第6回 小売・電機精密業でのRFID利用事例
〜実証実験と実運用ではRFIDシステムのレベルが違う
西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年10月17日
日本でも1、2年のうちにRFIDを利用した業務システムが実現する勢いだ。本連載はRFIDシステムの導入を成功させるために、経験豊富なコンサルタントがノウハウを伝授するバイブルである(編集部)
前回に引き続いてケーススタディを紹介します。その前に、実証実験と本運用の違いについて解説をします。
現在、さまざまなところでRFIDシステムの実証実験が行われています。また、新聞や雑誌ではむしろ実証実験の方が大きく取り上げられています。
本運用をしている企業は、作業効率化、作業精度向上、設備集約、コスト削減などを主な目的として導入をしています。その背景には競合優位性があり、担当ベンダとNDA(秘密保持契約)を交わしてシステム導入をするために、なかなかその事例が公開されません。
では、本運用と実証実験はシステムとしてはどのように異なるのでしょうか。
本運用=RFIDシステムを日常的に利用したうえで、基幹システムとそのデータを連携する |
これは第5回で解説した既存システム連携を前提としています。本運用のRFIDシステムをあえて定義すると上記のようになります。
そして、本運用の場合は、現場の状況に多少の変化が生じても、とにかくデータ処理ができるという状態にしなければなりません。さらに当たり前のことですが、1年間を通じて運用ができるという状況が求められます。
これに対して、実証実験における運用期間は長くても1カ月程度であり、1年を通じて運用するという設計思想が欠けています。現場の環境について言及しましたが、データ処理の観点から見ても処理量の変動があります。当たり前のことですが、環境と処理の両面においてシステムのレベルがまったく異なるのです。
実証実験と本運用ではレベルが大きく異なる
実証実験のシステムのレベルについて、もう少し具体的に見ていきましょう。
例えば、対象物が金属やパレットなどの場合、実証実験ではICタグと対象物の間にスペーサーを利用することで、「読み取り/書き込みができた」「実証実験がうまくいった」というケースが多く見られます。
また、対象物のさまざまな位置にICタグを貼付し、リーダ/ライタも同様にさまざまな位置に設置をして最適な貼付位置、設置位置をつかんで終わりということになります。
実証実験でもフィージビリティスタディを実行しているのですが、そのレベルも異なります。本運用を前提としたフィージビリティスタディの場合は、これまで解説したように環境と処理の両面から季節変動を考慮し、長期間の業務運用を想定しながら進めていきます。その結果、テスト項目も実証実験より多くなり、また分析に費やす時間も多めになります。フィージビリティスタディの詳細については第2回を参照してください。
さらに実証実験の場合は、ユーザーも「RFIDを利用している」ということを意識して業務に臨んでいます。
従って、実証実験のときのパイロットシステムと本運用を前提としたパイロットシステムでは、システムそのものが大きく異なります。それだけでなく、プロジェクトに対する思考法も異なります。特にフィージビリティスタディフェーズが異なります。
本運用の思考法
本運用のためのパイロットシステムの場合、基本的には、フィージビリティスタディにおいて各種のテスト項目を実施して、結果の原因分析をして、もし性能の減衰などに対処が必要であれば、対処法をテストする、ということを繰り返します。
例えば、パレットにICタグを貼付する場合、実証実験の運用期間は1カ月程度ですので、その期間中、読み取りができればOKです。しかし、本運用ともなれば年間を通じてRFIDシステムを利用します。そのため、パレットの水分含有量、パレット自体が新しいか古いかなどで通信距離が変動することがあります。
これは水分含有量が主な理由ですので、フィージビリティスタディを実施している時期以外にも、雨の多い時期、雪の時期、あるいはパレットに乗る商品が水分を多く含む時期などを考慮する必要があります。水分の影響については第4回を参照してください。
この場合の正しいスペーサーの決定は、以下のようなロジックになります。
- テストの結果、十分な通信距離が出ていない
- その原因は木製パレットの水分含有量によるものと推察
- ということは、雨の時期や湿気が多いと性能の変動がある
- では、パレットで想定される水分含有量のパターンすべてをテストしよう
- それに合わせてスペーサーの厚さや大きさを検討しよう
- 結果として、最適なスペーサーに至る
つまり、フィージビリティスタディの中で、水分含有量のパターンすべてを洗い出す必要があります。そこまでを考慮してテストを実施する場合とごく短期のテストでは、結果として選択されるスペーサー自体も異なってしまいます。これに加えてデータ処理の観点からの分析も必要です。
もし、このような思考法をすることが困難という場合には、ビジネスコンサルティングで利用されているゼロベース思考をお勧めします。
ゼロベース思考は、ある事業で成功を収めた企業が、新規事業に対しても同じアプローチを取った結果、以前の成功体験に引きずられて失敗してしまうということを避けるための思考法です。異なるビジネスである以上、別のアプローチで臨む必要があるという視点に立ち、新事業に対してゼロベースで取り組んでいくというものです。
これをRFIDシステムに適用すると、フィージビリティスタディにおいて常にゼロベースで考えて、必要なテスト項目と対処法はすべて実施する、過去の経験からの判断は一切しないということになります。
事前に想定されるケースを洗い出して積み上げる手法と、それも含めてゼロベースで思考する手法のどちらを選択されてもよいでしょう。
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小売・電機精密業でのRFID利用事例 | |
Page1 実証実験と本運用ではレベルが大きく異なる 本運用の思考法 |
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