そうだ、京都に行こう――LINEが京都の街中に開発拠点を作る、たった1つの理由:U&Iターンの理想と現実(48)(3/3 ページ)
どんな経緯で移住し、どのように暮らしているのか――LINE KYOTOで働くにエンジニア2人に話を伺った。
グローバルなチームが成功するまでを体感したい
もう1人は上野賢一さん。福島出身、茨城のテクノロジー系ベンチャー企業を経て、2010年1月にNaver Japan(現LINE)に入社した。iOSやSwiftに詳しいエンジニアだ。
LINEは、仕事に関係のある海外イベントに1年に1度参加できる制度があるため、上野さんは2年に1度はアップルの開発者向けイベントWWWCに足を運んでいる。
上野さんは京都オフィスに来たことを「オレ、上洛(じょうらく:「京都へ行く」の意)」と表現し、どや顔で笑う。京都オフィスの募集があった時に、手を挙げ異動した口だ。その理由を、「グローバルなチームがどうスケールしていくのかを見てみたくて」と上野さんは話す。
異動前から、海外にある関連企業と連携しながら仕事をし、海外出張も多かった。国を超えて仕事をすること、グローバルなチームの規模を広げることに興味があった。上野さんは「何がキーとなり、成功するのか」に高い関心があった。
京都オフィスは海外からの人材が多い。さらに、現在は小規模だが、人数も事業もこれから育つ拠点である。上野さんには絶好の学びの場に見えた。「ここで組織が大きくなるところを直に経験したい」と考えたのだ。
上野さんは単身赴任だ。
京都オフィス近くに部屋を借りているが、泊まるのは平日のみ。金曜夜には新幹線で東京へ帰る。週末を家族と過ごし、月曜の朝6時台の新幹線に乗る。京都駅からオフィスへ直行し、9時台には出社しているという。京都で働くことを「(家族は)熱心にサポートしてくれます」と話す。
単身赴任なので、身軽な家具付き賃貸を借りた。場所はオフィスからほぼ1駅、平日の通勤はかなり楽になった。
上野さんの得意分野はiOSやSwiftなので、普段はiPhone向けアプリやSDKの開発をしている。SwiftというとiOS用アプリ向けの言語だが、あえてサーバサイド用の開発で使ったこともある。「変態的な使い方ですよね」と上野さんは笑う。それだけSwiftを使いこなせる証拠でもある。
京都オフィスオープン記念イベントの準備にも携わった。京都オフィスに設置されているフォトブースの開発も上野さんによるものだ。Clovaでカメラを起動し、撮影した記念写真をLINEを通じて配布する。社員の家族向けイベントでも使われるなど、社内で人気だ。
Clovaでカメラを起動して記念撮影するアプリ。撮影した写真はオフィス内のモニターに表示され、QRコードを読み込むとLINEから写真を入手できる。写真はワークショップでLINE KYOTOに訪れていた東京、福岡の開発メンバー
オフィスの窓からはにぎやかな京都市内を見下ろせる。「京都といえば、カフェがめちゃ多いんですよね」「そうそう!」と杉さんと盛り上がる。
企業が魅力的な土地に開発拠点を構える意味
2人に今後の展望を聞いてみた。
上野さんは「組織のスケールアップをここで経験したい」と話す。高いスキルを持ちつつ、現在はチームビルディングなど人を育てることに関心がある。昔の開発ではスーパーエンジニアが何でもこなすこともあったが、今の開発はチーム力が重要だ。チームをうまく回し、大きくするための極意の模索がしばらく続きそうだ。
杉さんは将来についてあまり具体的には定めていない。ふわりと「しばらくは京都にいるんでしょうね」と話す。
杉さんは、機械学習(TensorFlow)によるアイドル顔識別(画像認識)の開発にも取り組んでいる。まだ機械学習が今ほど認知されていない早い段階からだ。力まず自然体で身軽に行動に移し、新技術を素早く使いこなせるエンジニアだ。今はClova開発だが、京都にいる間に多くの新技術への挑戦や新プロジェクトを達成することだろう。
どのIT企業も優秀なエンジニアの確保は重要な課題だ。2人の話を聞くと、エンジニアが住みたい土地に開発拠点を構えるというLINEの採用戦略は、うまくいっているようだ。
企業のこういう考え方は、エンジニアにとっても朗報だ。満員電車の通勤から解放され、魅力ある土地、開発に集中できるオフィスで働けたら、生産性も高まる。
LINE KYOTOの「エンジニアファースト」なオフィスの発展に期待したい。
(取材協力:LINE)
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加山恵美
フリーランスライター。
茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供したい。
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