帯域幅から最大限の見返りを得るには

2001/11/28
November 14, 2001, InternetWeek, By TERRY SWEENEY

 ITマネージャはこれまでも、帯域幅にかかるコストを正当化するのにかなりのプレッシャーを感じてきた。だがここにきて、取り巻く環境は一段と厳しくなり、決算で上層部が要求する結果を出すことは、かつてないほどの難題となりつつある。帯域幅への高まるニーズの背景には、企業各社がコラボレーション型のアプリケーションをビジネスパートナーやサプライヤ各社に拡大する傾向がある。コストの抑制とスタッフの削減を余儀なくされる中、ITマネージャの眠れぬ夜は続く――。

 ネットワークコネクティビティで最もコストのかかる部分は、各オフィスと電話通信会社のPOP(アクセス点)やISPの中継点を接続するWANの帯域幅だ。だが、同時に、そこがネットワークにかかるコストを最も節約できる部分でもあるのだ。米Forrester Researchのアナリスト Maribel Dolinov氏は、最近の傾向として、「多くの企業が帯域幅の利用目的に関する調査を詳細に行っており、調査結果を見て自社のネットワークを再調整している」と指摘する。Dolinov氏によれば、各企業ではこの調査により、帯域幅にかけるコストを増やすか、パフォーマンス向上を遅らせるかの判断を下すことを余儀なくされているという。

帯域幅ポータルで解決

 不動産投資信託会社(REIT)の米AMB Propertyでネットワーク業務マネージャを務めるScott Roache氏は、この選択にジレンマを感じてきた。同社のボストンにあるオフィスの接続用としてT1回線を探し始めたRoache氏は、米AT&Tが提供するポイント間のT1回線1本が1カ月5600ドルもすることを知って悔しさを味わった。Roache氏は、複数のベンダにコンタクトする代わりに、サービスポータルの米Bandwidth.comにアクセスし、3本の1.54Mbps T1回線を1カ月合計7300ドルで利用する契約を米グローバル・クロッシングとの間で結んだ。

 AMBでは、ビデオ会議、2つのサイト間でのVoIP、そしてボストンからの一部WANコネクティビティで集合帯域幅を利用している。同社では約200人の社内ユーザーに加えて、自社の工業所有権マネージャ向けにアプリケーションのホスティングも行っている。 

 Roache氏によると、帯域幅の増加により、サンフランシスコに5部屋、ボストンに4部屋あるビデオ会議室を利用して会議を開催し、出張費の削減につながったという。

 同社では今後、一部の帯域幅を障害復旧、Webサイトのミラーリング、およびホスティングサービス用として確保しておく計画だ。「来年末に帯域幅要求を見直す。ボストンのオフィスの成長次第では、帯域幅へのさらなる投資を検討することになる」(Roache氏)。

新技術のDWDM、キャッシング、QoSを採用する大規模システム

 その一方で大企業では、大規模な国際ネットワーク基盤を持ち、リソースに対する要求の高いアプリケーションが24時間連続稼働しているため、コストに対して鈍感にならざるを得ないようだ。

 例えば米ゼネラル・モータース(GM)では、デトロイトに点在する施設を接続して同社の国際WANへのアクセスを提供するため、ミシガン州南部にOC-48(2.5 Gbps)の速度で動作する2本のファイバ・リングを1998年に敷設した。同社CTO Tony Scott氏は、「これ(ファイバ・リング)で6〜7年はもつと思ったが、すでに許容範囲を超えてしまった」と話す。同氏はそのために、高密度波長分割多重(DWDM)、キャッシング、およびQoSの各技術を検討することにした。通常、これらの技術はトップレベルの電話通信会社のネットワークを連想させるものであって、一般企業のITマネージャの判断によって導入されることは少ない。

 Scott氏によると、GMでは、DWDMによりスループットとパフォーマンスを向上させ、アクセス回線を追加購入することなく製品のデザインライフサイクルを短縮することを目標にしているという。

 DWDMは、企業システムに導入されることはまれで、導入には電話通信会社レベルの光スイッチを利用する必要がある。同技術は、1本のファイバ上にある多数の別波長の帯域幅を分割し、一般的な企業ネットワークのレベルをはるかに超えるキャパシティでトラフィックを流してくれる。Scott氏は、「DWDMは新しい技術。わが社では、この技術のコストや信頼性がどう推移するかを見極めたいと考えている」とし、2002年第1四半期にDWDMのテストを開始する予定であることを明らかにした。

