FeliCa解体新書

非接触ICに最適化された「FeliCa」の正体


小國 泰弘
ソニー株式会社
FeliCaビジネスセンター
2006年7月6日

 FeliCa無線通信インターフェイスの特徴

 非接触ICカードには、その通信距離により複数のタイプが存在する。そのうち、FeliCaは、13.56MHzの搬送周波数を利用し、0〜十数センチ程度の通信距離に対応する「近接型」の分類に属する。

 この近接型には、FeliCa以外に、主としてISO/IEC 14443として規格化されたType A方式とType B方式があるが、FeliCaはこれらの方式をさらに改善した無線通信インターフェイスを採用している。

【参考記事】
5分で絶対に分かる非接触ICカード

●符号化方式

 FeliCa無線通信インターフェイスでは、リーダ/ライタおよびICカード上のFeliCa OSで生成されたコマンド・データ/レスポンス・データを符号化し送受信を行うが、シリアル通信などで通常利用されるものとは異なり、「マンチェスター(Manchester)方式」と呼ばれる符号化方式を利用している。

 マンチェスター方式は、「0」はビット区間の中央で低レベルから高レベルに、「1」は高レベルから低レベルに変化させる決まりとなっており、必ず1ビット内に高低変化が発生するようになっている。このため、カードとリーダ/ライタの距離が変動するという非接触ICカードに特有な環境下にあっても、ビットを検出しやすくノイズにも強いという特長を持つ。

 例えば、Type B方式は、高レベルで「1」、低レベルで「0」と符号化するNRZ方式を採用しているが、このNRZ方式は、接触ICカードのデジタル伝送方式と整合性を確保できるという利点がある一方、転送するデータによって(同じビットが連続して続く場合など)平均値が偏り、距離が変動した場合に0/1が判別しづらいという弱点がある。こうした点からも、FeliCaはより、非接触ICカードに最適な方式を採用しているといえる。

マンチェスター方式とNRZ方式

●変調方式

 こうして符号化されたデータは、Type A方式やType B方式と同様、ASK変調(振幅偏移変調:Amplitude Shift Keying)方式と呼ばれる、搬送波の振幅を入力符号に対応させて変化させる変調方式で無線通信される。FeliCaは、このASK変調方式に、「ASK10%」を採用している。

 ASK10%は、Type A方式が採用している「ASK100%」と異なり、リーダ/ライタとカード間の通信の最中に、変調で電力が途切れることがない。非接触ICカードは、リーダ/ライタからの無線による電力の供給で動作しており、この面からもFeliCaは非接触ICカードにより適した方式を採用していることが分かる。

ASK10%とASK100%
ASK100%では、0の時に電力が途切れている

●搬送波

 FeliCaは、Type A方式やType B方式と異なり、副搬送波を用いない対称形構造(半二重通信)で通信速度向上を図っている。副搬送波を用いた場合、全二重通信が可能となる一方で、通信オーバーヘッドが増加し、処理も複雑になるため、かえってパフォーマンスが低下する可能性があるうえ、論理的な通信速度上限値が低下するというデメリットがある。

Type A方式やType B方式では、カードからのデータ通信において847kHzの副搬送波を使用しており、13.56MHzを使ったFeliCaと比較して理論的な通信速度は遅くなる。

 FeliCaでは副搬送波を用いず、単一周波数とすることで、シンプルな仕組みで通信速度を最大限に向上させることができ、理論的には847kbps以上の通信が可能である。

●アンチコリジョン

 アンチコリジョンとは、リーダ/ライタの読み書き可能エリア内に複数のカードが存在した場合に、それぞれのカードを個別に処理する方法のことである。FeliCaでは、このアンチコリジョンに「タイムスロット方式」を採用している。この方式は、リーダ/ライタ側からのリクエストに対し、カードがそれぞれ乱数を生成し、その乱数に応じたレスポンス時間帯にレスポンスを返すことでカードの特定を行うというものである。

 Type B方式が採用している「スロットマーカー方式」に類似しているが、スロットマーカー方式はリーダ/ライタが乱数1つ1つを順に問い合わせていくのに対し、タイムスロット方式はリーダ/ライタからのリクエストが初めの1回で済むため、トランザクション回数が少ないという特長があり、処理全体の高速化に貢献している。

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Index
非接触ICに最適化された「FeliCa」の正体
  Page1
幸福をもたらすFeliCaの歴史
Page2
FeliCa無線通信インターフェイスの特徴
  Page3
FeliCa OSのファイルシステム
マルチアプリケーションに対応した相互認証と縮退鍵
データの整合性を保つメモリ保護機能
FeliCaのセキュリティ機能

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