モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


第4回 「買い手」「売り手」の視点から購買行動をデザイン


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年6月12日


 コミュニケーションを重視したPOSカウンター「STYLISHPOS」

 STYLISHPOSは、フラットなカウンターの中にPOSレジやRFIDアンテナ、ICカードリーダなどを埋め込み、RFIDタグの付いた商品をカウンター上で滑らせることによって決済を行い、さらに購入した商品やお客さまの状態に合わせた情報配信を行うという情報配信POSカウンターです。

図3 商品を購入して、自宅で使い、また行きたいなと思うまで

 きっかけは、POSレジメーカーである東芝テックの専門店担当者の何げない一言でした。

「お客さまから、カウンターの中にPOSレジを隠したいとよくいわれるんですよ」

 POSレジメーカーでは、レジのユーザーであるチェッカーさんの使い勝手を一番に考え、POSレジと周辺機器を開発しており、それらが使われるお店の雰囲気や内装に調和するよう、個別にデザインができないのが現状です。そのため、POSレジは汎用的なデザインのものが多く、おしゃれなセレクトショップなど、お店の雰囲気に調和していないといったことが見受けられます。

 しかし、お客さまにとっては、POSレジはカウンターの上に置かれるものです。POSレジも統一された店舗イメージの一部になるのです。この問題提起が、新しい「決済の場づくり」の始まりとなりました。

 まずは、「高級店やイメージを重視する店舗で、POSレジはどのように使われているか」ということを確認するため、表参道にてフィールド調査を実施しました。表参道ヒルズや路面店など50店舗近くを順番に見て回りましたが、アパレル・アクセサリー、飲食店に至るまで、レジ周りは実に課題が満載。リーフレットやインフォメーションボード、卓上型の観葉植物などをディスプレイしてレジの背面を隠したり、また、店舗によっては、カウンターの高さをかなり高くしたり、レジを打っている店員さんの顔も見えないほど高い囲いで(まるで要塞のよう!)レジ全体を覆っている光景も見られました。

 これらの調査で、レジのインテリア性を保つための店舗側の苦労や工夫を確認することができたとともに、新しい課題も発見することができました。それは、「POSレジがあることで、店舗とお客さまとの壁も同時に作っているのではないか」ということです。

 インテリア性や作業スペースの問題だけならば、従来の建築や内装の考え方で解決できる部分も多かったでしょうが、それによる店舗とお客さまとのコミュニケーションの在り方の変化という仮説を見いだしたことが、いまから考えるとSTYLISHPOSに大きな付加価値を与えたように思います。

 これらの気付きを経て、STYLISHPOSの共通コンセプトは、「決済をスムーズかつスマートに行い、店舗と顧客の接点をより多くする新しい決済の場づくり」となったのです。これは、フィールド観察なくしては考え付かず、かつ、1社では導き出すことのできない、まさに他社とのコラボレーションによって生まれたコンセプトでした。

 機能を定義する際には、「コンテンツマイスター」開発の際と同じく、売り手と買い手両方の視点から、下記の5つの要件を設定しました。

売り手のニーズ

a. 店舗のインテリア性を保持し、省スペースを実現する完全フラットなカウンター什器(じゅうき)が欲しい
b. ICカードによるスマートな決済を前面にしながら、現金決済など従来の決済方法も実現したい

買い手のニーズ

c. 待ち時間を有効に活用したい

売り手と買い手の両方のニーズ

d. 買った後もお客さまとずっとつながっていたい
e. 気に入った商品やお店とは、ずっとつながっていたい

 カウンターの高さは、POSレジが最も操作しやすいといわれる高さに合わせ、奥行きは顧客との適度な距離感を保ちながら、最も奥行きのある現金収納機(ドロワ)が入る長さになっています。

 インテリア性については、店舗の内装に合わせるためにオーダーメイドが基本となります。高級ワインショップをイメージしたConcept Storeに設置されたものは、外装も高級感の漂う質感に仕上げました。

