際にそれに直面した場合の対応にも違いが出てくるだろう。
では、それをあらかじめ確認する方法はあるのだろうか。客観的な意見や情報があればいうことはない。人材紹介会社を利用している場合、担当のコンサルタントなどに聞いてみてほしい。意外に思われるかもしれないが、率直に情報などを話してくれるはずだ。自分で直接確かめる場合は、面接時が勝負である。
面接時に人事担当や現場の人間に、これまで中途採用で入社した人の現在の様子などを聞くことだ。実際に中途入社の先輩と面談をアレンジしてもらうこともできるかもしれない。そうすれば、かなり実情を知ることができるだろう。また、面接官それぞれに、募集しているポジションで入社する人には、具体的にどういった役割を期待しているのか、という質問をぶつけるのも手だ。その返答があまりにばらばらなようであれば、不安要素は大きいかもしれない。
いずれにしても、よっぽど中途採用の多い企業でなければ、受け入れる側には、当初抵抗感があるのは自然なことだし、新しい組織の中で存在感を得ていくことは、多少なりとも苦労を要するものだ。むしろ、現場がその気でなくても自分がその組織に新風を吹かせるのだ、というくらいの気概が必要かもしれない。
野村 健次(のむらけんじ)
広島県出身。大学卒業後、大手住宅メーカーで個人向け営業を4年担当後、転職し大手化学製品メーカーで法人営業を1年経験。その後キャリアデザインセンターへ転職。「自分自身、悩みの連続だった」という転職経験を生かし、人材紹介事業部にて営業とキャリアカウンセリングを担当。ソフトウェア・IT系ベンダなどを得意とする。
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