【特集】T1導入のススメ
〜1.5Mbps常時接続市場の現状とサービス選択のポイント〜
法人向けインターネット常時接続サービスの価格が、どの会社にも手が届く範囲まで下がってきた。特に、T1(1.5Mbps)接続の場合、アクセス回線の光ファイバ代金を含め、月額料金で30万円前後が相場となっている。ADSLや無線アクセスにも期待が集まりつつあるが、実績や安定性に勝る光ファイバが安くなっている以上、法人ユースとしては、まずはそちらを検討すべきだろう。 本記事では、光ファイバによるインターネットの常時接続に焦点をあて、市場動向や導入手順を説明していくこととする。そのことを通じて、インターネットを法人がビジネスに使うにあたっては、何を基準にサービスを選べばよいのか、ガイドの1つとしたいと思う。 |
網仙人(ねっと・せんにん)
2000/10/18
第1章 インターネット接続の形態 |
■ダイヤルアップ接続と常時接続
インターネットにつなぐには、いくつもの接続形態がある。だが、これらは「ダイヤルアップ接続」と「常時接続」の2つに大別できると言ってよいだろう(図1)。
図1 ダイヤルアップ接続と常時接続の違い |
家庭用サービスで一般的なのは、いわゆるダイヤルアップ接続だ。電話回線を通じて必要なときにだけインターネット接続するもので、ホームページを見たり、メールのやりとりをしたりと、基本的なインターネット利用には十分である。一方で、インターネットの能力は、常時接続環境があってこそ開花するものであることに注意してほしい。インターネット本来のあり方である、“いつでも、どこにでも”つながるという機能は、常時接続にあってこそ十分に発揮される。ダイヤルアップ接続の場合は、ユーザーはインターネットの外側にいて、必要なときにだけインターネットとやりとりをすることになる。それに対し、常時接続にあっては、ユーザーはまさに、インターネットの内側にいることになる。
■常時接続のバリエーションと光ファイバの実力
さて、常時接続にも、いろいろな方法がある。図2で上に位置するほど、個人向けで、ベスト・エフォート性の強いサービスだ。ベスト・エフォートであるとは、例えば、128kbpsの帯域を常時実現することは保証せず、むしろ最大で128kbpsの帯域を実現するといったように、契約帯域の実現を保証ではなく目標として設定したエコノミータイプのサービスである。一方、下に位置するほど、法人向けのハイエンドで帯域保証性の強いサービスと言える。
図2 各常時接続サービスの特性による分類 |
光ファイバは、さまざまな常時接続のアクセス手段のうち、最も信頼性が高く、最もハイエンドなサービスである。インターネットをアクティブに使う法人ユーザーには、この光ファイバによる接続がおすすめだ。なぜなら、今日のように技術革新の著しい中では、一番ハイエンドなものが、結局はメイン・ストリームになるからである。昨今では、光ファイバだけでなく、さまざまな常時接続インフラが登場して話題となっているが、「アクティブにインターネットを使う法人」向けのサービスという点では、未だに光ファイバに勝るものは登場していない。光ファイバなら、物理的な管の中を光が通る構造上、安定した通信が常に確保される。無線のように気候に左右されることも、銅線のように周囲の電気・磁気に影響されることもない。情報を取り入れる「ダウンロード」も、情報を送る際の「アップロード」も、どちらも帯域が保証され、契約帯域の通信が常に確保される。
基本的にインターネットはベスト・エフォートの世界であるが、アクセス回線内でのサービス帯域を保証する光ファイバ接続なら、単なるベスト・エフォートを超えた、企業の基幹インフラたりうる資格を有していると言える。光ファイバによるインターネット常時接続は、この意味でしばしば、「プロバイダのバックボーンに直結」するサービスといわれるのである。
■常時接続方式の吟味
では、光ファイバ以外の接続形態を考えてみよう。ISDN常時接続(NTTのフレッツ・アイISDN)は、完全に個人向けの常時接続サービスで、64kbpsの接続サービスを使い放題にするものである。これは、小人数で使うには非常に優れたサービスだ。しかし、法人での利用を考えると、事務所に2人や3人しかいないうちはよいが、人数が増えると、コストメリットがなくなってしまう。
昨今話題の常時接続といえば、何といってもADSLだ。これは、従来の銅線(電話線が中心。実は、銅線でさえあれば、電話線でなくとも技術的には一向に構わない)を利用して、最大512kbpsの下り帯域を実現するサービスである。元来は、個人向けのサービスだが、法人で使えないこともない。法人利用をするうえでの弱点は、ADSLは典型的なベスト・エフォートサービスで、512kbpsの帯域は、保証されたものではないこと。また、データを取り込むには速いが、送り出すには遅いという特性上、情報検索には向いているが、自社のWebサーバをインターネットに接続するには、まったく適さないサービスであることにある。
集線型常時接続(NTTのOCNエコノミーなど)は、法人のインターネット利用のエントリサービスとして、一時代を画したサービスだ。集線型とは、多数のユーザーを意識的にアクセス部分に収容し、格安のインターネット接続を実現するものである。このサービスの良いところは、非常に安くインターネット常時接続を提供できることである。一方で、このサービスの弱点は、ユーザーが増えれば増えるほど、ネットワークのレスポンスが低下することにあった。
