【特集】T1導入のススメ
〜1.5Mbps常時接続市場の現状とサービス選択のポイント〜

網仙人(ねっと・せんにん)
2000/10/18

第5章 SLAの本音と裏

 最終章では、インターネットプロバイダが提供するサービス品質保証(SLA:Service Level Agreement)の本音と裏を探って、ネットワーク性能に対する目を養っていただこうと思う。このことを通じて、SLAにもまじめに手間をかけて作った良いSLAがある一方、単に流行に乗って作られた中身が伴わないものが登場する危険性があることを、あらかじめ知っていただきたい。

 とはいえ、光ファイバによる常時接続は、プロバイダのバックボーン性能を、直接ユーザーの手元まで届けるもの。格安T1を含め、光ファイバを買う際は、SLAに代表されるような品質基準に気を配る意味は十二分にあると言える。

余命3年、SLA?

 SLAとは、コンピュータメーカーや、プロバイダが提示している品質保持基準のこと。プロバイダについて言えば、インターネットサービスの品質に関する保証値をいくつかアイテムとして定義し、実績が保証値を下回った場合は、利用料金の一部減額に応じるというスタイルが主流である。

 SLAの先進国である米国においても、インターネットのSLAが急速に普及したのは、ここ3年程度のことだ。米国の潮流を観察すれば、日本における今後のSLAの展開が、ある程度予想できる。

 IT業界には、この手の新しい言葉が次々と生まれてはもてはやされ、消えていくというサイクルが見られる。最初は、「○○○こそ、あらゆる問題を解決するソリューションだ!」と過剰な期待を背負わされたものが、市場の期待にこたえることができずに消えていったり、あるいは、適正な評価を得て市場に定着していったりする。「SLA」という語がどのような運命をたどるかは不明だが、SLAは万能ではない、という率直な事実を直視しないことには、3年後には、市場はSLAの限界に幻滅している可能性が高い。

 実は、米国では、流行に乗って実質性の低い単なるプロモーションSLAを展開する会社が後を絶たない。ユーザー側からすれば、過剰広告にだまされてプロバイダに入るようなものだ。その結果、米国ではすでに、ハッタリやプロモーションだけのSLAに、簡単にだまされるユーザーはいなくなっている。マスコミも、SLAのメリットと限界を指摘してインターネットサービスを選択するよう、啓蒙的な記事を書いているのだ。一方で、日本では、まだSLAがある、というだけでプロバイダ選びは安心という風潮が残っている。各社のSLAや実力を詳しく吟味して選択する目は、マスコミにも、まだあまりできていないように思われるが、その中で、プロモーションだけの実のないSLAは、そろそろ日本でも登場し始めているようだ。保証値や減額幅の設定が厳格さを欠き、ユーザーへのコミットメント姿勢の弱いSLA。プロバイダ側に好都合な免責条項が、あまりに大きく設定されているSLA。中には、何らかの「保証」や「減額」を伴わない単なる「目標」を、SLAのアイテムにリストアップする会社すらある。こうもなってくると、これをそもそもSLAと呼んでよいのかどうかも、分からなくなってくる。

 日本でも今後3年以内に、まじめに技術力・ネットワーク運営力を培うことをせず、プロモーション目的だけのハッタリSLAを繰り広げるプロバイダは、もはや目の肥えたユーザーをだますことはできなくなって、市場から無視されることになるだろう。米国では、実質性のあるSLAと、実質のないSLAの差別化が進んでいるが、日本でもこのような傾向が強まっていくものと予想されるのだ。

SLAのアイテム

日本のインターネットSLAには、「可用性保証(故障回復時間保証)」「障害通知保証」「遅延時間保証(パケットデリバリ率保証)」があるという、3アイテムのパターンが標準である。順を追って見ていこう。

●可用性保証
 インターネットプロバイダのいう「可用性保証」には、2つのパターンがある。ユーザー向けサービスの可用性保証と、プロバイダのバックボーン・ネットワークの可用性保証だ。

