Androidにおける有料アプリビジネスは商売にならない――そんな予感が感じられつつある中、auが「月額定額制でダウンロードし放題」という新しいサービスを開始した。果たして市場の活性化につながるのだろうか?
auのスマートフォンを対象とした、月額390円でアプリ取り放題の「auスマートパス」が始まった。
これまでスマートフォン向けの有料のアプリやアドオンについては、App StoreにしてもGoogle Playにしても、単体ごとの値付けが普通だった。そのあたりが、いわゆるガラケーの月額継続課金モデルとは大きく異なる部分である。ユーザー目線でマーケットとの関係を見ると「1回限り、後腐れなしね」的なシンプルさがあり、筆者的には好感度高し、だった。
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だがauスマートパスは、アプリ販売モデルのちゃぶ台をひっくり返した。スマートフォンアプリビジネス界の常識を覆し、「月額定額課金にしてダウンロードし放題」である。その大胆なビジネスモデルにあっと驚くと同時に、アプリの供給側、つまり開発者としては、これまでとは違った考え方が求められるのではないか、と思った次第だ。
それに収益面からすると「これってアプリ開発者にとって不利になるの? それとも有利になるの?」という疑念もわいてくる。
定額制ということは、KDDIに入るアプリの売り上げを、KDDIが“テラ銭"を抜いた上で、参加する開発者に按分でシェアするわけだから、「単独で販売する場合よりも売り上げが減る」ように感じてしまう。ただ、その一方で、Google Playなど他のアプリマーケットでの同一アプリの併売を禁じられているわけではないので、開発者からすると、販売チャンネルの拡大を意味し、収益機会が拡大する可能性もある。
auスマートパスは3月1日から開始されたばかりなので、このタイミングで何らかの「結論」が得られるとは思えないが、初期段階における「手応え」のようなものがあれば、それを知りたい。そこで、韓ドロイドというアプリのアグリゲーションビジネスを行う中で、海外開発者のアプリ、6タイトルをauスマートパスに提供しているウェード・コムの執行取締役 SI事業部長 曺泰鉉氏に、手応えを教えてもらった。
「もしかしたら、定額制って、アプリ開発者や提供元から搾取するシステムかもしれない」という一抹の不安を抱いて取材に望んだ筆者の考えは、 曺氏のこのひと言で根底から覆された。
「弊社のあるアプリの場合、au one Marketでは2カ月かかって約300ダウンロードだったものが、初日だけで300ダウンロードされた」という。初日のご祝儀相場という側面はあるにせよ、あまりにも幸先のよいスタートに驚きを禁じ得ない。
ここで、auスマートパスと比較する意味で、以前からあったau one Marketの状況について触れておこう。
au one Marketというのは、Google Playのような従来型の個別ダウンロード課金のアプリ販売サイトで、一部を除き、KDDI自身がアプリのホスティングを行っていた。登録料を支払い、正規の署名さえ整っていれば、誰でも簡単にapkファイルをアップロードできるGoogle Playと異なり、au one Marketでは、KDDIの審査を受けた約4000タイトル弱のアプリが登録されていた。
ただ、au one Marketでは以前から、「いまいち有料アプリのダウンロード数が伸びない」という声が複数の開発者から聞こえていたのも事実。もちろん中には売れているものもあるのだろうが、開発者間では、App Storeとの比較で「Androidのユーザーは、アプリにお金を払わない」というあきらめにも似たムードが漂っていた面もある。iOSでアプリビジネスに参入し、後にAndroidアプリを始めた開発者などは、特にその思いを強くしているようだ。
あの空前の大ヒットゲーム「Angry Birds」ですら、App Storeではフル機能版は有料なのに対し、Android版ははじめから無償だ。また、先日は「『Androidはもうからない』——人気ゲームメーカーが開発終了を発表」などというショッキングなニュースも巷を賑わせた。
これは、au one Marketだけの話ではなく、ドコモマーケットでも似たような状況らしい。
もっともNTTドコモの場合は自社でアプリのホスティングは行っていない。Google Playに登録されているアプリの中から、開発者の申請を受け付け、ドコモの「お眼鏡にかなった」ものをリスティングしている。現在のアプリ登録数は非公開のため不明だが、昨年の春時点で三百数十タイトルという情報は得ていた。
ちなみに、2010年の10月に筆者は、NTTドコモにAndroidアプリにかける意気込みを取材している。そのとき担当責任者は、将来的には、登録数を増やして自社ホスティングも行いたいといった趣旨の発言をしていたが、あれから1年半近く経過したいまでもホスティングは行われていない。
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加えていうなら、NECビッグローブが当初力を入れていたAndroidアプリの独自ストア「Andronavi」もアプリ販売から手を引き、アプリの紹介メディアとして生きる道を選んでいる。つまり、単体ごとに値付けされた売り切りダウンロード型のアプリマーケットでは、少なくともAndroidにおける有料アプリビジネスは商売にならない、というのがおぼろげながら見えている。
【関連記事】Androidアプリはビジネスになるのかhttp://www.atmarkit.co.jp/fnetwork/column/narumono38/01.html
ただ、Android関係者に失望を与えないために付け加えておくが、Android系のアプリビジネスが全滅状態というわけではない。ライブ壁紙系の「テーマ」は、有料でもそこそこビジネスになっているらしい。数十タイトルのライブ壁紙をリリースしているある開発会社のトップは、「アプリは売れないけれど、ライブ壁紙は日に数万円の売り上げはある」と教えてくれた。
もちろん、ライブ壁紙だったら何でも売れるとは思えないが、少なくともこの開発会社が提供しているような、音楽付きでゴージャスなグラフィックが動くものであれば、Androidユーザーも「お金を払ってもよい」と思うのかもしれない。
ものになるモノ、ならないモノ バックナンバー
・第1回 auスマートパスはAndroidアプリビジネスの新風?
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