第42回 組み込みOSの世界にもWindowsとLinux?頭脳放談

クライアントPCとは異なり、組み込み向けには多様なOSがそろっている。ところが最近の展示会でよく見かけるのが、Windows.CEとLinux系OS……

» 2003年11月27日 05時00分 公開
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 原稿書きには年代もののWindows 95マシンを利用していたのだが、そのマシンのハードディスクが先月、ついに壊れてしまった。ハードディスクを交換し、バックアップしてあったファイルをレストアしたのだが、バックアップしていなかった資料類のファイルがかなり失われてしまった。貴重な資料も多くあったことから、ショックが大きい。ちなみに同じマシンに内蔵しているIBM純正のハードディスクは8年も稼働しており、壊れたのは後から増設したスレーブ・ドライブの方だ。こちらはすでに3代目となる。余談になるが、壊れたハードディスクのコントローラは、ARMコアだった。ARMが悪いわけではないが、どうも最近のハードディスクは壊れやすいように感じる。いよいよマシン全体がいかれるのも近そうなので、安価なWindows XPマシンを購入することにした。これで原稿書きはWindows XPになったのだが、あれやこれやとマシンを使い分けているので、Windows 95/98SE/Me/2000、そしてWindows XPと、Windows系OSだけでも手元に5種類もある。これに仕事の組み込みOSを加えると、どれだけの種類のOSを使っているのか分からなくなってくる。

組み込み系OSいろいろ

 そんな折り、仕事もあってパシフィコ横浜で開催されていたEmbedded Technology 2003(ET2003)という展示会に行った。ET2003は、その名のとおり、組み込みシステム専門の展示会で、半導体・開発ツールやOS/ミドルウェア・ベンダなどが出展するイベントだ。もともと組み込み向けの開発ツール系がメインの展示会なので、組み込み系OSの出展も多く、当然ながら目に付いた。日本の大手のほとんどが何らかの形でサポートしているμiTRON系OS、ウインドリバー(WIND RIVER)のVxWORKS、アクセラレーテッド・テクノロジー(Accelerated Technology:現、Mentor Graphicsの組込みシステム事業部)のNucleusなどに代表されるOSベンダ固有アーキテクチャのRTOS(リアルタイムOS)、MicrosoftのWindows.NET、そしてLinux系が代表的なカテゴリ分類であろう。MCU(Microcontroller Unit)の担当者としては、OSに無関心ではいられないのだが、ICが売れれば何でもいいという部分もあって、基本スタンスは等距離外交である。

 それに組み込みOSの世界は、ドングリの背比べ状態であって、PCのようにWindowsのシェアが90%というような状況にはない。非常に多岐にわたる応用分野同様、OSもそれぞれ細かな市場セグメントを分け合って並立しているのが実態である。MCU側からいえば、すべてのOSが移植されていて使用可能であるのが理想だが、実際にはそうもいかない。自社開発にせよ、サード・ベンダのサポートにせよ、MCU側とOS側の特性と目論見の折り合うところで何が搭載されるか決まってくるし、OSが決まるとアプリケーション(応用製品)も見えてきてしまうということもあるくらいだ。

 また地域差もあるようだ。ET2003では、制御系を狙ったような伝統的組み込みアプリケーション以外にも、例えばスマートフォンなどを狙ったようなICがちらほら出展されていた。こうした分野のOSは、Windows.NETがあっちこっちで展示されていたのを除けば、SymbianOS対応ツールがあった程度、Palm対応などはまったく見かけなかった。この分野ではLinuxも候補に挙がるが、まだまだといったところ。欧州のスマートフォンでは、SymbianOSの採用が多いことを考えると、こんなところでも米国、欧州、中国、日本の事情の違いが見えてくる。

 取りあえず自分が担当するMCUをサポートしているOSには肩入れするし、そうでないものは距離を置いて見ているようにしている。しかし、MCUの採用もソフトウェアで決まるケースが多い昨今、積極的にOSベンダとも協業していかないとならない。いつ何が必要になるか分からないのがこのごろの状況だからだ。

