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sXGPやローカル5Gより、「プライベート5G」への期待が大きい理由とは羽ばたけ!ネットワークエンジニア(35)

前回はPHSの公衆サービス終了を目前に控えたタイミングで、自営PHSの後継とされる「sXGP」について紹介した。今回は同様に今後の企業内ネットワークとなる「ローカル5G」と「プライベート5G」を解説し、sXGPと併せて3つの方式を比較しよう。

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 前回は公衆サービス終了を目前に控えたタイミングということもあり、自営PHS「sXGP」について紹介した。今回は同様に今後の企業内ネットワークとなる「ローカル5G」と「プライベート5G」を解説し、sXGPと併せて3つの方式を比較しよう。

 ローカル5Gは2019年12月に制度化され、電波の周波数帯が割り当てられて利用可能になった。工場内や敷地内に自社専用のコアネットワーク(コア)設備や基地局を設置して構築する5Gネットワークだ。キャリアの5Gとローカル5Gには図1のように周波数帯が割り当てられている。


図1 キャリア5G/ローカル5Gの周波数帯割り当て

 ローカル5G(1)〜(3)は2020年12月に利用可能になる予定だ。この中で(1)の4.6G〜4.8GHz帯は屋外では使用できない。屋内でも一部地域で使用できない。(2)の4.8G〜4.9GHz帯は屋内利用に制限はないものの、一部地域では屋外利用できないといった制限がある。2020年12月の制度改正では、後述するSAタイプのローカル5Gも構築可能になる。

 5Gは「NSA」(Non Stand Alone)と「SA」(Stand Alone)の2方式に分かれる。5Gコアの製品が出る前に5Gネットワークの構築を可能にするのがNSAの狙いだ。図2のようにNSAでは4G(LTE)コアを使用し、制御信号は4G基地局を使う。データ通信のみ5G基地局を使用する。

 SAはコア、基地局とも5G設備を利用する。制御信号、データともに5G基地局を使う。


図2 5Gのネットワーク「NSA」と「SA」の違い

Wi-Fiと比較した場合のNSAのメリットは?

 NSAを用いたローカル5Gの構成例を図3に示す。工場内で無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)を5Gでコントロールし、部材の運搬やマシナリーセンターへのセットを自動化する。Wi-Fiと比較して電波干渉の心配がないこと、高速であることがメリットだ。

 ただし、NSAでは5Gの3つの特徴「超高速」「超低遅延」「多端末接続」のうち、超高速しか実現できない。


図3 NSAローカル5Gのネットワーク構成例 工場で使われる例を示した

 電話はスマートフォンを使ったIP電話として実現する。キャリアの電波を用いていないため、キャリアの携帯電話サービスは使えない。内線/外線通話をつかさどるIP-PBX(IP Private Branch eXchanger:IP電話対応の構内交換機)の他、採用するローカル5Gネットワークで使用できるスマートフォンとそのスマートフォンで使える通話アプリケーション(ソフトフォン)が必要だ。

 ここで心配なのはローカル5Gで使えるスマートフォンがあるかどうかだ。キャリアが使う5Gスマートフォンはキャリアの周波数帯をサポートする。だが、わざわざローカル5Gの周波数帯をサポートする可能性は低い。キャリアには1000万単位のスマートフォンユーザーがいるが、ローカル5Gでのスマートフォンユーザーは桁違いに少ないはずだからだ。

SAを用いたローカル5Gのメリットは

 SAのローカル5Gの構成は図4のようになる。コア、基地局とも5G設備となり、5Gの3つの特徴全てを実現できる。5Gネットワークを仮想的に複数のネットワークに分けて使うスライシングにも対応する。必要となる速度や遅延、信頼性などの条件の違いに応じてネットワークをスライシングすることで、5Gネットワークをより効果的に利用し、セキュリティを高めることができる。


図4 SAローカル5Gのネットワーク構成例 工場で使われる例を示した

 電話をIP電話として実現する点はNSAと変わらないし、使えるスマートフォンがあるかどうか懸念があることも同様だ。電話はローカル5Gのアキレス腱(けん)といえるだろう。電話なんてどうでもよい、IoTができればよい、などという意見もあるだろう。だが電話が不必要な工場や病院など存在しないことを忘れてはいけない。

プライベート5Gは導入のハードルが低く、電話の問題もない

 プライベート5Gはキャリアに割り当てられた電波を使い、キャリアがサービスとして企業内5Gネットワークを提供するものだ。企業が設備投資する必要はないし、ローカル5Gのように免許を取る面倒な手続きも必要ない。

 構成は図5のようになる。5Gコアはキャリア網を使う。企業内にはゲートウェイや基地局を設置する。5Gの周波数帯はサブ6(6GHz未満の周波数帯)であっても4Gよりかなり高いため、電波の直進性から工場内やオフィス内に電波を届かせるには基地局の設置が不可欠だ。企業内に設置する設備も所有者はキャリアであり、サービスとして企業に提供されることになるだろう。


図5 プライベート5Gのネットワーク構成イメージ

 ローカル5Gと違って電話の心配は全くない。スマートフォンはキャリアが豊富な種類を用意し、キャリアの電波を使った電話が可能だ。FMC(Fixed Mobile Convergence)サービスを使えば内線番号による内線電話も可能であり、図には表現していないものの、必要なら既設のPBXとの連携もできる。SAなのでスライシングも可能だ。

 ソフトバンクがプライベート5Gのサービスを2022年に始めると、2020年5月に発表済みだ。SAと時期を合わせているのだろう。5G先進国である韓国ではすでにプライベート5Gが実用化されており、大企業のスマート工場で使われているだけでなく、中小の自動車部品工場でも採用されている。コストの壁が低いので中小企業でも導入できるのだろう。

プライベート5Gは何が優れているのか

 筆者はsXGPやローカル5Gより、プライベート5Gに期待している。その理由は表1の比較を見れば明らかだろう。


表1 sXGP、ローカル5G、プライベート5Gの比較

 sXGPはローカル5Gに比べて設備費用の安さがメリットだ。だが、機能や性能が物足りないし、PHSの後継としては使える電話端末(スマートフォン)が限定され過ぎている。代表的なsXGPベンダーでも国産のスマートフォン2機種しかサポートしていない(2020年12月現在)。果たしてその国産メーカーは5年後もスマートフォンを作っているだろうか。

 ローカル5Gは大企業にとってさえハードルが高い。費用負担が大きいだけでなく、免許の取得や干渉調整など導入には壁がある。基地局と端末を維持するためには毎年電波使用料を国に払う必要がある。端末を1台増やすと支払いのためにどのような手間がかかるのだろうか、キャリアからスマートフォンを1台購入するくらい簡単にできるのだろうか、などと心配になる。電話をサポートするのも大変だ。

 プライベート5Gは企業にとって導入のハードルが低く、運用負荷も少ない。電話は当たり前に使えるし、スマートフォンも豊富な機種から選択できる。

 ソフトバンクだけでなく、NTTドコモやKDDIもプライベート5Gの計画を早期に明らかにし、競い合って良いサービスを創出してほしいものだ。企業は目の前にあるという理由だけでsXGPやローカル5Gに飛び付くのではなく、プライベート5Gとしっかり比較してから決断すべきだ。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECデジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート。


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