TRONSHOW2007 レポート
「どこでもコンピュータ」はどこへ向かうのか
岡田 大助
@IT編集部
2007年1月12日
見えてきた! 「ucode」とは何か
TRONSHOW2007では、基調講演のほかにもパネルセッションやセミナーが数多く開催された。ユビキタスIDアーキテクチャの中心となるucodeについて、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所副所長の越塚登氏が講演を行った。
越塚氏は、ユビキタスを識別番号付与運動と評価する。ユビキタス社会において重要なことは、現実世界の状況(コンテキスト)を自動的に認識することだ。しかし、同氏は「コンテキストが何かということは、漠然としている。明確な定義もなく、実現手段は多様だ」と語る。
多様な手段の1つとしてucodeが挙げられる。モノや場所、概念にucodeを付与し、ucodeとucodeの関係を表現したものをデータベースに登録し、それを取り扱うことによってコンテキストを把握するのだ。これを「UCR(ucode関連)モデル」と呼ぶ。越塚氏によれば、「UCRモデルは現実世界をデジタル化して切り取るためのフレームワーク」だ。
ucodeは128ビットの固定長のコード体系で、「1兆人が毎日1兆個のucodeを付与しても1兆年使えるうえ、小さい方がタグに入れやすい」という理由で定められたという。また、個体を識別するためのユニークな番号に過ぎず、コードそのものに意味を持たない。そのため、既存のコード体系を包括することができる。なお、ucodeのID割り当てはユビキタスIDセンターが行う。
ucodeには、実ucode、論理ucode、関係ucodeの3種類が存在する。実ucodeは、モノや場所といった個体を識別するためのコードで、論理ucodeは、人間にとって意味があっても現実のモノに対応できない論理や概念を識別する。関係ucodeは、論理ucodeの一部に含まれるもので、2つのucodeの関係という論理概念を表す。
具体的には、個別のペットボトルに付与されたucodeは実ucodeで、その中身の水という液体(の概念)に付与されるのが論理ucode、「あるペットボトル(ucode1)には水(ucode2)が入っているのは『おいしい水』という商品」という関係を表すのが関係ucodeとなる(関係ucodeは「名称」)。
UCRモデル |
「名称」以外にも「生産地」や「原料」、「生産者メッセージ」などの関係ucodeを組み合わせれば、巨大な関係グラフ構造となり、これをucodeグラフと呼んでいる。越塚氏は、「世の中を3つのucodeの組の組み合わせで表現できる。シンプルな体系でなければ、人が扱うことができなくなる」と説明した。
実際に、モノや場所に付与された実ucodeを読み出した場合は、ネットワークを経由して「ucode関係データベース」と呼ばれる広域分散データベースにアクセスし、必要な情報が格納された「ucode情報サーバ」を探し、データを表示する。ここで利用されるネットワークには、既存のインターネットを変更せずに構築できるオーバーレイネットワークが利用される。
ユビキタス・ショーケースに見る要素技術
会場内で大きな面積を占めたユビキタス・ショーケースでは、ハンドヘルド端末「ユビキタス・コミュニケータ(UC)」の最新機種や、ucodeを利用したソリューションの展示が行われた。
要素技術としては、ucodeの仕様などをまとめた「uID基盤」の紹介、業務用UCや従来型UCよりも小型化された新型UCの展示、ユビキタスIDセンターで認定された各種認定タグなどが出展された。認定タグには、13.56MHz、950MHz、2.45GHz帯のパッシブタグや、「Dice」と呼ばれるサイコロ大のアクティブタグのほか、バーコードや2次元コードといった既存の印刷タグなども含まれている。
左)アクティブタグ「Dice」のバリエーション 右)左から従来型、業務用、新型UC |
ucodeを利用した応用システムとしては、「ユビキタス空間場所情報システム」「ユビキタストレーシングシステム(食品トレーサビリティや優良住宅部品トレーサビリティ)」「サプライチェーンマネジメント(SCM)」などが紹介された。
ユビキタス空間場所情報システムとは、ucodeを場所に対して割り当てることにより、場所と情報を結びつけるシステムを指す。国土交通省の「自律移動支援プロジェクト」として国内で実証実験が行われており、TRONSHOWの会場内で新たな実証実験「東京ユビキタス計画・銀座」の開始が、石原慎太郎都知事を招いて宣言された。
食品トレーサビリティでは、リンゴの表面に可食性インクでucodeを印刷するデモが行われ、来場者は受け取ったリンゴに与えられたucodeを専用Webサイトで入力することで生産履歴や生産者からのメッセージを確認することができた。
優良住宅部品トレーサビリティでは、財団法人ベターリビングが優良住宅部品(BL部品)として認定した住宅部品(デモでは火災警報機)に対してucodeを付与し、品質や性能、アフターサービスの有無などを管理する仕組みが紹介された。
左)可食性インクでリンゴの表面に印刷されたucode 右)ucodeタグを貼付した火災警報器 |
サプライチェーンマネジメントでは、2006年2月から3月にかけて、青山商事のバックヤードで実証実験が行われたスーツの流通管理システムが紹介された。実用化を前提とした実験では、スーツ1着ごとにucodeタグを縫いつけ、生産工場から流通センター、実店舗まで追跡を行った。デモではバックヤード用の情報端末が展示されたが、表示するデータを変更することで、購入希望者に有益な情報(スーツの素材や縫製方法、お勧めのワイシャツやネクタイ)を提示することも可能だ。
左)リーダが内蔵された壁にハンガーをかけると右側の端末に情報を表示する 右)袖口に縫い付けられたucodeタグ |
大小さまざまなブースが出展されていたが、その中でも注目を集めていたのが、独立行政法人宇宙研究開発機構(JAXA)のブースだった。2006年12月に打ち上げが成功した(TRONSHOW当時は打ち上げ前)技術通信衛星VIII型「きく8号」と打ち上げロケット「H-2A」の模型が人気の秘密だ。 きく8号の特徴であるテニスコート1面分のアンテナ(送信用と受信用で2面分)を使って、地上から小型アンテナを接続した専用UCと高度3万6000キロメートルの静止軌道上の衛星との直接通信を実験する。これが成功すれば、地上インフラが利用できない場所や、大規模災害時における衛星通信が実用化される。
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