AIってこんな簡単なこともできないんですか?――注文の多い広告代理店:コンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(3)(2/2 ページ)
正式発注をエサに、契約前作業を強いられたソフトウェア開発会社「マッキンリーテクノロジー」。営業の日高は3週間かけて作ったプロトタイプを持ち込み、顧客の前でデモを行ったが……。
エンジニアって、どうして身勝手なのかしら
日高の話を聞いていた「A&Dコンサルティング」の江里口美咲が、「ふっ」とため息をついた。
「中途半端な準備でAIのデモなんて、かえって評価を落としてしまうわ。そのくらいのこと分からなかったの?」
「タダで作ったデモシステムなんですから、それくらいのことは相手も分かっているかと……」
「そんなのは『作り手の理屈』よ。顧客には目の前で動くものが全てなの。アンタたちソフトウェア開発会社の人間は、どうしてそう身勝手なのかしら。『ユーザーは何も知らないくせに文句だけ言う』なんて言うけど、結局はエンジニアの方がユーザーのことを知らずに手前勝手な理屈を押し付けてるってことじゃない?」――美咲の声が硬くなった。
「そんなことは……」
「不安なのよ、ユーザーは。目に見えないソフトウェアなんてものに多額のお金を払って、場合によっては社運まで賭けようっていうんだから。身勝手なのは当たり前だし、目の前で意図と違う動きをするシステムを見せられたら文句だって言いたくなるわ」
「それは、まあ……」
「いくらデモだ、実験だって言ったって、ユーザーがある程度の『品質』を求めるのは当たり前。やるなら、ユーザーの『要望』や『知識レベル』をしっかり理解した上で『デモストーリー』を作らなきゃいけないし、『何ができて何ができない』かを『事前』に浸透させておくことも大事。AIの場合はなおさら。アンタはクリエーターどころか、生駒さん相手にもそれをやらなかったんでしょ? だから、デモが紛糾したときに味方になってくれなかった。違う?」
「はあ……」――日高には反論の言葉が思いつかなかった。
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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