Monadレビュー記事の改訂版。複雑化を極めるWindows環境をマイクロソフトの新シェルPowerShellはいかにして扱うのか?
本稿は2006年4月12日に公開された「次世代WindowsシェルMSH(コード名:Monad)を試す(前編)」の改訂版です。Windows PowerShell RC1版のリリースに合わせて、Monadシェルの正式名称は「Windows PowerShell」となりました。MSHおよびMonadという名称はもはや使用されません。
Monadベータ版からの変更点の詳細については本稿冒頭で言及しているWindows PowerShell本体のファイル「PowerShell_i386.zip」に含まれる「Windows PowerShell RC1 release notes.htm」に記載されています。
Windowsのシェルといえばコマンド・プロンプト(cmd.exe)であるが、その機能はUNIXなどのシェルと比較するとまったく貧弱なものである。WindowsではMMC(Microsoft Management Console)などのGUIによるシステム管理/設定のインターフェイスはリッチだが、運用や管理、自動実行が容易なスクリプトによるインターフェイスは弱い。これはアプリケーションやサービスの設定がファイル・ベースであるUNIXなどに対して、Windowsがレジストリ・ベースであることも1つの要因だろう。
またコマンド・プロンプトの機能を補うために、WSH(VBScriptおよびJScript)やWindows Services for UNIX、あるいはWMI(Windows Management Instrumentation)なども用意されているが、逆にそれらがWindowsのシステム管理を複雑化させていることも否めない。
このような問題を一掃すべく、現在Microsoftはまったく新しいシェルを開発中だ。それが、「Windows PowerShell」(以下、単にPowerShell)である*。PowerShellは.NET Frameworkをベースにして設計された次世代Windows用のシェルだ。
* RC1版以前は「Microsoft Command Shell(開発コード名:Monad)」という名称が付けられていた。
多くのシェルがそうであるように、PowerShellは次の2つの機能を提供する。
もちろんこれら2つは別々のものではない。PowerShellでは、シェル・スクリプトは「.ps1ファイル」*として記述して実行するが、その記述内容は対話式シェルで直接入力しても実行できるし、対話式シェルで実行する一連のコマンドを1つのシェル・スクリプトとして記述し、1つのコマンドとして実行することもできる。
* 拡張子「.ps1」は、そのスクリプトがPowerShellバージョン1.0用のものであることを示す。
上述したようにPowerShellの本来の目的は、強力なシェル・スクリプトによるシステムの管理や運用であるが、本稿ではまず対話式シェルとしてPowerShellを使いながら、PowerShellの機能や仕組みを俯瞰(ふかん)してみる。
なお、PowerShellのダウンロード・ページや関連する情報ページは以下にまとめておいた(すべて英語のページ)。
Windows PowerShell本体のダウンロード:
Windows PowerShell RC1 (for .NET Framework 2.0 RTM) x86
Windows PowerShellドキュメントのダウンロード:
Windows PowerShell RC1 Documentation Pack(「Getting Started.doc」「PowerShell User Guide.doc」「TracingQuickStart.doc」が含まれる)
開発者向けのドキュメント:
MSDNのPowerShellドキュメント(「Getting Started Guide」「Programmer's Guide」「SDK」の3つの項目が含まれる)
スクリプト言語構文の早見表:
Channel9:Windows Power Shell Quick Start
FAQ集:
Channel9:Windows Power Shell Faq
サンプル・スクリプト集:
The Script Center Script Repository: Sample Windows PowerShell Scripts
目的別の使い方:
What Can I Do With Windows PowerShell?
