モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


第4回 「買い手」「売り手」の視点から購買行動をデザイン


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年6月12日


 買い手と売り手の両方のユーザーの視点でモノを考える

 商業空間に関するさまざまなサービスやプロダクトを企画・開発する際に、私たちが決して忘れないようにしていることがあります。それは、「買い手と売り手、両方のユーザーの視点でモノを考える」ということです。

 店舗という空間は、顧客と店員が、接客という行為を通じて商品や情報をやりとりする場であり、その2種類のユーザーが、いわば空間の中に平等に存在しているといえます。従って、顧客だけにメリットがあるサービスを提供したとしても、店舗の収益が向上したり、接客効率が上がったりしなければ、そのサービスは成功したとはいえません。逆に、店舗の効率化が進んだとしても顧客側に何もメリットがなければ、集客や収益にはつながらないでしょう。

 今回の開発では、商業空間におけるエンドユーザーのニーズを、「買い手のニーズ」と「売り手のニーズ」に明確に分けてコンセプトを構築しました。そして、「商品を選ぶ」という購買のプロセスの中で、顧客と店舗の両者を観察・ヒアリングし、その中から「コンテンツマイスター」に盛り込むべき要素を抽出しました。こうすることで、プロダクトが提供する機能やサービスが「誰にとって」「なぜ」必要なのかを常に見失うことなく進めることができました。

 では、ここからは、観察・ヒアリングから発見した次の4つの要素を、どのように具体的なサービスとして実現していったのかを紹介していきたいと思います。

買い手のニーズ

a. 顧客はラベルには書いていない情報を本当は知りたい
b. 商品を選ぶときは、比較をしながら吟味したい

売り手のニーズ

c. メーカーや店舗はラベルには書き切れない情報も伝えたい
d. 店舗は、顧客が「興味を持った」が「買わなかった」情報を知りたい

 膨大な種類のワインの中から自分が求めるワインを選ぶのは、それなりの知識を必要とするものです。顧客がワインを選ぶプロセスを分析してみると、ワインの知識にたけている顧客は自分の持っている知識を頼りに銘柄やラベルに書かれている情報を見て選びますが、「ワインに興味があるけど、あまりよく分からなくて……」といった初心者の顧客は、どんな料理に合うかなどの「口コミ」情報を基に商品を選んでいることに気付きました。

 また、店舗でワインを購入する人を観察していると、この初心者の顧客が大多数を占めていました。そして、ワインを1本じっと眺めるよりも、2本を手に取って、同行者に「どっちがいいかな?」などと聞きながら行動する様子がよく見受けられました。

 そこで、私たちはワインに詳しくない顧客でもスムーズにワインを購入できるようなシステムを提供するために、今回の買い手側のターゲットユーザーを「ワインに興味はあるけど、詳しくは知らない」といった「初心者の顧客」とし、サービスを検討していきました。

 この初心者の顧客が頼りにするのは、「口コミ」情報です。ワインに詳しい知識がない人でも、味わいやどんな料理に合うかなどの「口コミ」情報は理解することができます。しかし、「口コミ」情報をWebや知人から得ることはできますが、ワインを実際に検討して購入する店舗では、参考にしたい「口コミ」情報を得る機会があまりありませんでした。

 メーカーから提供する情報として、「ワインのラベル」に書かれた産地や味わいなどの情報は表記されていますが、どういった料理と合うか、またそのレシピなどは掲載されていないのです。

 しかし、メーカーのWebページなどを見ると、そういった情報をたくさん得ることができます。メーカーが伝えたい情報も、店舗に商品が置かれる時点ではそぎ落とされてしまい、限定的な情報となってしまっているのです。

 そこで、「コンテンツマイスター」では、「顧客が本当に知りたい情報」と、「メーカーや店舗がラベルに書き切れないが本当は伝えたい情報」を、「口コミとおすすめ料理」に集約し、それらをディスプレイに表示することとしました。

 複数のディスプレイを効果的に使って、言葉だけではイメージできない産地を地図付きで表現したり、ついでいるさまを動きのあるコンテンツにしてワインの色を表現したり、細かい部分での工夫も盛り込んでいます。

 また、違う種類のワインを手に取って比較検討しながらワインを選んでいたという観察結果を基に、棚の上には、全部で3本のワインを置くことができるようにし、隣り合う2本のワインの口コミ情報が比較できるようにもしました。

 口コミ情報も、整然と羅列させるのではなく、大きさを変えたりランダムに表示したりすることで、それぞれの意見の重要度や関連性もビジュアル的に表現しています。

 現在、店舗が、顧客の好みや売れ筋を判断するための手段は、POSデータ(売り上げデータ)しかありません。しかし、効率的で効果的なマーチャンダイジングを実現するためには、さまざまな側面から購買を分析する必要があり、取得したいデータを突き詰めていくと「顧客は何に興味を持ったのか」「なぜ買わなかったのか」といった顧客の心理にまで及びます。

 顧客の心理を読み取ることまでは現在の技術では困難ですが、「コンテンツマイスター」ではそういった多角的な分析へと少しでも近づけるように、ワインが置かれた回数をカウントし、「人気ランキング」をリアルタイムで更新するようにしました。

 また、先ほどの「口コミ」情報と「おすすめ料理」情報のほかに、その店舗に訪れたほかの顧客がどのワインをよく手に取ったのかという情報は、初心者の顧客にとってワインを選ぶ際に有益な情報となります。

 店舗の方が売上と突き合わせながらバックヤードで参照できるだけでなく、顧客にもあえて見せることで、店舗での商品選びの行動自体が変化していくのではないかという試みも含んでいる機能です。

 このように、「コンテンツマイスター」は、一貫して「売り手」と「買い手」の視点を持ってコンセプトメイキングからプロダクトの実現までを行い、商品を検討して購入を決定する際の「買い手のニーズ」と「売り手のニーズ」を満たしたサービスを提供できたプロダクトの一例といえます。

 次章では、精算から帰宅、再来店のプロセスをデザインしたプロダクトを紹介します。

2/4

Index
「買い手」「売り手」の視点から購買行動をデザイン
  Page1
ちょっとだけ未来の店舗「Concept Store」
顧客が迷い、選ぶプロセスに寄り添う「コンテンツマイスター」
Page2
買い手と売り手の両方のユーザーの視点でモノを考える
  Page3
コミュニケーションを重視したPOSカウンター「STYLISHPOS」
  Page4
店舗の「いま」をサポートする「場づくり」へ

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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