開発現場は日々の仕事の場であるとともに、学びの場でもある。先輩エンジニアが過去に直面した困難の数々、そこから学んだスキルや考え方を紹介する。
前回(連載第2回「セットアップ全国行脚で九州弁に大苦戦」)紹介したプロジェクトで設計・開発工程をひと通り経験し、クライアントとも良好な関係を築けたことで、私の中には自信が生まれていました。
そして次のプロジェクトに移ることになったとき、新たな目標として次のことを心に決め、意気揚々と乗り込んでいきました。
ところがいざ新しいプロジェクトに着任してみると、上司から与えられた仕事は「(クライアントとの打ち合わせで作成された)手書きのメモをWordで清書して、議事録を作ってください。あと、書類のファイリングと整理もお願いします」というものでした。その後も簡単な仕事しか任せてもらえず、自分が思い描いていた仕事内容とのあまりのギャップに、愕然(がくぜん)としました。
私は自分の仕事内容には自信を持っていましたし、周囲からもそれなりの評価をいただいていました。しかし、新しいプロジェクトの上司には、そのようなことは伝わっていなかったのです。
私が協力会社(つまり社外の人間)という立場だったこともあり、上司にしてみれば責任ある仕事は任せにくいし、能力も分からないので当たり障りのない仕事を与えておこうということだったのでしょう。その考えも分からなくはありませんが、着実にキャリアを築いていきたいと思っている自分にとっては切実な問題です。こんな環境ではやっていられないと思い、またも転職を決意しました。
「『協力会社』ではない立場で仕事ができる」ことを条件に、仕事の合間を縫って転職活動を進めた結果、1社から内定をもらいました。しかし、その会社から提示されたサラリーは、残念ながら現状を10%近くも下回るものでした。
面接のときに給与水準を伝えていたにもかかわらず、このレベルの提示にとどまったということは、私が人材として評価されなかったことを意味します。厳しい結果を突きつけられ、非常にショックでした。
しかし、あらためて「自分は第三者の目にも明らかな実績をこれまでに挙げているのか」「自分の能力を示す客観的な証左を示せたのか」と考えてみると、答えはNoでした。
市場の厳しさを思い知った私は、安易に転職に逃げようとした考えを捨て、新しい環境で自分を認めてもらうにはどうしたらいいか、組織の中で自分のポジションを築いていくにはどうすべきか、というアプローチで考えることにしました。
新しいプロジェクトは、クライアントの基幹業務全般をスコープとしていました。カバーする範囲が広いので、データベースも複雑で規模の大きなものになり、必然的にその設計・実装・運用において相応のスキルを持った要員が必要となるはずです。ところが、そういった人材がアサインされる気配は一向になく、そもそも社内を見渡しても存在していないのです。
だからといってそのまま放置していれば、プロジェクトが頓挫するのは火を見るよりも明らかです。「いったいどうするつもりだろう。どうなっても知らないよ」。モチベーションの低かった私は、最初そう思っていました。
しかし、誰も手掛けていない領域があることは、自分のポジションを作るという意味で絶好のチャンスです。また、プロジェクトとしての弱点を見て見ぬふりをすることに、当事者の1人として心苦しさを感じてもいました。
「いっそ、自分自身がデータベースの管理者を引き受けようか。現時点では知識はないけれど」。私はこう考えました。スキルもない状態ではいささかむちゃな発想だったかもしれませんが、過去の経験から、独習方式で切り抜けられるだろうという自信だけはありました。何より、ほかから人材を調達できない以上、現有戦力の誰かがやらざるを得ないのです。
データベースは自分にとって、本来やりたい領域ではありませんでしたが、責任ある難しい仕事であり、挑戦する価値は十分にあります。それに、その中で仕事ぶりを認められれば、ほかの重要な仕事を任せてもらえることにつながるかもしれません。やはりやらない手はないと考えました。
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