第5回
成功例で見る梱包業界のUHF帯RFIDタグ導入
株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2008年2月29日
RFIDシステムの導入が期待される分野の1つに物流が挙げられる。果たしてITベンダが思い描くRFIDシステムは、物流現場が求めているものなのだろうか(編集部)
生産現場におけるRFIDタグの有用性については、「第2回 生産現場が目指す日本のものづくり革新」で解説しました。RFIDタグの活用を、生産工程のみならず、資材や部品メーカーおよびサプライヤーからの調達物流をも網羅したサプライチェーンマネジメント(SCM)の体制の中で推進することにより、真の全体最適化が実現されるはずであるということについても触れました。
今回は、調達物流へのRFIDタグの実用事例を取り上げます。日通商事ロジスティクス・サポート事業部の鈴鹿LSセンターは、自動車部品の梱包業務を主流とする物流拠点です。ここでは、自動車部品メーカーから受け入れた荷物を、自動車メーカーの工場別(中国の仕向け地・港別)に仕分け、バンニング(コンテナ内に荷物を荷積みすること)するまでの輸出梱包業務にUHF帯RFIDタグを活用しています。
この事例は、梱包・物流業界では初めてUHF帯RFIDタグを導入したケースとして大きな話題を集めました。しかし、ここで注目すべき点は、業界初の導入事例という点に加え、RFIDタグの活用効果を創出するための綿密なプロジェクト体制を構築したことにあるのではないかと考えます。このような視点に立ち、鈴鹿LSセンターにおけるRFIDタグ活用のプロジェクトから実運用までの詳細について紹介します。
実証実験で実用ノウハウを蓄積
輸出梱包サービスを提供するロジスティクス・サポート事業部では、誤送や欠品ゼロを目標とした物流品質の向上、物流効率の30%アップ、さらには将来的な物流トレーサビリティの実現による顧客満足度の向上を目指し、2005年3月にRFIDタグの導入プロジェクトを発足させました。
そして、同年4月の総務省国内電波法改定を皮切りに、鈴鹿LSセンターにおける構内無線局の設置申請を行い、実験・運用のためのシステムを導入しました。これにより、RFIDタグの実用化に向けた本格的な実証実験を行うことが可能となりました(同時に、設備分野の梱包業務を中心に行う名古屋LSセンターでも無線局の設置申請が行われました)。
実証実験ではまず、RFIDタグの読み取り性能やその特性を調査するため、さまざまな梱包形態を取り上げ、ケース(外装容器)、バケット(内装容器)などの梱包容器の階層別に一括読み取りの精度テストが行われました。また、木箱、スチールケース、ダンボール箱など梱包容器の材質別に、そのパレタイズをも想定した実験を繰り返しました。
実証実験の結果として分かったことは、おおよそ以下の4点です。
1. 電波特性により、鉄と水は物理的に不適合
専用タグの用意が必要。天候やゲート付近の金属貨物の存在にも読み取りが影響される
2. 読み取りには一定のルール化が必要
RFIDタグの貼付方法と位置などに加え、ゲートに取り付けるアンテナの位置と数によって読み取りに違いが生じる
3. 100%読み取り可能な一定ルールが確保できる業務
対象領域、工程、梱包形態を検討すべき
4. 業務適用化への費用対効果
現状のRFIDタグ単価では、リターナブルでの活用を想定した運用形態であること
以上のような実証実験の結果を踏まえ、2005年10月より初期モデルケースとして、RFIDタグの一括読み取りの特性に見合う梱包形態を決定しました。
そして、荷物の受け入れから梱包、バンニングまでの一連の作業工程において、まずは、単品での取り扱いであった東洋電装製部品の上海向け輸出梱包業務に対し、システムの適応が検討されました。このシステムは2006年1月に完成し、テスト運用を経て同年2月6日から本稼働の運びとなったのです。
QRコードとRFIDタグのデータのひも付けを基本に
実際の改善課題として提起された点は、受け入れ検収から梱包、バンニングまでの業務が目視チェックで行われていた点にあります。RFIDタグを活用した作業のシステム化により、スピーディかつ正確な作業の実現が見込まれますが、そのための仕組みを構築するためには、自社だけのシステム化では実現し得ない課題がありました。
それは、入荷される荷物の情報をどのようにして収集し、荷受後の商品管理および作業の効率化に展開していくかという問題です。また、どのような荷物が入ってくるかも事前に知ることはできませんし、事前情報を得るにはそのための仕組みも必要となります。そこで、先の東洋電装との検討により、同社から入荷される部品の現品票(納品書)には、すべてQRコードを添付していただくようにしました。
左) 樹脂製の容器(バケット)に収められて、東洋電装から自動車部品が入荷される 右) バケットに張り付けられた梱包物の内容明細(現品表)の右上にQRコードが印字されている |
このQRコードには、入荷した部品のすべての情報(部品名、数量、仕向け地とその区分けコード、パーチェスオーダーナンバー)が収められています。入荷の際に、まずハンディターミナルでQRコードを読み取り、RFIDタグとのひも付け作業を行い、入荷時の最小単位であるバケットごとにRFIDタグを張り付けます。
青いカードがRFIDタグ。入荷受け入れ時に、荷物の内容明細が登録されているQRコードとRFIDタグがひも付けされる |
そして、梱包検証ゲートではバケット24個を母数としてまとめたケース単位で一括読み取りを行います。これにより、ケース内の欠品や梱包間違いをチェックするとともに、読み取った情報から梱包検証後のケース内梱包明細や、ケースへ張り付けるRFIDタグ入りケースマークラベルなどを自動的に発行します。バンニングの際の出荷検証作業でも、RFIDタグで自動認識させることで、コンテナ内の混載、誤送、欠品を防止する機能を持ったシステムです。
梱包検証の様子。ケースに収められたバケットをチェックゲートに通過させ、RFIDタグを一括読み取りする。ゲートの両側に読み取り装置があり、バケットのRFIDタグは、読み取り装置に対向するように外側に向けてケースに収めるようルール化した |
RFIDタグを用いた作業の流れを工程ごとに分かりやすく図式化しましたので、ご参照ください。
1ケース内に収められるバケット数を24個として母数化することにより、RFIDタグの欠陥による読み取り不良を検出します。また、RFIDタグの不備で読まない場合は、ケースマークラベルが出力されず次の工程に行けない仕組みとなっています。
左) 梱包検証がOKならば、
パッキングチェックシートとケースマークラベルが出力される。ケースマークラベルにはRFIDタグが内蔵されており、バンニングの際の出荷検証で使われる。また、この時点でバケットのRFIDタグは回収される 右) ケースに張り付けられたケースマークラベル。ケースはスチール製であるため、ラベルが金属部に触れないようにセロハンテープで浮かせた状態にしている |
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成功例で見る梱包業界のUHF帯RFIDタグ導入 | |
Page1 実証実験で実用ノウハウを蓄積 QRコードとRFIDタグのデータのひも付けを基本に |
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Page2 RFIDタグシステムの機能とその有用性 RFIDタグの回収・再利用、作業効率化によるコストメリット Gen2の早期適応と運用範囲の拡大を望む |
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