多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
転職活動中は、精神的にも肉体的にも大きなプレッシャーを受けるものです。
面接に行くために会社を休み、「ばれないだろうか」と過剰に気を使ったり、面接で落とされて精神的なダメージを受けたり、面接のために新幹線や飛行機を使わざるを得ない状況になり、「ここまでしたけれど本当に受かるのだろうか」と思ったり……。
そのプレッシャーから解放されるのは、内定が出た瞬間です。それまでの苦労が報われる瞬間でもあり、非常にうれしいものです。
しかし、ここで舞い上がり過ぎるのは禁物です。
今回は、「内定」関連で転職活動に失敗した2人のITエンジニアのケースを紹介します。内定は転職の最終段階ですが、最後の「詰め」の甘さが命取りになることもあるのです。
自分が内定をもらうときのことを想像し、参考にしてもらえればと思います。
浅尾さん(仮名)は28歳のネットワークエンジニアです。専門学校を卒業後、中堅のネットワークインテグレータであるA社に入社して4年目です。メーカーに常駐し、ネットワーク保守・運用やユーザーサポートを担当していました。
浅尾さんの仕事は非常に丁寧で、エラー対応も早く、クライアントからは高い評価を得ていました。仕事環境も良く、浅尾さんはそれなりに満足していました。しかし年数を重ねるうちに、浅尾さんは日々の仕事がルーチンワークになっていると感じ、今後のキャリアに漠然と不安を覚え始めたのです。
そんな浅尾さんが具体的に転職を意識し始めたきっかけは、転職した友人と会って話したことでした。友人はこういったそうです。「以前の会社の中では、自分の将来像が描けなかった。だからその会社を早めに見切って、転職したんだ」
転職した友人を自分に置き換えて、浅尾さんは考えました。「自分の経験はネットワークの保守・運用だけで、ネットワーク構築のスキルがない。いまの会社では新規でネットワークを構築するような仕事は取れない。ここに居続けたら、ほかのネットワークエンジニアに差をつけられてしまう」。そして突然、焦る気持ちでいっぱいになりました。「早く転職しないといけない」と。
こうして浅尾さんの転職活動が始まりました。しかし、28歳という年齢にもかかわらずネットワーク構築経験がないせいか、書類選考すら通らない状況が続きました。浅尾さんは転職市場における自分の位置を認識し、落ち込みました。「どこでもいいから転職したい」という気にもなりました。
そんなある日、準大手ネットワークインテグレータA社から浅尾さんに面接の依頼が入りました。浅尾さんにとっては願ってもない話です。このチャンスを逃すまいと、浅尾さんは万全な対策をしたうえで面接に向かいました。面接では自分の思いを伝え、企業もポテンシャル採用を意識して浅尾さんの人物面、意欲を重視し、その後2回の面接を経て、無事内定の運びとなりました。
しかし、ここで浅尾さんは対応を誤りました。唯一の内定に舞い上がってしまい、すぐに入社承諾の返事をしてしまったのです。入社条件も、詳しい担当職種も書面でもらっていない状況で、所属していた会社に退職届を提出したのです。会社側も承諾し、引き継ぎ作業が始まりました。
やがて、A社から採用通知書が届きました。業務内容については、ある程度満足できました。しかし提示された給与を見て、浅尾さんは目を疑ってしまいました。なんと、年収が100万円もダウンした金額だったのです。
浅尾さんの転職の目的は、ネットワーク構築を経験してスキルアップすることです。年収アップではありません。それにしても、ここまで年収が下がるとは予想していませんでした。「100万円上げて元の年収に戻すのに、あと何年かかるのだろう……」と浅尾さんは頭を抱えました。
「もしかしたら、もっといい条件でネットワーク構築を経験できる企業があるかもしれない」。浅尾さんはそうも考えました。しかしすでに入社の意思表示をしてしまったこと、これ以上転職活動のプレッシャーを受けたくないと考えたことから、不本意ながらもA社に転職したのです。
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