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取り戻せないのなら、無力化しちゃいましょ――あらかじめ失われたノウハウたちよコンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(7)(3/3 ページ)

チラシ制作システム発注詐欺で「北上エージェンシー」の生駒が企てたのは、「マッキンリーテクノロジー」のAI学習ノウハウを無料でかすめ取ることだった。ことの真相を知った江里口美咲が向かった先は――。

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アレはまずいですよ

 そのころ北上エージェンシーでは、生駒がアルプスソフトウェアの丹波部長からかかってきた電話に上機嫌で応答していた。格安の値段に割り引きさせて同社と契約すれば、前のプロジェクトで作った赤字を帳消しにできる、とたくらんでいたからだ。

tamba

 「生駒さん。申し訳ないんですけどね。ウチはあの話からは手を引こうかと……」

 丹波の意外な言葉に、生駒は思わず立ち上がった――「な、何ですって! どういうことですか?」

 「言いにくいんですが、御社がマッキンリーにやったこと。アレはまずいですよ」

 「アレ?」

 「契約をちらつかせて無償で開発を行わせ、その成果物を他社――わが社に提供して格安でシステムを作らせるなんて。御社は差額でもうけが出るかもしれませんが、そんなことをされたんじゃ、われわれベンダーはたまりません」

ikoma

 「い、いや……それでも、広告作成に関するAI学習は、御社にもそれなりに価値のあるものになるじゃないですか。悪い話じゃないでしょ?」

 「そのノウハウ、主要部分が月刊アットマークアイティに掲載されるらしいですよ」

 「な、何だってー!」

 「そうなれば、わざわざ開発費用を抑えてまで御社からいただく必要もなくなるわけです」

 「そ、そんな……」

 「とにかく御社とのお付き合いは、今後も控えさせていただきます。では」

 「ちょっと、丹波さん……丹波さん!」

 丹波が電話を切ったことを知り、生駒は机の脇にあったゴミ箱を蹴った。

 (畜生!)

 アルプスが契約しないというならそれは仕方がない。しかしAIの学習ノウハウが公開され、それが北上エージェンシーがマッキンリーをだまして手に入れたものであることが知られれば、もうどのITベンダーも北上を相手にしなくなる。生駒の赤字補填計画などまったく成り立たなくなってしまうのだ。




書籍

システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。

※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる


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