 前者は、IIJ、OCN、ユーユーネットのように、アクセス回線を含めた端末側区間の可用性を保証するもの。この場合、1つ1つのユーザーのサービスが、月に何%まで「利用可能」であるかが保証される。これらのプロバイダは、1件1件のユーザーのルータが作動しているのかを常に監視している。ユーザー側のルータに異常があれば、これらプロバイダのエンジニアは、すぐに対応態勢に入る。エンジニアの人件費と作業量を考えると、非常に手間のかかったきまじめなSLAなのだ。だから、この種の可用性保証を提供している上記のプロバイダは、少なくともまじめにSLAにあった技術力・サポート力を用意する意志のある会社である。

 注意しなければならないのは、サービスが「利用可能」であることの定義。プロバイダのネットワーク監視センターからユーザーのルータまで、とにかくPingが届いてIPプロトコルによる通信ができるということを、「利用可能」と呼んでいる。途中でどれだけのパケットロスが発生しようが、特定経路が消失してあるサイトが見えないという現象が起ころうが、サービスは「利用可能」であると定義されていると思った方がよい。

 後者の、JensやODNに見られる可用性保証は、プロバイダ側のバックボーンが月に99.5%利用可能であることを保証するもの。各ユーザー向けサービスの可用性については考慮しておらず、アクセス回線内の障害は減額対象にならない。むしろ、プロバイダ側のバックボーン・ネットワークが安定していることを示す材料であると理解しよう。これも否定的な言い方をすれば、月に0.5%(223分)までは、ネットワークのダウンがあっても仕方がないと考えておくべきだ。

 可用性保証ではなく、故障回復時間保証というSLAを定義している会社もあるから面白い。故障回復時間保証の場合、例えば、ネットワーク障害が発生した後、30分以内にサービスを復旧させることが約束される。逆の言い方をすれば、1カ月の間に3回、4回と故障があっても、それぞれ30分以内に修理が完了すれば、保証値を満たしたことになる。

●障害通知保証
 障害通知保証については、どのプロバイダも差がない。障害を見つけたら、30分以内に知らせるという内容で、何も深読みするほどのものではない。要は、障害通知保証を提供しているプロバイダは、障害報告後、いつでもユーザーの厳しい問い合わせを受ける覚悟と体制を整えているということが選択のポイントになるのだ。

●遅延時間保証
 プロバイダのバックボーン・ネットワーク内で、月次平均の遅延時間(レスポンスの遅れ)を一定以下に抑えることを保証するもの。例えば、日本国内のルータ間は、平均で、往復40ミリ秒以内の通信を確保しているといった内容だ。このアイテムは、格安T1にも提供されていることが多い。

 多くのプロバイダの場合、自社のバックボーン・ネットワークの遅延時間を測定し、Webサイトで公開している。遅延時間の測定方法については、細かな業界標準は存在しないし、測定の技術基準・利用プロトコルを詳細に公開しているプロバイダも少ない。だから、A社とB社の遅延実績値を比較して、A社は日本国内8ミリ秒であるのに対してB社は7ミリ秒である、B社の方が高性能だ、といった議論は、あまり意味をなさない。各社の実績値を比べてみると、IIJが20ミリ秒以上で、遅延が一番大きいことになっているが、だからといってIIJのネットワークが遅いというわけにはならない。また、TTCNは他社よりひとまわり小さな実績値を出しているが、サービス提供地域が関東圏内だけなのだから、当然の結果である。IIJとTTNetの差は、ネットワーク性能ではなく、遅延時間の測り方にある。だから、遅延時間保証のポイントはむしろ、プロバイダが本当に遅延時間を監視し将来にわたって安定したネットワーク構築をユーザーに約束しているかということや、遅延実績値が過去、安定して推移してきたかという実績を提示することにあるのだ。

【コラム】遅延時間の測定方法

 SLAにかかわる遅延時間の測定方法について、業界標準はない。測定用の専用パケットを使うのか、パケットの大きさはどれくらいなのか、どのようなプロトコルを使うのか、考え出すと切りがないが、プロバイダの営業に質問しても、芳しい答えが返ってきたためしがない。

