第2回 RFIDシステムのチューニングとは何か


布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年5月10日


 不安定なパラメータ、見えないパラメータ

 ラジオからギター、さらにピアノへとパラメータが増えるにつれてチューニングが難しくなるとしても、調整後の状態が維持できさえすれば、そのまま使い続けられます。つまり、手間の掛かるチューニングはたまにやるだけで済むわけです。

 ところが、実際には調整直後は良い状態でも、少しずつ、しかし、確実にその状態からズレていくものです。これはなぜでしょうか。

 ラジオはまだしも、ギターやピアノなどのアコースティック楽器は気温、湿度の影響を受けます。気温が上がれば金属でできた弦は伸びて張力が下がります。湿度が変われば木でできた胴体が伸縮したり、特性が変化したりします。

 この場合、気温も湿度もパラメータとなります。これらは測定できますが、一定にすることが難しい不安定なパラメータといえます。これもチューニングでは無視できないパラメータです。

 また、良い音で演奏するためには楽器自体のチューニングだけでなく、演奏場所も大切になってきます。建物の大きさ、床、壁、天井の素材、形状、カーペットやカーテン、そして観客の数、場所など数え切れないくらいの要素があります。これらの要素もパラメータといえるのですが、測定や数値化が非常に困難です。このようなものは見えないパラメータといえるでしょう。

 チューニング準備完了!

 さまざまな例題を使って、チューニングとそのパラメータについて述べてきました。そこで分かったことは下記のようになります。

  • チューニング目的を明確にする
  • 目的に合った具体的なチューニング目標を設定する
  • そのチューニング目標に関連するパラメータを列挙する
  • 制約条件(パラメータの定義域)を明らかにする
  • パラメータの性質を分析する
  • パラメータを調整する

 ここまで来てチューニングの準備ができたことになります。では、RFIDシステムのチューニングについて考えてみましょう。

 RFIDシステムをチューニング

 それではRFIDシステムでのチューニングの準備を始めます。まず、下図のシステムを今回のチューニング対象とします。シンプルな例ですが必要なエッセンスはすべて含んでいますので例題として分かりやすいと思います。

図3 チューニングすべきRFIDシステム

 チューニング目的はスループット向上とします。これは目的としては立派ですが、残念ながら具体的ではありませんので分かりやすいチューニング目標に落とし込む必要があります。今回はシステムのスループットを10%改善することを目標とします。関連するパラメータを列挙するとエラー率、正常系処理速度、異常系処理速度になります。

e : エラー率
I : 正常系処理速度(処理/秒)
R : 異常系処理速度(処理/秒)

 前提条件としてe=0.05(5%)、I=10、R=1とするとP≒6.897になります。この状態のシステムを下記の目的、目標でチューニングします。

  • チューニング目的:スループット向上
  • チューニング目標:スループット10%改善
  • パラメータ:エラー率e、正常系処理速度I、異常系処理速度R

 次に各パラメータの性質を分析しましょう。直感的にエラー率が下がればパフォーマンス向上になることは分かりますが、冒頭でエラーのないシステムは必ずしも最善でないと述べました。ここまで読み進んでこられた方ならもうお分かりのことと思いますが、エラーをなくす、または減らすことは、最終目的のためにエラー率という1つのパラメータを調整しているにすぎません。

 では、エラー率の改善数値目標を設定してみましょう。そのためにはエラー率変化とパフォーマンス変化の関係を明確にする必要があります。これは前回の記事で紹介したパフォーマンス計算式から導き出せます。

 パフォーマンスPをエラー率eで偏微分すればエラー率の変化に伴うパフォーマンスの変化が求められます。

 この式に前提条件のe=0.05(5%)、I=10、R=1を代入すると、

が導き出せます。これはeの変化量分のPの変化量ですので、eが0.01(1%)変化した場合は、

となります。つまり、eが1%減少するとPは約0.43増える計算となります。ただし、元の式を見れば分かるように、eとPは比例ではなく、eの値とともに変化量も変わります。ですから、より正しく表現すればe=0.05の点でのグラフの傾きが約−42.81であるということです。

 同様にほかのパラメータについても分析しましょう。

 これらの式にe、I、Rを代入すれば、各パラメータを調整したときにどれだけパフォーマンスが変化するかが分かり、目標値を達成する各パラメータの値を計算することができます。

 実際のチューニングではパラメータを1つずつ調整しますが、ここで紹介した式は調整パラメータの優先順位を決めるときにも役立ちます。

2/3

Index
RFIDシステムのチューニングとは何か
  Page1
そもそも“チューニング”とは?
チューニングの目的と目標
パラメータの数が増えると作業が複雑になる
Page2
不安定なパラメータ、見えないパラメータ
チューニング準備完了!
RFIDシステムをチューニング
  Page3
エラー率のパラメータ
チューニングの階層構造
チューニングそのものもチューニング対象
トータルチューニングが重要


RFIDシステムのチューニングポイント 連載インデックス


RFID+IC フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)
- PR -

注目のテーマ

Master of IP Network 記事ランキング

本日 月間
ソリューションFLASH