「1円で株式会社」は得か? 損か?フリーエンジニアの「知れば得する」確定申告講座(3)(2/2 ページ)

» 2009年02月13日 00時00分 公開
[森嶋卓也@IT]
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損金の不算入による規制

 会社法によれば、役員報酬の年間総額(限度額)は、(定時)株主総会で決定しなければならない。役員が勝手に報酬を高額にしてしまう「お手盛り」を防止するためだ。ところが、株主総会といっても自分(と近親者)しか株主でないのなら、いくらでも自分の給料は勝手に決めることができそうだ。

 自分の法人がもうかって仕方がないとき、途中から自分の給料をアップさせたり、決算対策として自分にボーナスを出したりすれば、それだけ法人の費用が減って利益が減り、結果として法人税も減る――という妄想すら浮かんでくる。

 ところが、「世の中そんなに甘くはありません」と深作氏はいう。法人税法では「役員給与の損金不算入制度」というものがあり、「役員に対する給与は、不相応に高額でない一定の金額を、1月以内の一定のタイミ

ングで支給されなければ、原則として法人税の計算で費用(損金)として認めない」という規定があるからだ。つまり、会計上はどんなに費用を計上して利益を圧縮しても、法人税の計算上はその費用は認められないということである。法人税法用語で、収益(益金)から差し引くことのできる費用や経費を損金というが、益金から差し引けない(不算入)ということである。

 法人税法は、特に同族会社で役員が自分の給与を調整して法人税を圧縮することを防止するため、一定の金額を一定のタイミングで支払うことを求めている。このため、決算対策でボーナスを支給して経理上の費用を増やしても、一定の金額を超えた部分は法人税の計算では費用(損金)として認められないのだ。

 「例えば、費用が役員報酬しかない法人があるとします。経理上、売り上げが200、役員報酬が150とすれば、利益は50となります。この利益50について法人税がかかりそうですが、役員報酬は毎月10だったのに、ある月にボーナスを30払っていたとしたら、その30は法人税の計算では売り上げ200から差し引くことができません。よって利益(所得)は、80(=200−(150−30)、または=50+30)となり、80に対して法人税がかかります。法人税率が40%だとすると、80に対する法人税は32となりますから、売り上げ200、費用(役員報酬)150、税引前当期純利益50、法人税等32、当期純利益18ということになります」(深作氏)。

 特に気を付けなければならないのは、役員報酬の年の途中での改定だ。法人税法では、事業年度終了後3カ月以内(要するに定時株主総会時)に改定されなければならない。それを別のタイミングで増減させると、原則としてその増減分が軒並み損金不算入になってしまう。例えば、役員報酬を月50から月80に増加させると、たとえ以降月80を維持していたとしても、月80のうちの30は、50を超えているものとして損金不算入になってしまうのだ。

 このようなことから、「役員報酬を今期はいくらに決めるか」ということが非常に重要になる。法人税法に適合するように役員報酬を改定するのは前事業年度終了後3カ月以内、つまり今期に入って間もなくということになるから、「今期の収益見通しはどんなものか」をその時点で決めなければならない。役員報酬を少なくしてしまえば、費用が少なくなるから、法人の利益が大きくなり、法人税の負担が増える。逆に、役員報酬を大きくしすぎると、法人の利益が小さくなり(赤字も含め)、決算書の内容が悪くなってしまう。決算書の内容が悪いと、金融機関から融資を受ける際などに不利になる。

 なお、これまでの話で、「株主総会で役員報酬を年間○○万円以内と決めていて、その範囲なんだから増減しても問題ないのでは?」と感じる人もいるだろう。確かに会社法上は問題ない。しかし、法人税法は、役員の給与が法人の所得の格好の調整弁になるため、株主総会で決めた枠の範囲内でも一定の金額で支給することを求めているのだ。

特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入

 決算書の内容を悪くする、もう1つの要因がある。

 それは数年前から適用されている「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」という制度だ。この適用を受けると、業務主宰役員の給与(つまり代表者の役員報酬)のうち、一定の金額を損金として認めないというものだ。これは、「定額できちんと役員報酬を支給して、先の『役員給与の損金不算入制度』をクリアしていても適用されてしまう」(深作氏)という恐ろしい制度である。

 同制度が適用されると、代表者の役員報酬とその不算入額は、役員報酬400万円なら不算入額134万円、役員報酬700万円なら不算入額190万円、役員報酬1000万円なら不算入額220万円、役員報酬1200万円なら不算入額230万円、役員報酬2000万円なら不算入額270万円となる。

 法人税は「おおむね」決算書の税引前当期純利益に対して税率を乗じて算出されるが、この「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」は、決算書の税引前当期純利益にこれらの不算入額を加算して税額を出しなさいという規定なのだ。

 役員報酬が400万円、税引前当期純利益は20万円くらいの状態で「今期は法人税は少なくて済みそうだし、当期純利益もプラスだから銀行からも文句はいわれない」と喜んでいたのが、実際の法人税は20万円に134万円を加算した154万円に対して課税されることになる。その結果、法人税などが約54万円になり、決算書は、税引前当期純利益20万円、法人税等54万円、当期純利益−34万円と、最終赤字になってしまうのだ。最終黒字を確保するためには、もっと利益を出さなければならないが、そうするともっと法人税が膨らむので、結果として「追いかけっこ状態になる」(深作氏)。やや専門的だが、この「税引前で黒字、税引後で赤字」の原因は、この損金不算入が税効果会計の対象外であることにある。

 「特殊支配同族会社」とは、業務主宰役員グループ(つまり代表者とその近親者)がその同族会社の発行済み株式の総数の90%以上を保有している会社を指すから、血のつながっていない知り合いに一定割合の株式を保有してもらわない限り、これに該当してしまう。

 過去3事業年度の所得金額(決算書の当期純利益ではなく)に業務主宰役員給与(代表者の役員報酬)を加算した金額、要するに代表者の役員報酬を除いた利益の平均額が1600万円を超えていると、この制度が適用される。つまり、決算書の当期純利益がゼロでも、役員報酬が1700万円であれば適用される可能性があるのだ。

 ただし、1600万円を超えていても3000万円以下であり、かつ業務主宰役員給与の占める割合が50%以下であれば、この規定は適用されない。

 フリーエンジニアが法人化をする場合、この「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度」の適用を避けるように法人化しないと、特に決算を黒字にしなければならない場合にはとても厳しいことになる。

 税額をある程度自由にコントロールできる法人化だが、「役員給与の損金不算入制度」と「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」の2点はしっかり押さえ、そのうえで法人化の是非や、株主構成などを決める必要がある。法人化の損得勘定は、この点が大きくモノをいってくるから、十分注意したい。

 以上、3回にわたって、フリーエンジニアの確定申告の注意点を紹介した。ポイントを押さえて、賢く節税してほしい。

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