 同じく大規模なシステムを有する米ボーイングでも、高まる帯域幅への需要に対する対応を進めているところだ。同社は8月に、社内の国際WAN上で7800TB(テラバイト)以上のトラフィックを記録したが、これはおよそ100万本の長篇映画に相当する量だ。同社 コンピューティング/ネットワークオペレーション事業部でネットワーク技術ディレクターを務めるCliff Naughton氏によると、トラフィックはさらに毎月約5%のスピードで増加しているという。「パートナーやカスタマーとの協力を一段と進めていることが、帯域幅の使用を増やす要因となっている」とNaughton氏は分析する。

 ボーイングは今後数年間、自社の帯域幅をさらに活用すべく2つの分野に力を入れていく。1つは米スプリントが提供するATMバックボーン上での音声、ビデオ、そして従来のIPサービスの統合で、これが同社の購入しなくてはならない帯域幅と、管理しなくてはならないネットワークやプロトコルの数を減らしてくれることを想定している。

 同社ではさらに、QoS、コンテンツキャッシング、マルチキャストといった各種技術を付加するビジネス事例の構築も進める。Naughton氏は、これらの技術が来年中には利用できるようになることを期待している。同社はまず、自社のWAN回線と社内バックボーンにQoSを付加し、ビジネス事例が正当化されるのに合わせて、ほかの部分にも付加していく。同社では3〜4レベルのサービスを検討しているが、これはQoSのテストや分析次第となる。

 「異なる種類のアプリケーショントラフィックを識別するのは困難だ。ITはプロトコルを理解するのは得意でも、コンテンツの内容を理解するのは得意ではない。それに、ユーザーに“電子メールに書類を添付するな”とか、“テープに保管するような大きなファイルを送信するな”などとは言えない」(Naughton氏)

 米GMでは自社のインターネットやイントラネットアプリケーション用にキャッシング機能を追加しており、デトロイト地域のギガビットスピードバックボーンほど帯域幅が十分に確保できない地域のパフォーマンス改善のため、設計を見直した。同社では、自社のリモートアクセスネットワークの再入札準備を進めており、提案要請書ではIP-VPNが重要な部分になるとしている。

 「これまで5年かかっていた設計プロセスが、デジタル化により、現在では18カ月に短縮された。これが、ネットワークに大量のデータが流れる要因となっている」(Scott氏)。

 企業各社が帯域幅の効率改善のために用いる技術は、ほかにもある。デジタルエンターテイメントのディストリビューターである米Charter Communicationsでは、オフィスキャンパス内の2つのビルの間でポイント間ワイヤレスコネクティビティを導入している。

 米Charterで米国北西部担当ITマネージャを務めるScott Gregory氏によると、同社の450カ所のオフィスと1万5000人の社内ユーザーは、米ワールドコムが提供するフレームリレーを経由して、56Kbpsから複数の1.54Mbps T1回線までの常駐仮想回線によって接続されているという。さらに、DS-3(45Mbps)とOC-3(155Mbps)の両回線も散在している。

 だが光ファイバは、ピュージェットサウンド地区の1キロも離れていない支社とカスタマーコンタクトセンターとの間の接続技術としては、魅力的なオプションではなかった、とGregory氏は洩らす。2つのビルディング間に光ファイバーを敷設するために電話通信会社に4万8000ドルが必要で、さらに、サイトあたり機器に4000ドル、そしてサービス料として毎月2800〜4200ドルのコストがかかるのだ。

 Gregory氏は、「現在のニーズに応じたコネクティビティが欲しかったが、帯域幅を増減させるたびに電話通信会社に費用を支払うようなことはしたくなかった」と話す。そこで米Charterは、代わりとして米Western Multiplexのワイヤレスバックボーンシステムを導入することにした。このシステムは約320Mbpsの有効帯域幅を提供し、米Charterはサイトあたり5万ドルのコストがかかるだけで、継続的にサービス料が発生することがない。