 EdyやQUICPay、Suicaなど、現在、何種類もの電子マネーが発行されています。使う使わざるにかかわらず、いまでは誰もが1枚は持っているのではないでしょうか。これらに対応するために、店舗ではICカードリーダの数がどんどん増えています。それが作業スペースを圧迫し、見た目にも乱雑な印象を与えていることが課題の1つに挙げられました。

 通常のレジのオペレーションでは、商品をすべてスキャンした後、顧客から支払い方法について伺い、「現金」「Edy」などのキーボードを押すと、ドロワが開いたり、リーダが起動して支払いを行える状態になったりします。

 STYLISHPOSでは、キーボードもカウンターの中に収納されており、特殊なエラー処理を行うときだけ引き出しを開けて操作するようになっています。通常の処理の際は、キーボードのボタンの代わりに、おしゃれなオブジェを滑らせると、該当する電子マネー用のICカードリーダの読み取り部分が光り、そこにICカードを置くと決済が完了するようにしました。現金のときは、カウンターに内蔵されているドロワが開きます。

 会計を終えてから、購入した商品をラッピングしてもらう場合や店員がICカードなどの処理をしている間、お客さまはカウンターの前で、数分の待ち時間が発生します。この待ち時間は、パンフレットなどをじっくり読むには短過ぎる中途半端な時間となりがちです。しかし、そんな中途半端な時間ほど、お客さまにとっては長く、無駄に感じてしまうのです。

 STYLISHPOSでは、この時間を有効に活用できるように、カウンターの上面部分に、購入したお客さまのためだけの情報を流して、いま購入した商品の使い方や次回へのお勧め情報の提供を行っています。

 カウンターの上面という場所が、いままさに精算をしているお客さまにしか見えないところであることから、この部分を「パーソナルエリア」として、プライバシーに配慮した情報配信をできる場所として位置付けました。

 これによって、お客さまは待ち時間を有効に活用できるようになるだけでなく、話題づくりのきっかけとなり、お客さまと店員さんの会話が弾み、いままで金銭授受だけの場所であった会計カウンターが、情報交換の場にもなり得ることとなったのです。

 また、情報配信エリアはもう1カ所あります。それは、「パブリック」と呼んでいるカウンターの側面部分です。広くて、少し離れたところからでも目に付きやすいカウンターの側面は、情報配信に最適であるように思いますが、レジ待ちの人などが並ぶと、途端に人影が邪魔になって、見づらくなってしまいます。

 そこで、カウンターの下にセンサを数カ所設け、人が立った部分を避けて、見える部分だけにコンテンツを集約して表示するようにしました。これは、お客さまの見やすさを考慮しただけでなく、広告スペースとして利用する際の、価値が下がらないという利点もあります。

 これまでは、店舗内でのお客さまと店舗の接点の話でしたが、最後の接点はお客さまが店舗を出てからです。STYLISHPOSでは、レシートの裏にパーソナルエリアに表示した情報を印字し、持ち帰っていただくようにしています。例えば、購入されたワインの通販サイトへ誘導するQRコードや、料理のレシピ、レストランの地図などです。

 これは、メンバーズカードを発行して顧客を囲い込む、FSP(Frequent Shoppers Program:フリークエント・ショッパーズ・プログラム)の仕組みよりももう少し緩やかな関係をイメージしています。

 店舗から出ても、レシートに書かれている情報を基に次のアクションを起こすと、その経験は記憶として顧客に蓄積されます。また、財布を整理するような、ふとした瞬間に店舗のことを思い出してもらえることもあるでしょう。

 わざわざダイレクトメールを大量に発行しなくても、捨てられがちなレシートを活用できる、という非常に単純ですが、小さな工夫です。レシートの裏面にその都度印字ができるという技術は比較的新しいもので、その特徴がニーズとピッタリとはまった活用方法であるといえます。

3/4

Index
「買い手」「売り手」の視点から購買行動をデザイン
  Page1
ちょっとだけ未来の店舗「Concept Store」
顧客が迷い、選ぶプロセスに寄り添う「コンテンツマイスター」
  Page2
買い手と売り手の両方のユーザーの視点でモノを考える
Page3
コミュニケーションを重視したPOSカウンター「STYLISHPOS」
  Page4
店舗の「いま」をサポートする「場づくり」へ

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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