現在のコンピュータウイルスは、さまざまな機能を備えていることは前述した。しかし、このコンピュータウイルスも初めから多機能であったわけではない。
皆さんがお持ちの携帯電話を思い浮かべてほしい。いまや誰もが手放すことのできない必須のアイテムだが、世の中に登場したころの携帯電話はどうだっただろうか。登場当初の携帯電話は、バッテリは長持ちしない、電話しかできない、そして、デカくて目立っていた。このことを思い浮かべつつ、世界初のコンピュータウイルスから順を追って主だったものを見ていこう。
世界初のコンピュータウイルスには諸説があり、概念としては1972年にデイヴィッド・ジェロルド(David Gerrold)作のSF小説「H・A・R・L・I・E」に「ウイルスプログラム」と「ワクチンプログラム」という言葉が使われている。
狭義のコンピュータウイルスとしては、1982年にピッツバーグの高校生リチャード(Richard Skrenta)が友人をからかう目的で作成したAppleIIに感染する「エルク・クローナ(Elk Cloner)」というものが最初のコンピュータウイルスであるとされる。このウイルスは、下図のようなメッセージを表示するだけであった。
情報科学の場で、初めてコンピュータウイルスという言葉が用いられたのは、エルク・クローナの発生から2年後の1984年に、当時、南カリフォルニア大学の学生であったフレッド・コーヘン(Fred Cohen)が発表した研究論文中であるといわれている。
前述したコンピュータウイルス以後に発生しているもので、世界初といわれるものが存在するので、念のため参考までに紹介しておこう。1986年「ブレイン(Brain)」というIBM PCに感染するコンピュータウイルスが、パキスタンのある兄弟プログラマが不正コピー防止を訴える目的で作成したものが存在していた。
ちなみに、わが国日本の国産ウイルスは、1989年に「Japanese Christmas」と呼ばれる、12月25日にメッセージを表示するものが確認されている。
さて、80年代に産声を上げたコンピュータウイルスは、メッセージを表示させるようなものが多く、微笑ましくもあった。しかし、90年代から現在に向けて、次第にその様相に変化を見せ始めることとなる。90年代には、さまざまなアプローチと機能を備えたコンピュータウイルスが現れ始めたのである。データを破壊するもの、Microsoft Office製品を利用するもの、メール添付による拡散を行うもの……。
1992年には、ルネッサンス期の芸術家と同じ名を持つ「ミケランジェロ(Michelangelo)」が発生する。このウイルスは、実在した芸術家ミケランジェロの誕生日である3月6日になると、動作・発症し、ディスク全体に無意味なデータを書き込み、破壊していくというものであった。この発症内容からも、コンピュータウイルスの存在を一躍有名にしたのではないだろうか。
ちなみに、「ミケランジェロ」は天使「ミカエル」(Michael)と「天使」(angelo)を併せたものである。
1995年には、Microsoft Excelを利用して動作する初のマクロウイルス「ラルー(Laroux)」が発生する。このコンピュータウイルスは、自身のコードを含むシートをほかのファイルに複製することで増殖するという機能を有していた。
日本でも、その2年後の1997年にまん延しているので、読者の中には被害に遭われた方もいらっしゃるのではないだろうか。
1999年には、メール添付による拡散の原点ともなったマクロワーム「メリッサ(Melissa)」が発生する。メリッサは、Microsoft Wordの標準テンプレートである「NORMAL.DOT」に感染するため、Wordの起動ごとに活動を再開するというものであった。拡散には、Microsoft Outlookのアドレス帳が利用され、登録されているユーザーから50人を選択し、感染した文章ファイルをメールに添付し、送信するというものであった。
世界的にまん延したことと、ファイル情報を基にした、連邦捜査局(FBI)の捜査により作者が逮捕されたという報道から有名なコンピュータウイルスであるといえる。
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