XMLデータの埋め込みと相互参照XSLTスタイルシート書き方講座(応用編2)

» 2002年02月20日 00時00分 公開
[奥井康弘, 吉田稔, 青木秀起株式会社日本ユニテック]

前回の「スタイルシートをモジュール化する」では、モジュール化された複数のスタイルシートを取り込む方法を考えました。さて、スタイルシートだけでなく、XMLデータも複数のファイルを扱えると便利です。データベースから複数のXMLデータを読み込んで結合したり、必要なデータのみを選んで抽出することができれば、XMLデータの操作性はさらに向上することでしょう。今回は、複数のXMLデータを操作する方法と、相互参照機能を使って必要なデータのみを抽出する方法を説明します。

複数のXMLデータを組み合わせて処理する

 XSLTプロセッサの基本的な処理の流れは、与えられた単一のXMLデータにスタイルシートを適用して構造変換を行うというものです。しかしマージ処理のように、複数のXMLデータを処理したいときがあるものです。例えば下図のように、メインのXMLデータにディテール・ファイル(詳細情報を持つファイル)の内容をさらに組み込めたら便利です。

図1 複数のXMLデータを組み込む 図1 複数のXMLデータを組み込む

 大容量のXMLデータを作成するのではなく、図1のように細かくいくつかのファイルに切り分け、これらを組み合わせて使え、データの管理も処理も容易になります。実は、これを可能にしてくれるのがXSLTのdocument関数です。document関数は、最初に与えられるメインのXMLデータ以外のXMLデータを読み込んでくれます。

document関数を使ってXMLデータを読み込む

 document関数は次のように呼び出します。

document関数の使い方

node-set document(object, node-set?)
(返却値)     (URI指定)(基底URI)

  • 基本的に1番目の引数で読み込み対象のXMLデータのURIを指定します。2番目の引数がある場合、それは相対URIである1番目を絶対URIに変換するための基底URIです。
  • 返却値は、読み込み対象のXMLデータのルートノードです。

 document関数の2番目の引数について説明を補足します。もし1番目の引数が“customers.xml”のように相対URIの場合、document関数は読み込み対象のXMLデータを見つけ出すために基底URIを使って絶対URIへと変換する必要があります。そのために2番目の引数が使われます。次の例を見てください。

document("customers.xml","/")

 メインのXMLデータのルートノード(/)が“ http://seminars.utj.co.jp/main.xml”という基底URIを持っているならば、customers.xmlは“http://seminars.utj.co.jp/customers.xml”という絶対URIに変換されます(図2)。

図2 基底URIで相対URIを絶対URIへ変換する 図2 基底URIで相対URIを絶対URIへ変換する

 例を使ってdocument関数の使用方法を示しましょう。リスト1に示すメインのXMLデータ“main.xml”と、リスト2に示す読み込み対象のXMLデータ“customers200110.xml”を使って新規顧客表を作成して、Webブラウザに表示するとします。

<?xml version="1.0" encoding="shift_jis"?>
<?xml:stylesheet type="text/xsl" href="tboutput.xsl"?>
<customers_list>
  <title>新規登録顧客リスト(10月分)</title>
  <tbl href="customers200110.xml"/>
</customers_list>
リスト1 メインのXMLデータ“main.xml”
<?xml version="1.0" encoding="shift_jis"?>
<customers>
  <customer id="c001">
    <name>秋本太郎</name>
    <addr>港区麻布狸穴町A-A-A</addr>
    <area>関東</area>
  </customer>
  <customer id="c002">
    <name>加藤花子</name>
    <addr>横浜市金沢区乙舳B-B-B</addr>
    <area>関東</area>
  </customer>
  <customer id="c003">
    <name>佐々木次郎</name>
    <addr>大阪市鶴見区放出東C-C-C</addr>
    <area>近畿</area>
  </customer>
  <customer id="c004">
    <name>田中良子</name>
    <addr>浦添市勢理客D-D-D</addr>
    <area>沖縄</area>
  </customer>
</customers>
リスト2 読み込み対象のXMLデータ“customers200110.xml”

 適用するスタイルシート“tboutput.xsl”をリスト3に示します。

<?xml version="1.0" encoding="Shift_jis"?>
<xsl:stylesheet version="1.0" xmlns:xsl="http://www.w3.org/1999/XSL/Transform">
<xsl:template match="/">
  <html>
    <body>
      <xsl:apply-templates/>
    </body>
  </html>
</xsl:template>
<xsl:template match="customers_list">
  <xsl:apply-templates select="title"/>
  <xsl:apply-templates select="tbl"/>
</xsl:template>
<xsl:template match="title">
  <h3><xsl:value-of select="."/></h3>
</xsl:template>
<xsl:template match="tbl">
  <table border="3">
    <tr>
      <th>お名前</th>
      <th>ご住所</th>
    </tr>
    <xsl:variable name="t" select="document(@href)"/>
    <xsl:for-each select="$t//customer">
      <tr>
        <td><xsl:value-of select="name"/></td>
        <td><xsl:value-of select="addr"/></td>
      </tr>
    </xsl:for-each>
  </table>
</xsl:template>
</xsl:stylesheet>
リスト3 document関数を使うスタイルシート

