Weekly Top 10

21世紀最大のテーマは公私混同

2008/03/10

 先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングは第1位は「本当は楽しいIT業界――すてきなテクノロジ・ベンチャーの作り方」だった。優秀なエンジニアを引きつけ、能力を最大限に発揮して企業の競争力を高めるには、どうすればよいか。サイボウズ、グーグル、ワークスアプリケーションズなどの例から探った。

NewsInsight Weekly Top 10
(2008年3月4日〜3月10日)
1位 本当は楽しいIT業界――すてきなテクノロジ・ベンチャーの作り方
2位 個人ケータイの業務利用、通話料を負担する会社は約半数
3位 ビル・ゲイツ氏「グーグルは企業ニーズが分かっていない」
4位 ソーシャル融資サービス「Zopa」が日本上陸
5位 GPGPUのキラーアプリケーションは「グラフィックス」
6位 受け取るメールは70通――マイクロソフトCEOの1日とは
7位 IE 8のベータ版が公開、「開発者のために相互運用性を前進」
8位 ITの所有にそれほどの意味はない
9位 NTTがNGNに採用、シスコが新エッジルータを発表
10位 ノキア、Symbian端末でSilverlightを採用

 先週のニュースで記者が個人的に気になったのは2位の「個人ケータイの業務利用、通話料を負担する会社は約半数」というニュースだ。インプレスR&Dが行った調査によれば、個人所有の携帯電話の業務での利用に対して約半数の企業が通話料を負担している一方、「まったく負担しない」という企業も4分の1あるという。

 まったく負担していない企業が4分の1あることを多いと感じて驚く人と、逆に少ないと感じて驚く人がいるかもしれない。こうした話題が口の端に乗るときには、たいていの人が自分や自分の周囲の人々が勤める企業を中心に考えがちで、記者の個人的な経験では、個人所有ケータイの業務利用は「あり得ない。自分の周囲でも聞いたことがない」と言い切る人と、「ケータイを会社が支給したり、料金を負担するなんて、ほんの一部の大企業だけ」と、まるで逆のことを主張する人に分かれる。数少ない偏ったサンプルから全体を類推して結論を誤る典型的な代表性バイアスの例だ。

 1つの調査で結論付けるのも性急だが、おおよその傾向が分かる興味深い数字だ。

ICTの公私混同は21世紀型労働の予兆

 「21世紀最大のテーマは公私混同だよね」。20世紀末に記者の知人が口にした言葉に唸ったことがある。彼は「20世紀の次には21世紀が来るよね」という自明の事実を口にするかのように、何の気負いもなくサラリと言った。

 公私混同といえば、ふつうは公の立場にある人間が、お金や職権など公的なリソースを私的に流用することを指すので、個人ケータイの業務利用は公私混同とはいわないかもしれない。公私混“用”とでもいうべきものだ。いずれにしても、ケータイも含めたいわゆるICT(Information and Communication Technology)の急速な進化と普及で公私の境界があいまいになっているのは事実だ。

 会社のPCで私的なメールの返信をしたり、メッセンジャーで個人的なコミュニケーションをするということもあるだろう。VPN経由で個人所有のPCから会社のLANに接続することも、あるかもしれない。コンプライアンス強化という観点からは好ましくないと分かっていながらも、この辺りの運用はグレーであることが少なくないだろう。

 冒頭の言葉に記者が唸ったのは、次のような直感があるからだ。ICT関連ツールで起こっている公私混同というのは、急変する環境のために一時的にできた制度上の亀裂というよりも、長い目で見れば、企業と、そこで働く人の関係が変化しているその兆候ではないか。

 米国の労働人口の4人の1人は、すでに組織から離れて自分の電子的、人的なネットワークを駆使してプロジェクト単位で仕事をする“フリーエージェント”となっている。そうした人々の生き方を克明にレポートした好著、『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』(ダニエル・ピンク)が上梓されたのは2002年だ。21世紀の働き方を考える上で、きわめて示唆に富む本だ。

 日米で雇用のあり方を直接比較しても意味がないかもしれないが、時間や場所の制約を取り払い、知的コラボレーションのあり方を変えるICTのインパクトは大きい。いずれ日本人の働き方も大きく変えるに違いないと、記者はそう感じている。

 これもまた日頃からフリーランスのライター、プログラマ、カメラマン、PR担当者などに囲まれている記者という特殊な環境にいる人間の代表性バイアスによる性急な結論付けに過ぎないのだろうか。

(@IT 西村賢)

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