多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
働く環境の向上を考え、大都市圏から地方への転職を夢みるITエンジニアも少なくありません。しかし地方には、そもそも求人案件数が少ない、大都市圏と比較すると仕事の規模が小さくなる傾向があるなどの状況も見られます。
今回は、念願かなって北海道へIターン転職したものの、わずか数カ月で再び転職を考えることになったMさんの事例を紹介します。
ずいぶん転職を急いでいるなぁ。これがMさんの第一印象でした。「すぐにでもいまの会社、A社から転職したい」という内容で転職相談を受けたのですが、経歴書を見るとその数カ月前に転職したばかりなのです。東京のソフトウェアメーカーから、北海道のA社へのIターン転職でした。
一般的なアドバイスとして、まずは転職したばかりのA社で仕事を続けることを勧めましました。しかしA社の経営状態は思わしくなく、社員の退職が相次ぎ、入社したばかりのMさんに業務が集中してしまっているとのことでした。業務もよく分からないままに、クライアントからのクレーム対応まで行う状況だったようです。
Mさんは40歳前半、東京の精密機械メーカーで10年以上にわたり、回路設計およびソフトウェア開発を経験してきました。あるとき、長期休暇を利用して訪れた北海道が気に入ってしまい、いずれは北海道で仕事を見つけて定住したいと考えるようになりました。
製品の企画から設計、開発、テストまでひと通り担当したMさんは、技術スキルに加えて語学力をつけようと退職し、海外でボランティア活動を行いました。帰国後、再度ソフトウェアメーカーで開発職に就き、ITスキルのブランクを埋めつつ北海道への移住活動、転職活動を開始しました。
その結果、希望どおり北海道のA社に転職できたのですが、上に述べたような状況で、再度の転職を考えているとのことだったのです。
Mさんは高いスキルを持ち、人柄が良く、考え方も前向きで大変魅力的なエンジニアです。A社だけでなく、いくつかの求人企業で選考が進んでいたようでした。なのになぜ、このような失敗が起きてしまったのでしょうか?
A社への転職活動の経緯を詳しく聞いてみると、地方ならではの問題点が浮かび上がってきました。
Mさんの希望は、「メーカーで開発を続け、これまでに培った研究開発ノウハウを若手に受け継ぎたい」「さらに語学力を生かすことができればそれに越したことはない」というものでした。
しかし北海道には、開発拠点を持つメーカー数が極端に少ないのです。開発拠点があったとしても、ポジションがそう多くは存在しないのが現実です。加えて、Mさんの豊富な経歴がオーバースペックとなり、逆に企業から敬遠されてしまう傾向がありました。
これらの問題点のため、Mさんの転職活動は難航し、A社を選ぶときの判断が甘くなってしまったようなのです。
実はMさんには、A社のほかにもう1つ入社を希望していた会社、B社がありました。しかし難航する就職活動からくる焦りのため、よく比較検討せずに、先に内定の出たA社に決めてしまったという経緯がありました。
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