多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
転職活動は、自分1人で行うものではありません。採用を考えている企業からしてみれば採用活動。そう、相手があるものなのです。
転職活動で本当にあった悲劇を紹介する本連載。今回は、相手のことを考えずに転職活動をしたため、ハッピーになれなかったITエンジニアのお話をしましょう。
川田さん(仮名)は26歳。成長著しいネットベンチャーに勤務するサーバエンジニアです。大学卒業後、自分が組織の一員として長期安定的な道を歩むことがイメージできず、当時まだ20人程度の小規模企業であった同社に入社しました。
情報工学部出身の川田さんは同社のサービスを支えるシステム関連の部署に配属され、ハイエンドUNIXサーバの環境構築と運用保守に明け暮れる日々を送ってきたそうです。上司や同僚にも恵まれ、忙しくも満足のいく日々を送ってきた川田さん。その順風満帆の仕事人生に暗い影が迫ってきたのは1年ほど前でした。
会社の業績が低迷してきたのです。多くのベンチャー企業は短期での成功を志し、その成功を条件として金融機関から資金を借りて事業を運営しています。ネット事業の隆盛とともに競合が多くなり、その計画に狂いが生じてきたのです。
成長を信じてハードワークに耐えてきた従業員の間に動揺が広がり、退職していく人は後を絶たず……。新卒で入社し、会社にかなりの愛着を持っていた川田さんも、とうとう転職することを決意しました。そして私のところに相談に来たのです。
まだ26歳ですし、これまで頑張ってスキルアップに努めてきた川田さんです。初めての転職で不安そうな面持ちの川田さんに、私は「動揺せずに足元をしっかり見て活動すれば必ずうまくいきますよ」と声を掛けました。
仕事が忙しいので、いくつかの案件の中から2社に絞って応募し、1社から書類選考通過の通知とともに面接試験のオファーを受けることができました。川田さんの勤める六本木のオフィスから30分程度の所要時間。問題なく順調に進むはずの転職活動でした。
ところが当日、面接試験が始まる15分前、私の携帯電話が鳴りました。少し嫌な予感を覚えながら電話に出てみると、やはり川田さんからの連絡でした。「急ぎの仕事が入ってしまい、どうしても抜けられないので面接をキャンセルしたい」というのです。急な仕事であれば仕方がない、と企業へ連絡し、リスケジュールの調整をすることになりました。
翌日、川田さんから連絡がありましたが、忙しくてなかなか調整がつかないとのことです。もちろん現職の仕事は一番大事にしなければなりません。
川田さんからはその後、1カ月くらいたったころにようやく連絡がありました。企業側はもう川田さんをあきらめていた節があったのですが、川田さんは「仕事が落ち着いてきたので、お休みを取って面接に臨みます」とのことでした。
1カ月ぶりに面接試験の予定が組まれた当日、またしても私の携帯電話が鳴り響きました……。
電話に出た私は、すぐに川田さんの異常に気付きました。電話口でも体調を崩していることがよく分かりました。2回目のキャンセルであっても、面接のためにお休みを取ったのであっても、このような状態で面接に臨んでも良い結果は得られないだろうと判断し、私は川田さんにリスケジュールの調整を請け負うことを約束しました。
何と川田さんは、「前日に同僚とお酒を飲みにいったら、つい深酒になってしまって……」というのです。
その後も「何しろ忙しくて……」とリスケジュールを続けた川田さんは、4回目のリスケジュール後に企業から正式に断りの連絡を受け、せっかくのチャンスを逃してしまいました。
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