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連載:コンバージェンス項目解説(1)

4ステップで進める資産除去債務への対応

市瀬洋生
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/9/3

企業はIFRSだけでなく、現在進行中のコンバージェンスにも対応が求められている。コンバージェンス対応を適切に行うことはIFRSの円滑な導入にもつながる。コンバージェンス項目解説の第1回は「資産除去債務に関する会計基準」(→記事要約<Page 3>へ)

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基準適用へ向けての対応

 資産除去債務の会計基準適用へ向けての対応として、(1)除去義務がある有形固定資産・有害物質の実態調査、(2)資産除去債務の試算(影響額の把握)及びルールの確立、(3)関係部署との連携体制の構築、(4)グループ会社への周知、の4つのステップで進めていくことが望ましい。

(1)除去義務がある有形固定資産・有害物質の実態調査

 経理部門は、関係部署と協力しながら、除去が義務付けられている有形固定資産及び有害物質の実態調査を、グループ全体に対して実施する。この時、土壌汚染やアスベスト、PCBといった有害物質の中には、新たに外部の専門機関へ莫大なコストをかけて調査を行わなければ、どの有形固定資産に含まれているかどうか特定できないことがある。この場合、対象となる資産除去債務の重要性を勘案し、コストをかけて実施するかどうかを判断することになる。

(2)資産除去債務の試算(影響額の把握)及びルールの確立

 有形固定資産・有害物質の調査結果を基に、資産除去債務の影響額を把握するために試算を行い、試算を通じて資産除去債務に係るルールを確立する。試算ができない物件の対応方法や見積もりから乖離するリスクをどこまで将来キャッシュフローに反映させるか等については、監査法人と協議していく必要がある。

(3)関係部署との連携体制の構築

 資産除去債務の会計基準に対応していくためには、各環境法規の把握や有害物質を含む有形固定資産や賃借物件の調査が必要となる。従って経理部門だけではなく、 関係部署と連携できるような体制構築を行っていく必要がある。

 特に、適用後における、環境法規の改正や設備取得等の資産除去債務を増加させ得る事象が起きた時の対応について、経理部門は環境部門や経営企画部門等と協議し、対応手順や役割分担について文書化しておくことが大切である。

(4)グループ会社への周知

 整備したルールは、変更があった場合の親会社への通知方法も含め、対応方法をグループ会社へ周知する。

IFRS適用にあたっての留意点

 資産除去債務はIFRSを意識して開発されているため、IFRSとの差異はそれほど大きくない。しかし、以下の2点については違いがあるため、早ければ2015年から開始となるIFRSの強制適用に向けて、対応を考えておく必要がある。

 まず、日本では割引率が固定されるのに対して、IFRSでは割引率を毎期見直すことが求められるため、資産除去債務の算定作業や再計算後の除去費用を固定資産システムへ更新することが必要となる。

 また、日本基準では、建物等の賃借契約において内部造作の除去などの原状回復を契約上要求されている場合、資産除去債務及びこれに対応する除去費用を資産計上する代わりに、回収が見込まれない敷金について定期償却していくという簡便処理が認められているが、IFRSにそのような簡便処理についての規定はない。そのため、IFRS適用時に資産除去債務として原則処理することが必要になるケースも出てくるものと思われる。

適切なコンバージェンス対応が円滑なIFRS導入につながる

 賃借契約における内部造作の除去義務等も資産除去債務の対象となるため、多くの企業が資産除去債務の会計基準適用に対応することになると想定される。

 この資産除去債務の会計基準適用に限らず、まずは適切にコンバージェンス対応していくことが円滑なIFRS導入につながる。したがって、監査法人と適宜確認を取りながら、社内の各部門やグループ会社と協力してコンバージェンスに取り組んでいくことが必要である。

筆者プロフィール

市瀬 洋生(いちのせ ひろお)
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
ファイナンス&アカウンティング シニア アソシエイト
米国公認会計士
外資系コンサルティング会社にてSCM改革プロジェクトやERP導入プロジェクトを経験後、ベリングポイント株式会社(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)に入社。決算早期化プロジェクト、会計基準のコンバージェンス対応、IFRS対応のプロジェクトに従事

要約

 IFRS導入が決まったが、日本企業は同時にコンバージェンス対応も進める必要がある。今回解説する「資産除去債務に関する会計基準」及び「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」も、コンバージェンスの一環として開発され、2010年4月から適用される。

 資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じる、将来の有形固定資産の除去義務並びに有形固定資産を除去する際における有害物質の除去義務のことをいう。

 資産除去債務に該当する例としては、建物賃借契約における内部造作の除去義務や、定期借地権契約における建物の除去義務、原子力発電施設の解体義務、及び鉱山の原状回復義務等が該当する。また有害物質としては、有形固定資産の除去時に除去や調査が法律上義務付けられているアスベスト、PCB、土壌汚染が当たる。

 資産除去債務に関する会計基準では、資産除去債務を負債計上するとともに、その同額を資産計上(=資産負債両建処理)し、有形固定資産の残存耐用年数にわたり各期に減価償却していく。資産除去債務は、将来の除去費用を見積もり、かつ現在価値へ割引計算して計上することになるため、計上時期や将来キャッシュフローの見積もり方法、適用する割引率が重要な要素となる。

 日本企業への影響としては、資産除去債務の会計基準によって取得原価に加算された除去費用が、減価償却を通じて製造原価や販売費・一般管理費として計上されるようになるため、営業利益が減少する。

 資産除去債務の会計基準適用へ向けての対応としては、(1)除去義務がある有形固定資産・有害物質の実態調査、(2)資産除去債務の試算(影響額の把握)及びルールの確立、(3)関係部署との連携体制の構築、(4)グループ会社への周知、の4つのステップで進めていくことが望ましい。

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