 近年は、相互乗り入れ(?)が進んだせいか、組み合わせは多様化してきている。たいていのプロセッサならば、iTRON系、サード・ベンダRTOS系、Linux系くらいは手に入る。例外はWindows.NETのMicrosoftで、こちらは必要なCPUリソースと移植費用で足切りされてしまい、メジャーな会社のメジャーなプロセッサのみの対応である。あちらこちらにWindows.NET対応を謳ったボードが展示されていたわりには、どれも似たりよったりになるのも仕方ない。Microsoftは、数量の出る一部セグメントだけを攻めて効率的に稼ぐという考え方に違いない。PC市場での独占企業であるから、組み込みに進出するにも規模を求めるのだろう。このへん長年組み込みで細分化された市場の細かい要求に答えてきたRTOSベンダの行き方とは大分違う気がする。

組み込みにもLinuxの波が

 PC業界と同様に、同時多発的にいろいろと出てきているのがLinuxである。着実に地盤を広げているように見える。モンタビスタ(MontaVista Software)やアックス(AXE)といったLinuxベンダが積極的に展開しているのはもちろん、どこのMCUベンダの展示を見ても、Linux関連ツールなどが紹介されている。正直いえば、LinuxはWindows.NET以上にリソースは必要であるし、リアルタイム性やデバッグなどにも問題がないわけではない。だが、だれもが勝手に料理でき、使う際にはフリーということで、Linuxを採用するベンダも多い。何せ、ソフトウェアにそれほどのお金をかけられない組み込み市場なので、さもありなんというところだろう。

 Linuxに対しては、非常にリソースの少ないパフォーマンスの低いところに無理やりはめ込んだものから、ハイエンドまで幅広く手がけられているようだ。すでにLinuxは組み込み市場でも確立したといっていいだろう。ただ問題は、知的所有権に関してSCO Groupが訴えるといったように、Linuxの先行きの不透明感が表面化していることだ。また、それとは直接の関係はないがLinuxベンダ各社も何らかの方法で有償化する方向にある点も組み込みOSとしてもLinux普及にはブレーキとなるかもしれない。普及してきたので、これまでに投資してきた資金を回収したい、ということなのだろう。Linuxの勢いが折れることはないとは思うが、気になる動向である。

まだまだニッチな組み込み向けx86プロセッサ

 そういったOSを見ながら本業のプロセッサの出展を見れば、Linuxと同じくらい「定着」しているのが、ARMコア応用製品である。ツール系のサード・ベンダではメインに、大手ICベンダ系では自社アーキテクチャの脇役と、会社によって温度差はあるもののいろいろなベンダが出展している。LinuxとARMは連動しているわけではないし、OSとIPという違いがある上、ビジネス・モデルも決定的に異なるのだが、似たようなプレゼンスになるのはどうしてだろう。「トレンド」といって片付けてしまうのは簡単であるが、ちょっと不思議だ。

 蛇足ながら、PC系のプロセッサの出展について最後に触れておく。「組み込み業界」ではx86系はマイナー存在だが、ほかの組み込み向けプロセッサに混じりいくつかの展示があった。

 インテルは、Pentium Mを組み込み市場にも勧めていた。もちろん、XScaleもあるのだが、XScaleで一気においしい商売が開けるわけでもないと気付いたのかもしれない。それにしても、組み込みの中でも長期供給の必要な細かい市場セグメントにどこまで付き合う気があるのか不明だ。

 AMDの組み込みx86は、National Semiconductor(NS)から買収したGeode中心であった。もう1つは、MIPSコアのAlchemyであったので、何のことはないよそから最近傘下に組み入れたものばかりだ。そのためかGeodeもAlchemyも自社工場では製造していない。これまた長期供給には不安が残る展開だ。

 Geodeは悪い石ではないと思うのだが、変転してきているプロセッサである。もともGeodeは、x86互換プロセッサ・ベンダだったCyrixのMediaGXがルーツだ。Cyrixを買収したNational Semiconductorがインターネット・アプライアンス(IA)向け製品としてその販売を開始してからも継子扱いが続き、とうとうAMDに売られてしまった。それでも、x86に命をかけているAMDに買収されたのはかえってよかったかもしれない。ただ、かつてAMDの組み込み向けx86の中心だったElanファミリは隅に引っ込んでしまった。より高性能のGeodeが来たのでElan系の新規開発は打ち止めということであろうか。AMDのブースにElanのカタログも置いてあったので、販売を止めたわけではなさそうだ。

 x86系は、開発ツール類がPCと共用できることから注目度は高い。この先、組み込みにもx86がやってくるのだろうか? そうなったとき、Intelが1人勝ちということにはならないでもらいたいものだ。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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