 このスタイルシートについて解説します。リスト1とリスト3を比較して分かるとおり、XSLTプロセッサは、まずメインのXMLデータを処理します。メインのXMLデータにtbl要素が出現すると、XSLTプロセッサは、新規顧客表を作成します。そこで“customers200110.xml”が読み込まれます。

 リスト1のtbl要素をご覧ください。tbl要素の属性hrefには、読み込み対象のXMLデータのURIが割り当てられています。

<tbl href="customers200110.xml"/>

 リスト3のdocument関数を呼び出しているところを見てください。ここでdocument関数は、@hrefという表記で分かるとおり、カレントノードtbl要素の属性hrefの値を参照してXMLデータ“customers200110.xml”にアクセスします。返却値は、“customers200110.xml”のルートノードです。

document(@href)

 このルートノードは、すべてのcustomer要素を参照するために繰り返し使用されます。それで、xsl:variable要素を使ってルートノードを変数tに割り当てておきます。

<xsl:variable name="t" select="document(@href)"/>

 “customers200110.xml”のルートノード以下のすべてのcustomer要素について、テンプレートがインスタンス化されます。変数の値を参照するときは、変数名の頭に“$”の文字を付けて“$t”と記述します。従って“$t//customer”という表記は、変数$tに割り当てられているルートノードの子孫ノードcustomerを指しています。

<xsl:for-each select="$t//customer">
  <tr>
    <td><xsl:value-of select="name"/></td>
    <td><xsl:value-of select="addr"/></td>
  </tr>
</xsl:for-each>

 IE5による表示結果を図3に示します。

図3 document関数を使うサンプルの表示結果 図3 document関数を使うサンプルの表示結果

相互参照するノードを識別する

 複数のXMLデータの扱いなど、処理が複雑になってくるとXSLTのあるノードから別のノードへ効率的に相互参照する仕組みが欲しくなります。XSLTでは、ビルトイン関数idやビルトイン関数keyを使ってノードの相互参照を実現することができます。

id関数を使って相互参照する

 まず、id関数について説明します。

id関数の使い方

node-set id(object)
(返却値)(ID型の属性値)

  • 引数で指定された値と同じ一意のID値を持つノード、またはノード集合を返却します。

 id関数の使い方をリスト4のXMLデータを使って示します。

<?xml version="1.0" encoding="shift_jis"?>
<?xml:stylesheet type="text/xsl" href="id.xsl"?>
<!DOCTYPE customers [
  <!ELEMENT customers (customer)*>
  <!ELEMENT customer (name,addr,area)>
  <!ELEMENT name (#PCDATA)>
  <!ELEMENT addr (#PCDATA)>
  <!ELEMENT area (#PCDATA)>
  <!ATTLIST customer id ID #REQUIRED>
]>
<customers>
  <customer id="c001"> 
    <name>秋本太郎</name>
    <addr>港区麻布狸穴町A-A-A</addr>
    <area>関東</area>
  </customer>
  <customer id="c002">
    <name>加藤花子</name>
    <addr>横浜市金沢区乙舳B-B-B</addr>
    <area>関東</area>
  </customer>
  <customer id="c003">
    <name>佐々木次郎</name>
    <addr>大阪市鶴見区放出東C-C-C</addr>
    <area>近畿</area>
  </customer>
  <customer id="c004">
    <name>田中良子</name>
    <addr>浦添市勢理客D-D-D</addr>
    <area>沖縄</area>
  </customer>
</customers>
リスト4 id関数のためのサンプルXMLデータ

 適用するスタイルシートはリスト5にあるとおりです。

<?xml version="1.0" encoding="shift_jis"?>
<xsl:stylesheet version="1.0" xmlns:xsl="http://www.w3.org/1999/XSL/Transform">
<xsl:template match="/">
  <html>
    <body>
      <h3>お客様IDがc004の方は次の方です。</h3>
      <ul> 
        <li><xsl:value-of select="id('c004')/name"/>様</li>
      </ul>
    </body>
  </html>
</xsl:template>
</xsl:stylesheet>
リスト5:id関数を使ったスタイルシート例