帯域幅ポータルへの見えない熱意

 1年前に大流行した帯域幅ポータルは、帯域幅の効率化、コスト、そして管理の改善のためにバーチャル企業家たちが管理サービスを提供したサービス。だが、この部分的なアウトソーシング・ソリューションがユーザー、特に大企業のITの現場で熱狂的な支持を得ることはなかった。

 帯域幅ポータルは、需要に応じて帯域幅を裁定取引によるレートで購入できる複数の取引所の提供を魅力としていた。だが、ボーイングのNaughton氏はこのサービスを敬遠したという。「検討はしたが、問題は、企業のITがこのような帯域幅の管理について統制が取れていないことだ。回線のオン/オフに慎重になる必要がある。そうしないと知らずに料金を支払う回線であふれてしまうからだ。弊社米国事業部で検討した場合、システムがあまりにも大きすぎた」(Naughton氏)

 それでも、パフォーマンスもしくはコスト(時には両方)の改善を模索するサービスは存在する。米NetVMGや米RouteScience Technologiesといったハイパフォーマンス・ルーティングサービス企業、もしくは過大支出の特定や回避に務める米Teldata Controlのような請求確認サービスなどだ。多くの企業がコストの内訳を把握していないため、米QuantumShiftや米Stonehouse Technologiesなどのベンダは、包括的コスト管理サービスを推奨している。

 米Bandwidth.comや米Telco Exchangeなどが提供するサービスは、先駆者たちよりも多少うまく運営されているようだ。冒頭に紹介した、米AMBの米Bandwidth.com採用は1つの例といえるだろう。これらの帯域幅サービスポータルは、T1レベル以上のローカルおよび長距離コネクティビティの料金比較機能も提供しており、しばしばWANプロバイダと企業との間のブローカーとして機能する。

 帯域幅をさらに有効に利用すべく、サプライヤ数を減らし、定期的にコストの再交渉を行い、一般的に2〜3年である契約を柔軟に運用することをユーザーは以前から促されてきた。以前は単純に“優れたアドバイス”だったものが、現在の厳しいビジネス状況においては、その実践が急務になってきた。

 Scott氏によると、米GMは1年前、音声、ビデオ、およびデータの主要ベンダとして米AT&Tの採用を決定したが、これは同社が主要サプライヤとしてEDSや他の全米規模のさまざまな電話通信会社に依存していたときと比べると方針転換となった。Scott氏は、「率直なところ、やりにくい処置だった」と言い、今後もし米AT&Tが特定の地域をカバーできないような場合は、同社がカバーできる会社との間で責任を持って下請け契約を交わすことになることを付け加えた。

 多くの企業では帯域幅サプライヤの数を減らす方針だが、少なくとも今のところはセーフティネットを望んでいるようだ。

 銀行の取引明細書の処理、印刷、および郵送を行う米L&E Meridianの副社長、Scott Bobowick氏は、「プロバイダは少なくとも2社欲しい。われわれは、不安定な市場やプロバイダの倒産に備え、複数のベンダと契約している」と話す。

 企業各社は、再交渉の是非や時期についても意見を異にしている。GMのScott氏は、「もともとわが社には契約の再交渉を行わない傾向があったが、その方針に固執するメリットが見い出せなくなってきた」と話す。

 中間的立場を取るのがボーイングだ。Naughton氏は、「われわれの買い付け契約には回線ごとに競争する自由度がある」と話す。これがあるために、同メーカーではOC-3を60〜90日間だけ有効にするといったことが可能となる。「複数年契約には複数の料金曲線が対応づけられており、定期的に業界のベンチマークを取って、最適な料金を支払っていることを確認するようにしている」(Naughton氏)。

 たとえ予算が縮小となっても、可能性のあるソリューションを拡大するのがITマネージャの仕事だ。企業各社がDWDMやQoSの利用を拡大すれば、メガビットあたりのコストが下がり、ユーザーのパフォーマンスは上がる。さらに、料金設定や請求額の監査といった補完的な帯域幅サービスもかなりのコスト削減を実現し始めている。

 ただ、帯域幅の価格設定や用法がどれだけ柔軟になっても、企業のITに依然として実利的見方があることも明らかだ。「われわれはサービスと伝送機能をセットにしてネットワークを見る。私の仕事は最低のコストで最高のサービスを得ることなのだ」(Naughton氏)

*この記事は一部編集しています。

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