PowerShellの実行には.NET Framework 2.0が必要となる。本稿では上記のリンク先からダウンロードできる「Windows PowerShell RC1」(公開は2006/5/5)をベースに執筆している。また、実行環境としてはWindows XP Professional SP2日本語版+.NET Framework 2.0を使用している。
さて、以下の画面はPowerShellを起動し、まずはおなじみの「dirコマンド」を実行したところである。ドライブの空き領域などは表示されないが、ディレクトリやファイルのリストは正しく表示できている。
UNIXではdirと同等のコマンドは「ls」であるが、PowerShellではこのコマンドも使える(以下ではPowerShellの実行結果を画面のキャプチャではなく、画面からコピーしたテキストで示す。また黄色い文字はキーボードからの入力を示している)。
PS C:\Documents and Settings\taka-e> ls
Directory: Microsoft.PowerShell.Core\FileSystem::C:\Documents and Settings\taka-e
Mode LastWriteTime Length Name
---- ------------- ------ ----
-a--- 2006/06/29 15:38 389109 PowerShellDocumentationPack.zip
-a--- 2006/06/29 15:39 2338379 PowerShell_i386.zip
d---- 2006/06/21 14:45 Contacts
d---s 2006/06/29 16:37 Cookies
d-r-- 2006/06/29 14:53 Favorites
d-r-- 2006/06/26 20:13 My Documents
d---s 2006/01/11 19:25 UserData
d---- 2006/01/12 21:08 VSWebCache
d---- 2006/06/13 18:33 WINDOWS
d-r-- 2006/01/11 20:10 スタート メニュー
d---- 2006/06/29 15:39 デスクトップ
dirとlsの実行結果はまったく同じだが、実はこれらはどちらも既存のコマンドのエイリアス(別名)だ。これらが何のエイリアスかは「aliasコマンド」により分かる。
PS C:\Documents and Settings\taka-e> alias dir
CommandType Name Definition
----------- ---- ----------
Alias dir Get-ChildItem
PS C:\Documents and Settings\taka-e> alias ls
CommandType Name Definition
----------- ---- ----------
Alias ls Get-ChildItem
このように、dirやlsは「Get-ChildItemコマンド」の別名である。
このGet-ChildItemコマンドは、「Cmdlet(コマンドレット)」と呼ばれるPowerShellの内蔵コマンドの1つの種類だ。Cmdletには基本的に「動詞-名詞」の形式のコマンド名が付けられる。また、コマンド名に含まれる単語の先頭の文字は大文字となる(これに対して、エイリアス名はすべて小文字とするのがPowerShellでのルールのようである。ただし、コマンドの実行に際してはコマンド名の大文字・小文字は区別されない)。
Cmdletは内蔵コマンドであるが、ユーザーがC#やVBでコマンドを自作して追加することもできる。Cmdletの詳細については後述する。
■エイリアス定義の一覧
現在実行中のPowerShellで定義されているエイリアスの一覧を見るには、パラメータなしでaliasコマンドを実行すればよい。
PS C:\Documents and Settings\taka-e> alias
CommandType Name Definition
----------- ---- ----------
Alias ac Add-Content
Alias asnp Add-PSSnapin
Alias clc Clear-Content
Alias cli Clear-Item
Alias clp Clear-ItemProperty
Alias clv Clear-Variable
Alias cpi Copy-Item
Alias cpp Copy-ItemProperty
……以下省略……
デフォルトで定義されているすべてのエイリアスの一覧を別ページ「alias.html」で用意した。ちなみにこのalias.htmlは次のようなコマンドで作成したものだ(ただし手動で<table>タグに「border=1」を追加している)。
alias | select name, definition | sort name | ConvertTo-Html > alias.html
これは「alias」の出力から、「selectコマンド」により「name」と「definition」の項目を選択し、その結果を「sortコマンド」により「name」の項目でソートし、さらにその結果を「ConvertTo-Htmlコマンド」によりHTML化したものをファイル「alias.html」に出力している*。パイプ「|」の働きは既存のシェルとは少々異なるのだが、これについては後編で解説する。
* 「selectコマンド」と「sortコマンド」が小文字になっていることからも分かるように、これらはCmdletである「Select-Objectコマンド」と「Sort-Objectコマンド」のエイリアスである。
以下に、Cmdletと基本的なWindowsおよびUNIXのコマンドへのエイリアスとの対応を抜き出してみた。
Cmdlet | Windowsコマンド へのエイリアス |
UNIXコマンド へのエイリアス |
---|---|---|
Set-Location | cd | cd |
Get-CildItem | dir | ls |
Get-Content | type | cat |
Rename-Item | ren | mv |
Copy-Item | copy | cp |
Remove-Item | del | rm |
Clear-Host | cls | clear |
Cmdletと基本的なWindowsおよびUNIXのコマンドへのエイリアス |
少し無理やりな感じのするものもあるが、PowerShellではエイリアスを多用することにより、既存のWindowsユーザーだけでなく、UNIX系ユーザーにもある程度使いやすいように配慮しているようだ。
ちなみにファイルのパスの区切りは、日本語版Windowsでは円マーク「\」だが、PowerShellではUNIXと同様にスラッシュ「/」も使えるようになっている。これに伴い、コマンドのパラメータ(オプション)の指定は、スラッシュではなく、UNIXと同様にハイフン「-」で指定する(例:dir -Recurse)。
■エイリアスの追加と削除
もう少しエイリアスの使い方について見ておこう。エイリアス定義の追加は「Set-Aliasコマンド」によって行う。次の例は、「Clear-Hostコマンド」を「c」にエイリアスしている。これで「c」を実行するだけで画面をクリアできる。
PS C:\Documents and Settings\taka-e> Set-Alias c Clear-Host
PS C:\Documents and Settings\taka-e> alias c
CommandType Name Definition
----------- ---- ----------
Alias c Clear-Host
エイリアスの削除は「Remove-Itemコマンド」により、次のようにして行える。
PS C:\Documents and Settings\taka-e> Remove-Item Alias:c
ここで「Alias:c」は、エイリアスとして定義されている「c」を意味する。
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