 この中でid関数が使われている部分を見てください。

<li><xsl:value-of select="id('c004')/name"/>様</li>

 id('c004')という記述は、属性id(DTDで属性のデータ型がID型に宣言されている)の値が“c004”となるcustomer要素のことを表しています。ここでは、その要素の子要素nameの文字列値をHTMLタグ<li></li>の間に要素の内容として埋め込んでいます。

 IE 5による表示結果を図4に示します。

図4 id関数を使うサンプルの表示結果 図4 id関数を使うサンプルの表示結果

id関数の限界

 しかしながら、id関数には以下の限界があります。

  • ID属性がDTDなどで定義されていなければならない。
  • IDは属性として指定する。従って要素の内容を使った参照ができない。
  • 1つの要素が持てるIDは1つだけ。

 そこで、ID型として定義されていなくても、スタイルシートの中で定義すれば相互参照ができるようにしたのがkey関数です。

key関数を使って相互参照する

 id関数は、DTD(あるいはXML Schemaなどのスキーマ記述言語)でID型として明示的に宣言された属性をノードの識別情報として使う関数です。一方、これから説明するkey関数は、ある要素の文字データや属性の値(ID型でなくてよい)をキーとしてスタイルシートの中で定義し、それをノードの識別情報に使うための関数です。

 key関数で使用するキーは、スタイルシートの中でxsl:key要素を使ってあらかじめ宣言する必要があります。xsl:key要素の書き方は以下のとおりです。

xsl:keyの書き方

<xsl:key name="キーの名前" match="パターン" use="式"/>
  • name属性は、キーの名前を指定します。match属性は、キーを割り当てるノードを指定します。use属性は、指定された式の評価結果をキーの値とします。use属性の式を評価するに当たってのコンテキストノードはmatch属性のノードになります。

 xsl:key要素で宣言されたキーを実際に参照するkey関数の書き方は以下のとおりです。

key関数の使い方

node-set key(string, object)
(返却値)(キーの名前)(キーの値)

  • 返却値は、第1引数のキーの名前と第2引数のキーの値を持つノード集合です。

 リスト2のXMLデータを使って、key関数の使い方を示します。リスト6のスタイルシート“key.xsl”を適用します。

<?xml version="1.0" encoding="shift_jis"?>
<xsl:stylesheet version="1.0" xmlns:xsl="http://www.w3.org/1999/XSL/Transform">
<xsl:key name="area-key" match="customer" use="area"/>
<xsl:template match="/">
  <html>
    <body>
      <h3>関東地方にお住まいのお客様は次の方々です。</h3>
      <ul>
      <xsl:for-each select="key('area-key','関東')">
        <li><xsl:value-of select="name"/>様</li>
      </xsl:for-each>
      </ul>
    </body>
  </html>
</xsl:template>
</xsl:stylesheet>
リスト6 key関数を使ったスタイルシートの例

 key要素が使われているところを以下に抜き出します。

<xsl:key name="area-key" match="customer" use="area"/>

 name属性により、キーの名前として“area-key”を指定しています。match属性により、キーを割り当てるノードとしてcustomer要素を指定しています。さらにuse属性により、customer要素をコンテキストノードとしたときのarea要素の文字列値がキーとして使用されることを指定しています。

 key関数が使われている部分を以下に抜き出します。

<xsl:for-each select="key('area-key','関東')">

 key関数の最初の引数は、key要素において“area-key”という名前で宣言されたキーを使用することを指定しています。2番目の引数はキーの値を指定しています。この場合、key関数はcustomer要素の子要素areaの文字列値が“関東”となる要素を返却します。

 ID型の属性値は、1つのXMLデータの中で一意でなければなりません。従って同じID値を持つ要素が存在してはなりません。一方、同じキー値を持つ要素は複数あっても構いませんし、1つの要素が複数の種類のキーを持ってもかまいません。したがって、key関数によって複数のノードを参照することもあり得ます。

 リスト2のXMLデータの場合、キーの値であるareaの文字列値が“関東”となる要素が複数存在しています(id属性が“c001”のcustomer要素と“c002”のcustomer要素)。リスト6では繰り返し処理を行うfor-each要素を使ってkey関数が参照するすべての要素を処理しています。処理結果を図5に示します。

図5 key関数を使うサンプルの表示結果 図5 key関数を使うサンプルの表示結果

まとめ

 今回は、document、id、keyという3つの関数を取り上げ、複数のXMLデータを操作する方法と、相互参照機能を使って必要なデータを抽出する方法について説明しました。次回は、結果ツリーのファイル出力、およびXSLT要素や関数の拡張について解説します。

本記事は、日本ユニテック発行のXMLテクノロジー総合情報誌「Digital Xpress」に掲載された、XSLT特集「XSLTの実力を探る!」の内容をもとに、加筆修正したものです。



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