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セットアップ全国行脚で九州弁に大苦戦システム開発プロジェクトの現場から(2)(2/2 ページ)

開発現場は日々の仕事の場であるとともに、学びの場でもある。先輩エンジニアが過去に直面した困難の数々、そこから学んだスキルや考え方を紹介する。

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店舗向け機器をセットアップ

 クライアントは一般のブティックショップへの卸売りと、直営店での小売りを商流としています。直営店は全国各地にあり、百貨店・ホテル内のテナントと著名な商業地の路面店とに分けられます。私は小売チームの一員として、これら直営店への店舗系のシステム導入を担当することになりました。

 カットオーバーまで残すところあと数カ月というころ、全国16店舗分のPCや機器類のセットアップと発送が私の仕事になりました。新品のPCにさまざまなコンポーネントをインストールし、ネットワークや周辺機器類の設定をして発送する作業です。

 セットアップの手順は複雑で、しかも時間に追われながらの作業となってしまいました。できるだけ短い時間で作業を済ませようとするあまり、つい整理や確認がおろそかになってしまい、「あるはずの機器がない!」ということもたびたびでした。

 皆が帰った後オフィスの中を探し回り、ようやく見つけ出してはほっと胸をなでおろしました。最終的には事なきを得ましたが、お客さんの資産を紛失しかけたのですから、そのときはさすがに青くなったものです。

 それからは、店舗ごとに機器類を仕分けて機器リストを用意し、モノを動かすときには必ずリストにチェックするようにしました。そういった手間が頭の切り替えにもつながり、結果的には確実かつ効率的なんですね。

 何とか期日までにすべての店舗分の準備を終えることができました。手塩にかけた(?)機器類を発送するときは、わが子を旅に出す親のような気持ちがしました。

全国行脚開始

 発送した機器類は、当然ながら各店舗に設置して動作する状態にし、店員の皆さんに使い方を覚えてもらわなければなりません。直営店は、北は北海道・札幌から南は九州・小倉まで各地に点在しています。飛行機や新幹線を使い、約1カ月半ですべてを回らなければならないという強行軍でした。

 「稲井くん、北海道行く?」「はぁ、北海道は好きですが……?」。この短いやりとりをもって、私がその強行軍の担当者に任命されたのでした。

 日程的には厳しかったのですが、苦労して準備してきたシステムと機器類に命を吹き込む最後の段階です。ユーザーである店員さんが普段どのようにシステムに触れているかを知る良い機会でもあり、やりがいを感じながら旅路につきました。

 最初の数店は順調に納品作業を終えることができましたが、新宿の店舗では動作確認の段階でつまずいてしまいました。機器類の配線までは順調だったものの、ネットワークがつながらず、ウンともスンともいわないのです。発送前にセットアップしたときの手順書を引っ張り出し、ひととおり設定を見直してみても問題はありません。

 仕方がないので百貨店側に問い合わせてみると、設備の担当者の方がやって来ました。事情を説明して確認してもらうと、「すみません、T1とT2が逆でした。いやぁ、最近工事したんですよね。そのとき間違ったみたいです」……。

 店舗側のネットワーク回線はISDNを利用していました。ISDNには極性があるため、2本のケーブルをそれぞれ正しく接続しないと通信ができません。以前百貨店側が店内の工事をしたときに、このケーブルを逆につないでいたという、うそのような手違いが原因でした。

 ほどなくして修理が完了したという連絡が入り、無事にpingも通ってシステムも立ち上がりました。その日は駆け足で店員さんにシステムの説明をし、何とか納品を終えることができました。

小倉にて

 納品日程の後半に入るころには、一連の作業もお手のものになっていましたが、小倉のお店では思わぬ苦労がありました。

 お店を訪れてごあいさつをし、会話を始めたあたりまではよかったのですが、お互いに慣れてくるとだんだん店員さんも親しげに話してくれるようになります。それはもちろんありがたいことなのですが、親しさに比例するかのように九州弁が勢力を増していくのです。聞いたことのない単語が徐々に増え、話すスピードも上がっていき……。半日も過ぎたころには、うかうかしていると半分も聞き取れませんでした。

 「すみません、少し聞き取れませんでした。もう一度お願いできますか?」。そう何度も聞き返しながら、どうにかひととおりの説明を終えることができました。

 それにしても国内の出張で意思の疎通に困るとは、思いもよらないことでした。店員さん同士が世間話をしているときなど、私はまったくついていけず、まるで異国にいるような気がしたものです。

 しかし帰るころには、温かみと愛きょうのある九州弁のファンになっていました。九州は食べ物もおいしく、また訪れたい土地です。

Xプロジェクトで得られたもの

 Xプロジェクトは開発手法としては成熟していない点が多々ありましたが、1つのシステムを導入するのに必要となるさまざまな要素を含み、その多くに私自身が実作業の担当者として加わることができました。ここでの経験は、私のキャリアにおける礎となっていると思います。

 苦労もたくさんありましたが、あのときプロジェクトへの配属を打診してくれた上司には(皮肉でなく)とても感謝しています。また、配属を申し出た自分の判断も間違っていなかったと(強がりでなく)確信しています。

 余談ですが、お店に伺っている間、ふらりと訪れては気軽な様子で商品を購入していくお客さんをたびたび見掛けました。

 お世話になっている以上、私も何か購入させていただかねばと思いましたが、何しろブランドショップですから値札にはそれ相応の数字が並んでいます。何度か逡巡しましたが、若輩の私には残念ながらついに手が出せませんでした……。

筆者紹介

アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ

稲井紀茂

1972年生まれ。神戸生まれの大阪育ち。大阪でプログラマ、システムエンジニアとして約7年を過ごした後、2003年にアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズに入社し上京。主に流通業・製造業の販売管理・SCM系システムの構築に携わり、現在に至る。



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