最後に、固定無線アクセス、FWA(Fixed Wireless Access)。法人向けFWAサービスの最大の難点は、現段階では光ファイバによる接続と明確なすみ分けがされていないことだ。例えば、現状で、FWAのT1接続は、光ファイバによるT1接続と価格差がほとんど存在しない。端末機器(要するに、アンテナ)がどこまで値下がりするのかも不明確だ。また、FWAは光ファイバに比べ、早く・広くサービスを展開できるといわれているが、実はこれらの点についても大差はない。光ファイバの場合は地下からビルに回線を引き込むのに対し、FWAの場合は屋上から引き込むという違いがあるだけだ。ビル内配管の手配が必要であるという事実に、変わりはないのである。FWAが光ファイバと比較してメリットを出すには、より一段階上のエリア拡大と値下げが必要だろう。
インターネット常時接続のバリエーションが増えるのは良いことであるし、インターネットをメール送受信と情報検索にしか使わないのであれば、これらのアクセス方式を検討してみる価値もあるだろう。だが、さまざまなアプリケーションやWebサイト、本格的なEビジネスを立ち上げたり、基幹系ネットワークとしてインターネットを利用することを考えれば、現状で、光ファイバに勝るアクセス手段は存在しないのも事実なのである。
■光ファイバのメリット:新時代の企業の基礎インフラ
光ファイバによるインターネットT1(1.5Mbps)常時接続は、安くて速いというメリットを提供するサービスとして、企業の基幹インフラになりつつある。もし、あなたの会社に50人以上の社員がいて、すでにLAN環境を構築済みであれば、ダイヤルアップや集線型接続といった、ほかの接続サービスよりも、光ファイバによるインターネットサービスの方が絶対にお得である。例えば、格安T1サービスの相場は月額30万円であるから、100人で割ったら、月々たったの3000円だ。それで、ダイヤルアップよりもはるかに速くて快適な環境が手に入り、インターネットが使い放題になるのだ。さらに、グループウェアやWebアプリケーションをヘビーに使い込んだり、自社内にWebサーバを置いて、アクティブなEビジネスサイトを立ち上げたりすることもできる。自社がソフトハウスであれば、IP通信を前提とした新しいタイプのソリューションを自ら構築するのもよい。Webアプリケーションや、ASPビジネスモデルも、潤沢な常時接続環境があってこそ、初めて現実に機能する。
特に、Webサーバを自社内に有している企業にとっては、格安T1は大きなメリットがある。現状では、128kbpsクラスの集線型接続にWebサーバを接続しているケースがまだまだ見られるが、今後はT1クラスの回線にWebサーバを接続していくようにすべきだろう。マーケティングの世界には、「8秒ルール」というものが一般にあるのをご存じだろうか。8秒待っても表示が完了しないようなレスポンスの遅いホームページには、ユーザーは二度と来てくれなくなるという法則だ。自分がどこかのホームページを閲覧しているところを想像してほしい。8秒待っても表示されないサイトには、非常な苦痛を感じるはずだ。
来年には、ADSLが爆発的に普及し、個人ユーザーが高速なアクセス環境(最速512kbps)を手にすることができるようになるというのに、Webサーバの側が128kbpsの集線型に接続されていたのでは、どうなるか。アクセス側のADSLの方がWebサーバにつながった回線より速いという状況では、「反応の遅いホームページ」という悪評をたてられ、ユーザーが二度とサイトを訪問してくれなくなる危険性が高いのである。ECサイトを利用したWebビジネスなど、128kbps集線型接続ではまったく機能しないと思った方がよい。
光ファイバによるT1常時接続があれば、ただ趣味の情報検索に使えるだけでなく、インターネットがビジネスの一部になるのだ。格安T1による常時接続は、日本のビジネスシーンそのものを変えるパワーを備えた、企業の基礎インフラなのである。
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この章では、数あるインターネット常時接続のバリエーションを説明し、中でも法人向けサービスとして有望な光ファイバの優位性を説明した。次章では、光ファイバ接続の市場に、今、何が起こっているのか説明したいと思う。
Index | |
【特集】 T1導入のススメ | |
第1章 インターネット接続の形態 ダイヤルアップ接続と常時接続 常時接続のバリエーションと光ファイバの実力 常時接続方式の吟味 光ファイバのメリット:新時代の企業の基礎インフラ |
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第2章 T1常時接続サービス市場の現状 「T1」という語が口にされる意味 格安T1インターネットの解説 |
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第3章 T1常時接続サービスの導入手順 LANの準備 アクセスポイントの場所の確認 光ファイバが最大の関門 通信機器の手配 |
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第4章 T1常時接続サービスの選択基準 各社の価格設定を比較 オプション制限比較 品質基準比較 |
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第5章 SLAの本音と裏 余命3年、SLA? SLAのアイテム 【コラム】遅延時間の測定方法 |
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