[SAPPHIRE '02 TOKYO開催]
ERPから企業を超えた人とシステムの連携へ、SAPの挑戦

2002/7/26

 7月24日と25日の2日間、都内でユーザー・カンファレンス「SAPPHIRE '02 TOKYO」が開催された。単なるERPベンダから、ERPを核にインターネットを利用した協業(コラボレーション)システムを提供するベンダへと事業を拡大してきたSAPは、先日発表した「R/3 Enterprise」では、J2EE準拠のアプリケーションサーバ「SAP Web Application Server」をベースにさらなるオープン性を実現した(提供開始は今年第3四半期)。今回のSAPPHIRE '02では、これまでのモジュールベースだったセミナーをビジネスの切り口からみたものにするなど、ビジネスのソリューションという同社の今後の方向性を意識させるものとなった。

就任3年目を迎えるSAPジャパン 代表取締役社長 藤井清孝氏 

 24日の夕刻に行われた基調講演では、SAPジャパン 代表取締役社長 藤井清孝氏、独SAP 共同会長兼CEO ヘニング・カガーマン(Prof. Dr. Henning Kagermann)氏、そして独SAP エグゼクティブ・ボードメンバー シャイ・アガシ(Shai Agassi)氏が講演した。このうち、最後に登壇したアガシ氏は、「SAPは技術のみを考えているのではない。既存投資の保護やビジネスも考えている」と語り、同社のビジネスの将来形を示した。

 アガシ氏は今年4月よりエグゼクティブ・ボードメンバーとなった人物で、SAPの子会社である米SAP Portalsと米SAP MarketsのCEOを歴任してきた。

 アガシ氏は、昨今どのベンダも口にする“環境の複雑化”というテーマに触れる。そして、「統合にまつわる課題が企業の成長を阻害する要因」と述べ、この問題の解決に向けたSAPの取り組みを紹介する。

 オープンとコラボレーションを戦略の柱に掲げた同社は、これを実現するためにポータルとeマーケットプレイスを事業とする子会社、米SAP Portalsと米SAP Marketsを2001年に設立した。SAPだけではなく、オラクルやシーベルなどと接続するための“ハブ”つくりに乗り出したのだ。今年に入り、これら2つの子会社はSAPのコラボレーティブ・アプリケーション部門として統合され、同社のeビジネス分野を担うことになった。

独SAP エグゼクティブ・ボードメンバー シャイ・アガシ氏

 統合は、人、情報、プロセスの3つの側面があり、ポータル、コラボレーション、ナレッジマネジメント、ビジネスインテリジェンス、ビジネスプロセスマネジメント/ワークフロー、エクスチェンジなどの技術要素で実現される、というのがSAPの見解だ。SAPではmySAPとして、これらの要素を製品として提供していく。

 例えばポータル。ポータルを机にたとえた同氏は、机の足として、アプリケーション、Webサービス/コンテンツ、ビジネスインテリジェンス、ナレッジマネジメントを挙げる。これら4つの足がそろい、安定した机としてのエンタープライズ・ポータルが実現するのだという。同社ではこれを実現するソリューションとして「mySAPエンタープライズ・ポータル」を今年末に提供する予定だ。「mySAPワークプレイス」の後継となる同ソリューションでは、拡張性とパフォーマンスを強化、サーバ1台あたり1日100万ページを提供可能という。シーベルやオラクル、レガシーアプリケーションなどmySAP.com以外のサービスやアプリケーションを同じポータルに統合することもできる。

 このように、SAPでは統合を可能とするレイヤー層を提供していくわけだが、アガシ氏は、技術そのものよりも、それを用いることが大切と強調する。「技術そのものだけでなく、技術を使ってビジネスを変えられるかの方に注目すべき」(アガシ氏)。

 その解は、継続的な改善にある。通常、どの企業でもトップが中心となり戦略を練り、イニシアティブを掲げ、実行に落とし込む。だが、「それに終始してしまっている」とアガシ氏は指摘する。継続的な改善のためには、実行した結果が大切というわけだ。「インパクトを測定して初めて、価値が生まれる」。そのインパクトは可視性(ビジビリティ)のある形式で社員に提示する必要がある。戦略、イニシアティブ、実行というこれまでのステップに、インパクトの測定というステップを加えることにより、継続的改善のサイクルが完成するのだという。

 可視性がチームに与えるインパクトの例として、アガシ氏は米ニューヨーク市の前市長ジュリアーニ氏の取った対策を紹介した。犯罪件数の多さに頭を抱えていたジュリアーニ氏は、“NYを安全な都市にする”と戦略を立案し、“110番通報から現場に警察官が到着するまでの時間を12.5分から8分に短縮する”という具体的な目標(イニシアティブ)を掲げた。そして同氏がとった対策は、地区ごとの所要時間を適時測定し、その結果を掲げるというシンプルなもの。そうすることにより、警官は目標達成まであとどのくらいかが視覚的に把握でき、さらには他の地区と比較することで競争心も生まれる。その結果、6カ月後には目標数値をはるかに上回る6分台に到達した。さらに、この対策にかかった経費はゼロだ。「予算は必要ないし、人を投入する必要もない対策だ。明日から実行してほしい」(アガシ氏)。

xAppsは人、情報、プロセスの統合を実現する

 ERPという考え方の延長線上で、企業のビジネス革新を実現させていくSAPの次なる隠し玉が“xApps”だ。企業がすでに持つ価値(有形資産、人材、製品、生産など)を最大限に引き出すアプリケーションで、「リソースとプログラムの管理を実現する」とアガシ氏は紹介する。この“xApps”は、SAP Web Application Server上で動作し、既存のアプリケーションの統合、そして連動を可能にする(左図)。「トランザクションをインテリジェントアクションへ進化させる」(アガシ氏)。

 SAPジャパンは今年10周年目を、独SAPは30周年目を迎える。特に2001年度は、他社が業績不振に陥る中、ビジネスが好調に推移した年となった。SAPジャパンの売上高は対前年度比37%増の500億円、顧客数は957社に達し、シェアは53%と過半数を超えた(ミック経済研究所調べ)。藤井氏は、このようにERPが浸透しつつある中、次のテーマを「変化への対応」とした。また、独SAPのCEOカガーマン氏は「将来の準備が成功のカギ」と述べる。レガシーなERPからオープン化を進め、ERPを1モジュールとしたソリューションベンダに生まれ変わりつつあるSAPは、企業のビジネス活動全体のサポートに向けて乗り出したといえそうだ。

(編集局 末岡洋子)

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