【トレンド解説】ギネス認定ルータの出現でコア・ルータ業界に異変
次世代ルータ開発に向けて進む業界再編(前編)
鈴木淳也(Junya Suzuki)
2004/7/9
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インターネットへのブロードバンド接続が当たり前になるにつれ、キャリアのバックボーンに求められる処理能力は日増しに高くなっている。ユーザー数はもちろんのこと、ユーザー個々のアクセス回線の速度についても数年前に比べ数十倍にも増えているからだ。
2000年前後に米国で起きたITバブル崩壊は、業界内の各方面に大きな影響を与えた。特に被害が大きかったのは、先行投資額の非常に大きい通信キャリアだった。通信キャリアでは、数年後の利用者増を見込んでインフラの構築を開始する。ITバブルということもあり、その需要曲線を多めに見積もることで多額の先行投資を行ったことが裏目に出たのだ。4年の月日を経て、ようやく少しずつ立ち直りつつあるこれらの企業は、次世代のブロードバンド需要を見越した投資を開始しつつある。MPLSを利用して、既存のSONET/SDHインフラを広域イーサネットなどのサービスに転用する例もあれば、新たにより高速なリンクを構築する例もある。だが回線速度が上昇するにつれ、そのうえでIPパケットをより高速に処理するルータが必要になる。
キャリアのバックボーンにおいて、その中央でパケットの転送に注力するルータを「コア・ルータ」と呼び、バックボーンのエッジ(端)に配置され、各ユーザーとバックボーンの橋渡しを行うルータを「エッジ・ルータ」と呼ぶ。コア・ルータに何より要求されるのは高速性で、どれだけパケット処理のためのキャパシティを持っているかが製品選択の基準となる。一方のエッジ・ルータは、通信サービス・レベルを規定するもので、パケットの優先制御や課金などの機能がどれだけ提供できるかがポイントとなる。今回は、特に次世代インターネット実現の鍵となるコア・ルータに話を絞って、その最新トレンドを紹介しよう。
■テラビット・ルータ時代に向けて
キャリアのバックボーン構築になくてはならないコア・ルータだが、インターネットのブームとともに加速度的に上昇するトラフィック量をさばけるだけの製品はごくわずかだった。その中で広く利用されていたのが、米シスコ・システムズのハイエンド・ルータで、当時はキャリアのほとんどが同社の製品を利用している状態だった。同社のCisco 12000シリーズが、このコア・ルータと呼ばれる分野に属する製品だ。
だが、当時のインターネットの拡大速度はこれら製品の進化よりも速く、パフォーマンス不足に苦しむキャリアはより高速な製品を求めるようになる。その中で、1990年代後半に登場した米ジュニパー・ネットワークスの製品に注目が集まるようになった。ジュニパーは、シスコのハイエンド・ルータを開発していたメンバーがスピン・アウトして創設した会社で、登場時点ですでに技術面や信頼性の面での評価が高かった。そしてジュニパーの評価を決定付けたのが、ASICなどによる徹底的な処理のハードウェア化で当時のシスコ製品を倍近く上回るパフォーマンスを実現したことと、先進のアーキテクチャを組み込んだ同社製ルータ用OSであるJUNOSの存在である。
JUNOSでは、OS上で動作するサービスが独立して動作するモジュラー型のアーキテクチャを採用しており、ルータ自体の可用性が高かった。シスコ製品用のOSであるIOSは昔からのアーキテクチャを継承しており、特定のサービスがハングアップした場合、OS全体をリブートする必要性があったのだ。これらの特徴から、ジュニパーは後発ながらも高い評価を受け、通信キャリアを中心に広く製品が導入されていった。
このような形でシスコとジュニパーという2社が先導する形になったコア・ルータ業界は、テラビット・クラスの処理能力を持つ次世代コア・ルータ開発にまい進している。業界の巨人シスコとキャリアでの高い評価から大手に成長したジュニパーに追いつけ追い越せという感じで、新興系のベンチャー企業も数多く誕生し、このレースへの参戦を狙っている。その中でも大きな話題になったのは、2003年に初の製品を発表した米プロケット・ネットワークスと米カスピアン・ネットワークスの2社である。
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テラビット・ルータ時代に向けて | |
プロケットとカスピアン | |
シスコの次世代ルータ「CRS-1」 | |
突然発表された、シスコのプロケット買収 |
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