退職したいと申し出た後のトラブル対処法:転職を阻む意外な落とし穴(10)
転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。
退職面談
転職活動においては、入社と同時に退職というイベントがあります。退職交渉時には、引き止められること、すんなり受け入れられること、さらには退職日を延ばされることなど、いろいろなケースがあります。
退職面談も、退職者本人のことを考えてくれる上司と、上司自身の評価やいま現在のプロジェクトのことだけを考えて退職時期を延ばさせるということがあります。その中でも以下のような特例なケースがありました。
退職を申し出たら
27歳で初めての転職活動を成功させたAさんの話です。大学卒業以来5年間お世話になった会社に退職の申し出をしました。もちろん残るメンバーのことを考え2カ月間はしっかり引き継ぎをすると申し出たところ、上司から「退職を認めない」といわれたのです。
そこまではよくある話です。引き止めてくれるのは、自分を戦力と認めてくれている場合もあれば、会社によっては自分の部門で退職者が出ると部門長自身の査定が下がるから、部門長が自身のことだけを考え、退職を認めないというケースもあります。
今回の方は、次の転職先が決まっているため、退職の強い意志を上司に伝えました。しかし一向に認めてもらえません。そこで人事に直接退職届を提出したところ、上司から呼び出されて「本当に退職するのであれば退職理由に解雇と書く。それだと次の会社に影響がある。だからこのプロジェクトが終わる1年後までは辞めるな」と脅されたのです。どうやら上司は部下の将来のことを考えていない方だったようです。
技術者の場合は特に、急な退職はアサインされているプロジェクトへの影響が少なからず発生しますので、退職の交渉が難しくなるケースが多いようです。ですがそれが本当に調整不可能なものかどうかを考えることなく、会社としての、もしくは上司としての都合を押し付けられてしまう場合もあるのです。
退職と解雇
さて、「解雇にするぞ」と脅されたAさんは、労働者の味方である「労働基準監督所」(注)に相談に行きました。そこでAさんは解雇といわれ脅されたことに対して、どうしたらよいか相談しました。しかし、相談員からは「会社と本人の相談のうえ決めてください」とのことで、相談に乗ってくれなかったそうです。たまたま忙しかったのか、その相談員がやる気がなかったのか。もちろん親身に相談に乗ってくれる相談員もいるのですが……。
(注)労働基準監督所とは、過剰労働やサービス残業など労働基準法が著しく守られていない会社を注意指導する役目を持つ公的機関。
Aさんからそのことを聞き、私は過去の人事経験から得た知識も生かして対策を考えました。
まず、退職に関して労働基準法では、「退職の2週間前に意思を表示する」とあるためAさんは退職希望日よりも2カ月前に申し出たため、問題はありませんでした。会社側からは、「本当に辞めるのであれば5日以内に辞めろ。有給休暇も与えない」といわれたそうです。いわゆる解雇になるのですが、雇用主(企業)は解雇の場合1カ月前に労働者に伝えないといけません。1カ月未満で辞めさせる場合は、雇用主は労働者に1カ月分の給与を支払わなくてはいけません。
私はAさんにそのことを伝え、Aさんから人事に「解雇の場合は1カ月分の給与をもらえるはずですよね」というようにと伝えました。もちろんAさんには人事にあくまでも質問のように、喧嘩にならないよう冷静にいうように伝えました。
円満な退社
結果Aさんは、退職を申し出て2週間で勤務終了、有給休暇も取れて新しい会社に入社。結局円満な退社になりました。
Aさんと同じように退職でてこずる転職希望者も少なくはないかと思います。退職に際して法律を盾に強引な交渉もあまりよくはないですし、弱気になってもいけません。
退職交渉の前に、まずなぜ退職をしようと思ったのかを再度思い出してください。自分のキャリアプランとじっくり向き合った末の転職だということをきちんと伝えられれば、納得してもらえるはずです。
転職の際は冷静沈着に、現在の会社への迷惑も最小限に抑えつつ、自分にも不利にならない円満退社がいいですね。
しかし迷惑が掛からないということを考えすぎて転職の時期を逃してしまうこともあります。
重要なことは自分自身
同じように退職交渉がうまくいかなかったために、交渉自体がストレスになって嫌になってしまったり、説得されて自責の念にかられたりで転職をやめてしまった人も実は少なくありません。しかしたとえ転職することをいったんあきらめたとしても、退職の意思を伝えた事実のせいで、残った会社にいづらくなることもあるものです。
迷ってしまうこともあるかと思いますが、最後は本当にご自身が希望されていることは何なのかを優先させ、じっくり考えていただきたいと思います。なぜなら会社はあなたの人生の保証はしてくれないからです。どんな会社に行っても自分の実力を日々心掛け、実行していればきっといい転職もできるはずです。
それにしても公的機関も人材紹介も、自分にマッチした相談員にめぐり合うことが重要ですね。
余談ですが、Aさんは転職してすでに1年以上経過しています。自分の実力を発揮できる会社に転職して大変活躍されています。環境も重要だと再認識させていただきました。いまでも暑中見舞い、年賀状を交換しています。
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