第1回
RDSC Framework for Logisticsとは何か
須永 啓太
イー・キャッシュ株式会社
プロフェッショナルサービス事業部
執行役員
2006年7月14日
まだすべての仕様が定まっていないEPCglobalネットワークシステムだが、フリーのミドルウェア「RDSC Framework」を使って、体験してみよう。EPCglobalが目指すモノが見えてくるだろう(編集部)
「EPCglobal」と聞いて、何を連想されるでしょうか? RFIDの仕様? ウォールマートやヨドバシカメラのような小売業が導入している仕様? 流通システムの標準化仕様?
すべての答えが正解ですが、これらはEPCglobalの一部分のみを表現しているといわざるを得ません。
EPCglobalネットワークシステムは、バーコードに続く次世代の流通システムの標準化仕様として策定が進められています。しかし、その仕様は流通システムの規格というだけにとどまらず、「すべてのモノの位置情報を、インターネットという汎用的なネットワーク網を通じて把握すること」を目標にしています。
例えば、EPCglobalネットワークシステムで定義されているEPC Discovery Service(EPC DS)は地球上に存在するすべてのモノの位置情報を検索できる可能性を秘めています。
もし、EPCglobalネットワークシステムによって世界中にあるすべての業務システムが結ばれた世界が誕生すれば、いままでのようにお目当ての商品を売っているECサイトやメーカーのWebサイト上の商品情報だけではなく、実際に商品を販売している実店舗までもがインターネットからの検索対象となり得る時代が到来します。
いつかは、「人気でなかなか手に入らない商品が、いま、どの店舗で実際に販売されているのかをGoogleMapで確認する」「ブランド品が偽物でないかを調べるために、どこの工場で生産されて、どの倉庫から小売店に出荷されたかをブランドのメーカーサイトで確認する(タギング:Tagging)」といった使い方が普通にできる時代(これがWeb 2.5だとか、Web 3.0だとか、むちゃなことはいいませんが……)が来るのです。
このようにEPCglobalネットワークシステムは、「流通システムを手掛けているIT技術者」のみが理解すべき規格というよりは、「SOAP」「RFC」「Web 2.0」のように「Web系のIT技術者」「オープンシステム系のIT技術者」がもっと身近に感じて理解すべきものと考えています。
本連載では、広くオープン系技術者を対象に、EPCglobalアーキテクチャを説明するとともに、EPCglobalネットワークシステムに対応したフレームワークとしてリリースされたフリーウェア「RDSC Framework for Logistics」を使って、「EPCglobalネットワークシステムとは何か?」を体験しながら、理解をしていきましょう。
連載の最後には、RDSC Framework for Logisticsを使って実際にRFID業務アプリケーションの開発をしていきますので、お楽しみに。
【RDSC Framework for Logistics】 http://www.rdsc.jp/middleware/rfl.aspx |
EPCglobalネットワークシステムで未来のSCMはどうなる?
EPCglobalネットワークシステムは、EPCglobal, Inc.が提唱している次世代の流通システムにおける標準規格であり、RFID技術とネットワーク技術を組み合わせたグローバルなシステムとして、全世界のシステムを連携するための規格です。EPCglobalの詳細なアーキテクチャについては後述しますが、各システムはインターネット上でEPCIS(Information Service)というデータ交換コンポーネントを介してモノの位置情報を交換することができます。
「ほにゃらら2.0」ブームに便乗するようで恐縮ですが、いままでのSCM(サプライチェーンマネジメント:Supply Chain Management)システムをSCM 1.0とした場合、EPCglobalネットワークシステムで構成されるSCMシステムはSCM 2.0といえるかもしれません。SCM 1.0システムが直面している課題は大きく分けて「SCMシステムのコストなどを含めて導入障壁が高い」「バーコードでは商品の完全な個品管理はできない」の2つではないでしょうか。
それではSCM 2.0とはいったいどのようなものでしょうか。筆者なりにブレインストーミングした結果はこうです。
SCM 1.0 | SCM 2.0 |
---|---|
パッケージベンダの独自規格 | EPCglobalネットワークシステム |
クローズドなネットワーク | インターネットを使ったオープンなネットワーク |
バーコード | RFIDタグ |
バーコードを使った商品管理 | EPCコードを用いた商品管理(個品単位での商品管理) |
非公開データベース | ONS |
パッケージベンダ主導 | エンドユーザー、パッケージベンダの共同推進 |
パッケージソフト | SOA |
独自インターフェイス | WEBサービス |
SCM 2.0つまりEPCglobalネットワークシステムは、インターネットという世界で最も発達した通信網を使用することを規定しました。また、アーキテクチャにおいてもWeb技術をベースとしたものが多数採用されています。
例えば、インターネットの世界では各サーバーのIPアドレスを解決するための仕組みとしてDNSがありますが、EPCglobalネットワークシステムではDNSを拡張したONS(Object Name Service)によって、商品を個品単位で管理するEPC(Electronic Product Code)が格納された各システムのIPアドレスを解決するといったアーキテクチャが導入されています。
これらはSCM 1.0時代の反省、つまりSCM導入時の企業間ネットワークの構築に膨大な金額が掛かったことや、オープン系技術者がなじみやすい統一された接続インターフェイスがなかったことによるシステム開発コストの膨大化から生まれているものです。
さて、EPCglobalといえば、RFID技術についても触れる必要があります。例えばRFID技術が導入されるとどのように企業の業務は変わるでしょうか?
例えば、スーパーのレジをイメージしてください。店員さんが1つ1つの商品のバーコードをPOSに読み取らせていますが、RFIDの導入によってそのような場面はなくなります。RFIDリーダ/ライタによって複数のICタグを一括で読み取ることで、会計がよりスムーズになるといった業務改善が行われるものとされています。
そのほか、UHF帯を使用するRFIDリーダは5メートル以上離れた場所からでもICタグを読み取ることが可能です。これをうまく使えば、ICタグを貼った商品を積んだフォークリフトが倉庫に入っていくだけで在庫の棚卸しを完了することもできるでしょう(実際には検品作業などもあるとは思いますが)。
このようにSCM 2.0(EPCglobalネットワークシステム)では、RFID技術を用いて業務コストの改善を図るとともに、Web技術を積極的に採用することで開発コストの削減と広範囲でのシステム間連携を図ることを目指しています。
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Index | |
RDSC Framework for Logisticsとは何か | |
Page1 EPCglobalネットワークシステムで未来のSCMはどうなる? |
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Page2 モノを個品として認識するEPC EPCglobalネットワークシステムを構成するコンポーネント |
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Page3 RDSC Framework for logisticsとは何か |
RDSC Frameworkで体験するEPCglobal 連載インデックス |
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