第2回 RFIDシステムのチューニングとは何か


布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年5月10日


 エラー率のパラメータ

 エラー率は調整すべきパラメータですが、直接調整できるものではありません。いい換えればエラー率もほかの要素(パラメータ)で構成されています。エラー率に関係するパラメータは以下のように多岐にわたります。

  • タグの種類、タグ形状
  • タグが張り付けられる対象物の材質、大きさ
  • 同時読み取りタグ枚数、各タグの配置
  • アンテナ−タグ間距離、位置関係
  • リーダ内部リトライ回数
  • アンテナ出力、変調度など
  • 周辺環境
      ノイズ源の有無、距離
     電波反射体の有無、形状、距離
     電波吸収体の有無、形状、距離

 特に周辺環境パラメータは見えないパラメータの典型的なものです。これらは測定も困難ですし、調整範囲も特定しにくいものです。その結果、これらのパラメータがRFIDシステムのチューニングの難易度を上げています。

 チューニングの階層構造

 チューニング目標に合わせてパラメータを分析し、それぞれに目標値を設定しました。これでシステムのチューニング目標が各パラメータのチューニング目標にブレークダウンされたことになります。

 しかし、各パラメータの目標値を実現するためには、さらに細かいパラメータを“チューニング”しなければなりません。これは、チューニングに階層構造があって、システムは各パラメータとそれぞれの関係で構成され、その各パラメータもさらに細かいパラメータとそれぞれの関係で構成されていることを意味します。

 そして、チューニング全体は大目標(この場合はシステムチューニング目標)を繰り返しブレークダウンして、これ以上細かくできない詳細パラメータの目標値を設定するトップダウンのブレークダウンフェーズと各詳細パラメータを調整して上位目標を達成し、最終的に大目標に到達するボトムアップのチューニングフェーズによって構成されます。

図4  トップダウンとボトムアップ


 チューニングそのものもチューニング対象

 ここまでRFIDシステムのチューニングについて解説しましたが、チューニングそのものも時間やコストの制約の中で最善の結果が求められるシステムと考えられます。つまりチューニングという行為もチューニング対象になるということです。何だかややこしい話になってきました。

 もし時間やコストを気にすることなく、とことんチューニングして構わないならば、相当の高いレベルまでチューニングできるはずです。特にRFIDシステムでは電波という見えない媒体を相手にするため、どうしてもチューニングに時間がかかる傾向があります。

 しかし、実際には限られた実運用までの時間とコストの制約がある中で作業することになります。その場合はパラメータ調整にかかる時間、コストと得られる効果を前もって分析し最善のチューニング方法を見つける必要がありますが、この分析もチューニング対象になり最適化は限りなく続くことになります。

 トータルチューニングが重要

 チューニングとはさまざまな制約条件下で最適な設定をすることなのですが、実際の調整設定の前にその対象システムの分析にも多くの時間とコストが掛かります。システムごとに異なる要素の分析、調整はその都度行うしかありません。

 しかし、それ以外の部分、つまり要素の分析手法やリーダ/ライタ、アンテナの特性、市販タグの性能評価などの基礎データの蓄積があれば、システム分析に掛かる手間が減って実際の調整に注力できます。

 システムの設計時点で複雑な仕組みを使えば理論値としての性能は高くすることができます。例えば、2つのアンテナとリーダ/ライタを同時並列動作させれば理論上は2倍のスループットになります。さらに、並列台数を増やせばそれだけ理論スループットは増しますが、同時並列動作の場合は1つのアンテナが他方に対してはノイズ源になりかねません。チューニングの観点ではパラメータが増え、難易度がどんどん高くなります。

 一方、シンプルなシステムではチューニングが容易で、比較的短期間に性能を十分に引き出すことができるでしょう。このように実運用までの作業(システム検討、設計、開発、設置、調整、運用、保守、維持)を踏まえ、チューニングも考慮に入れたシステム全体の最適化をする、つまりトータルチューニングで、さまざまな制約条件をクリアしながらパフォーマンスも満足できるシステムを作ることができます。

 今回はチューニングの考え方からRFIDシステムにおけるチューニングの難しさを説明しました。次回は構築したRFIDシステムをさらに効率よく使う方法を紹介します。

3/3
 

Index
RFIDシステムのチューニングとは何か
  Page1
そもそも“チューニング”とは?
チューニングの目的と目標
パラメータの数が増えると作業が複雑になる
  Page2
不安定なパラメータ、見えないパラメータ
チューニング準備完了!
RFIDシステムをチューニング
Page3
エラー率のパラメータ
チューニングの階層構造
チューニングそのものもチューニング対象
トータルチューニングが重要

Profile
布施 圭介(ふせ けいすけ)

ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長

市販アプリケーション開発に始まり、アルゴリズム研究、IPv6コンテンツ配信実験、技術サポートなど多様なプロジェクトを経験。ハードウェア制御ドライバからアプリケーションに至る幅広い開発経験に基づき、現在はRFIDの周辺ソフトウェア開発チームを担当。

RFIDシステムのチューニングポイント 連載インデックス


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