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「ミリ波」だから速いわけじゃない、5GでのSub6とミリ波の使い分け羽ばたけ!ネットワークエンジニア(40)

企業における5Gの利用は実証実験段階から実用段階に入りつつある。5Gで使う電波にはSub6とミリ波がある。「5Gはミリ波があるから超高速」と思われがちだが、ミリ波を使えば超高速になるとは限らない。5Gの実用に向けてSub6とミリ波の使い分けを復習しておこう。

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 2019年12月に総務省がローカル5Gを制度化し、電波が割り当てられた。これを受けて2019年末から企業などでローカル5Gの実証実験が始まった。

 2020年春には大手携帯通信事業者が相次いで5Gサービスを開始し、5G対応のスマートフォンを発売した。5G実用化の幕が開けたのだ。5Gには超高速、超低遅延、超多端末接続という3つの特徴があるが、現在のキャリア5GはNSA(Non Stand Alone)という制御用に4Gを使う5Gなので超高速しか実現できない。SA(Stand Alone)によるサービスは2021年中にも始まる見込みだ。SAでは5Gの3つの特徴が全て実現する。

 さて、5Gで使う電波には6GHz以下の周波数帯「Sub6」と28GHzを超える周波数帯「ミリ波」がある。「5Gが速いのはミリ波が使えるからだ」と思われがちだ。しかし、ミリ波を使うから速いということではない。5Gを効果的に利用するため、Sub6とミリ波の特徴と使い分けについて復習しよう。

ミリ波でも「超高速」ではなかった2020年のローカル5G

 5Gの周波数割り当てを図1に示す。Sub6は大手携帯事業者に100MHz幅単位で割り当てられている。2020年12月にはローカル5Gに4.6G〜4.9GHzの300MHz幅が割り当てられた。


図1 キャリア5G/ローカル5Gの周波数割り当て

 ミリ波は大手携帯事業者に400MHz幅単位で割り当てられており、ローカル5Gには28.2G〜29.1GHzの900MHz幅が割り当てられている。

 このようにミリ波にはSub6より広い周波数帯域幅が割り当てられているのだ。ミリ波がSub6より高速にできるのはミリ波だからではなく、広い周波数帯域が使えるからだ。使う周波数幅が狭ければ「超高速」にはならない。現に2020年時点のローカル5Gは速くなかった。なぜならば、図1にあるようにミリ波のうち28.2G〜28.3GHzのわずか100MHz幅しかなかったからだ。

Sub6とミリ波の使い分け

 Sub6とミリ波の特徴と適する用途は図2の通りだ。Sub6はミリ波と比較すると周波数が低く、障害物があっても回り込む性質があるので、電波が届きやすく広いエリアをカバーできる。とはいえ、800MHzや1.7GHzが使われている4Gと比べれば2倍以上周波数が高いので4Gほど浸透性は高くない。


図2 Sub6とミリ波の特徴、使い分け

 キャリアに割り当てられているSub6の周波数幅は100MHzごとなので、これを単体で使う場合、超高速(どの程度を「超」と呼ぶかにもよるが)は望めない。そこでキャリアはCA(Carrier Aggregation)という技術で複数の周波数帯を束ねて使うことで下り4Gbpsを超える高い速度を実現している。

 ミリ波には広い周波数帯が割り当てられているので高速、多端末収容可能というメリットがある。ただし、周波数が高いために直進性が強く、障害物に弱いのが弱点だ。技術的に実装が難しい、つまり製品が高くなるというデメリットもある。

 以上のような性質から、Sub6は広範囲で頻繁に移動する端末での利用に適している。ミリ波は固定的な場所で超高速を生かす用途に適する。

 Sub6とミリ波の使い分け事例として富士通が2021年3月に発表した小山工場(栃木県)のローカル5Gが参考になる(発表資料)

 Sub6とミリ波の使い分けをプライベート5Gを使う工場に当てはめたのが図3だ。プライベート5Gはモバイルキャリア(携帯電話事業者)のコア設備を利用し、工場内の基地局もキャリアが設置して、スマートフォンと同じ電波を使う5Gの利用形態だ。

 なお、筆者は連載の「sXGPやローカル5Gより、『プライベート5G』への期待が大きい理由とは」で述べた通り、ローカル5Gよりプライベート5Gの方が企業にとってメリットが多いと考えている。


図3 プライベート5GでのSub6とミリ波の使い分け

 工場で使われるAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)は広範囲に移動する。超高速は必要ないが、通信の安定性は重要だ。そこで電波が届きやすいSub6が適している。

 ミリ波は電波が届く固定的な場所で超高速を生かした用途に向いている。例えば高画質な製品の画像をリアルタイムでクラウドAIに送信し、瞬時に製品の良否判定をしたり、スマートグラスを使って現場の作業者を離れた場所にいるベテラン作業者が映像を見ながらサポートしたりする、といった使い方がある。

 冒頭に書いた通り、5Gは実証実験段階が終わり、実用段階に入った。今やデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する重要な要素として期待されている。

 Sub6とミリ波を上手に使い分けて、効果的でコストパフォーマンスの良い5Gネットワークを構築したいものだ。

【訂正:2021年5月31日午前11時】本記事の初出時、図3に関する説明が重複しておりました。お詫びして訂正いたします。該当箇所は既に修正済みです(編集部)。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート等)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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