 米国ユーユーネットは、測定用のプロトコルを、Network Time Protocol(NTP)から、Internet Control Message Protocol (ICMP) echoに切り替えつつあるという。NTPとICMPエコーでは、同じネットワークを測定しても、出てくる結果が少々異なるはずだ。だが、どちらを採用したとしても問題がないとユーユーネットが判断した理由は、利用しているものがNTPであろうとICMPエコーであろうと、ユーザーのトラフィック・データが測定パケットよりもキューの中で速く進む事実には、変わりがないためだと思われる。

http://www.uu.net/customer/sla/faq/index.html


 以上、SLAについて、いろいろと難しいことや、否定的なことも書かせていただいた。この章を読んで、「なーんだ。SLAなんてこんなものか」と、幻滅した人もいるかもしれない。誤解のないように言っておくが、SLAはすべて無意味なハッタリというわけではないし、SLAがあるのとないのとでは、SLAを提供するプロバイダの方が、ユーザーに対して真剣に向き合う傾向があるのも確かである。

 考えてほしい。光ファイバによる格安T1サービスは、「バックボーンに直結」のネットワーク品質が魅力なのだ。そもそもインターネットのSLAは、ほとんどのプロバイダのケースで、光ファイバにしか提供されていない。プロバイダは、光ファイバの常時接続こそが、品質保証という考え方にふさわしいハイエンドなサービスだと思っている。DSLや集線型といった典型的なベスト・エフォートサービスについては、サービス品質保証という考え方が、そもそもそぐわないのだ。

 SLAを正しく理解して、良質なSLAとバックボーン・ネットワークを持ったプロバイダを選ぼう。それが、光ファイバによる接続サービスを購入する際の、重要なポイントの1つであることは、間違いない。そして、光ファイバの持つ安定性や帯域保証の美点を生かすには、やはりSLAがあった方がいいのだから。


【コラム】SLAが充実すると、品質が落ちる!?

 多くの人は、SLAがあれば、必ずネットワーク品質は向上すると思っているようである。これは、誤解である。

 まず、SLAのアイテムが増えると、測定用のパケットが増えて、ユーザーが利用できるバックボーン容量が圧迫される。アイテムを増やして測定に手間をかければかけるほど、ネットワークが測定/監視パケットだらけになって、不純になっていくのだ。だから、プロバイダはSLAの開始にあたっては、できるだけ商業ネットワークを圧迫しない、包括的で効率的な方法を採用する責任を持っている。下手な測定方法を使うと、SLAを提供するためにネットワークの品質を落とすという、本末転倒が発生する。インターネット上の全経路に測定パケットを流すことは不可能だ。そんなことをすれば、測定パケットだけでルータがパンクする可能性すらある。

 また、SLAによって品質が客観化・数値化されるという意見もあるが、これもあまり期待しない方がよい。むしろ、情報システム部の現場としては、インターネットサービスの品質については、数値化のできない要素にこそ不満を覚えることが多いはずだ。局地的・一時的な輻輳(ふくそう)、特定経路の消失、アクセス回線内でのパケットロスなどが発生しても、SLAにかかわる利用料金の減額を行うプロバイダはない。


Index
【特集】 T1導入のススメ
  第1章 インターネット接続の形態
ダイヤルアップ接続と常時接続
常時接続のバリエーションと光ファイバの実力
常時接続方式の吟味
光ファイバのメリット:新時代の企業の基礎インフラ
  第2章 T1常時接続サービス市場の現状
「T1」という語が口にされる意味
格安T1インターネットの解説
  第3章 T1常時接続サービスの導入手順
LANの準備
アクセスポイントの場所の確認
光ファイバが最大の関門
通信機器の手配
  第4章 T1常時接続サービスの選択基準
各社の価格設定を比較
オプション制限比較
品質基準比較
第5章 SLAの本音と裏
余命3年、SLA?
SLAのアイテム
【コラム】遅延時間の測定方法
 

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