さて、このような経営を支援するツールとして評価制度を作るには、具体的に何を検討するべきでしょうか。
これから以下の3つの項目に沿って、評価制度設計を実施するうえでのポイントを解説します。
●1.評価要素(何を評価するのか)を決める
a.評価体系を決める
最初に、社員の何を評価の対象とするかを決める必要があります。どんな評価要素があるかを知るためには、社員の業務遂行プロセスを分解して考えてみることが有効です。一般的には、社員の業務遂行プロセスは、「『潜在能力』と『労働意欲』を持って『職務行動』を行った結果として、その人の『仕事』が形作られ、そこから『業績』が生じる」、といったモデルで表されます。ここで挙げた「潜在能力」「労働意欲」「職務行動」「仕事」「業績」といった項目が、評価要素を決める際の選択肢です。この中のどの要素を評価項目とするかは、評価の目的に合わせて検討する必要があります。
特にプロジェクトチーム内での協業が中心となるIT企業の場合においては、個々人の業績のみを高く評価するような体系にしてしまうと、チームへの貢献意欲が下がり、チーム全体としてのパフォーマンスが低下する懸念があります。
そこで、例えば、組織としての評価は利益率などの結果に基づいた評価(業績評価)の視点で行い、個人の評価はチームへの貢献やチーム内の規定の順守といった職務行動の評価(コンピテンシー評価)の視点で行う、といった工夫が考えられます。
以降は、業績評価およびコンピテンシー評価を中心に議論を進めていきます。
b.評価項目・評価指標・評価基準、評価のウエートを決める
次に、業績評価およびコンピテンシー評価を行ううえで、具体的にどのような項目を、どのような基準で評価するかを検討します。
業績評価の項目は、売上高や顧客満足度などの一定期間の成果を表した結果指標と、プロジェクトの遅延状況やソフトウェア品質などの先行指標の2つに分けて検討する必要があります。
そうすることで、例えば管理職や営業職の評価項目は売上高や顧客満足度といった結果指標を使い、売上高や顧客満足度といった結果指標では評価が難しい技術職(SE)の評価項目には納期や品質などの先行指標を使う、といった使い分けが可能になります。
業績評価は、すべての項目に対して絶対的な基準を設けることは現実的でないため、各評価項目の達成度で考えるのが妥当であると考えます。例えば、プロジェクトマネージャがすべてのプロジェクトを予定工数内で収めるとの目標を立てた場合に、最終的に予定工数を上回れば達成度は100%より小さくなり、予定工数を下回れば(計画どおりに進めば)100%となります。
コンピテンシー評価の項目は、高業績者からのインタビューなどを通じて、その企業で最も重視される、成果につながる行動を抽出し、定義することが望まれます。
例えば、高業績者に共通の特徴が、「高い専門性の維持・発揮」「確実な業務遂行」「絶妙なチーム連携」「日常的な後輩指導・育成」の4つであったとします。この4つそれぞれを、実際の行動の評価できる大きさまで分解して、コンピテンシー評価の項目を決めていきます。「確実な業務遂行」を例に取ると、業務遂行に必要な要素として挙げられる「状況把握・分析」「計画策定・管理」「的確な判断」「日々の改善」といった項目が、実際の評価に使う項目です。もちろん、「確実な業務遂行」といっても、会社ごとに重視することが異なる場合もありますので、会社の特性に合わせて最終的にどのような項目にするかを決定する必要があります。
・コンピテンシー評価の評価基準・評価指標を決める
コンピテンシー評価における評価基準は、項目ごとに「?している」といった、行動が実際に行われているかどうかを確認するための短い文章で表します。例えば、「計画策定・管理」が行われているかどうかを確認するための文章は、「定期的にプロジェクト内の自分の役割、タスク・スケジュール、工数や社内外の関連情報を確認し、自分の業務計画への反映や軌道修正を行っている」といった内容にします。こうすることで、評価者は、社員が実際にその行動を取っているかどうかを確認することができ、そこからコンピテンシーの発揮度を判断することができるのです。
最後に、評価項目に対する重み付け(ウエート)を設定する必要があります。一般に下位等級の場合、組織成果への貢献度は低いため業績評価へのウエートは小さくなり、逆にプロジェクトマネージャや管理職の場合、業績評価へのウエートは大きくなるように設定します。
●2.評価の方法(誰が、いつ、どのように評価するのか)を決める
評価制度設計の2つ目のポイントとして、評価の方法を検討する必要があります。一般に、日々の業務遂行を通して部下の行動を最もよく知る現場の管理職が、部下を最も適切に評価できると考えられますが、社員の納得いく評価を確実に実施するためには、いくつかの工夫が必要です。
a.誰が、どのように評価するのかを決める
人が人を評価する以上、どうしても評価者の性格や個人的好み、人付き合いの深さなどが評価に影響し、ハロー効果や寛大化傾向、中心化傾向などといった評価の誤りを引き起こします。また、評価者によって評価の付け方が変わってきてしまうことにより、評価の不均衡も発生します。こうした問題に対処するためには、以下のような仕組みを整備することが重要です。
b.いつ評価するのか(評価の時期)を決める
評価結果をどのように使うかによって異なりますが、一般的には短期で変動しやすい業績評価は半年に1回、変動の少ないコンピテンシー評価は年1回の評価とすることが妥当です。
●3.評価結果の活用方法(処遇への反映方法)を決める
評価制度設計の3つ目のポイントは、評価結果の活用方法の検討です。評価結果をどのように活用するかは評価の目的によって異なりますが、一般には以下のような活用を行います。
業績評価の結果は、業績評価が短期で変動しやすい性質であるため、短期的な成果に対して支払う性質を持つ半期ごとの賞与へ反映します。
コンピテンシー評価の結果については、短期間で変動しにくい内容であるため、昇進・昇格・昇給に活用します。また日常の行動が評価基準となるため、適正な配置や日常の育成指導にも活用します。
今回は、評価制度の目的と、評価制度を設計する際のポイントについて解説しました。次回は評価制度設計に関連して、評価制度を運用に組み込む際のポイントについて解説を行います。
クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。
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