IT企業の人事担当者に読んでほしい、人事制度導入ノウハウ。導入プロジェクト開始の準備から設計、導入、実際の運用まで、ステップごとに詳細に解説する。
前回の記事「IT企業に不可欠、『降格ルール』の定め方」では、社員を公平に評価・処遇する等級制度構築のポイントについて解説しました。
今回は人事制度構築の要となる評価制度について、IT企業における制度構築のポイントを交えながら解説していきます。
「人事評価」という言葉に、皆さんはどういった印象をお持ちでしょうか。「社員に優劣を付けるためのもの」であるとか、「自分の知らないところで給与を決めるための仕組み」であるといった、ややネガティブな印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
確かに評価制度は、社員を査定し、処遇するために利用することもできますが、もっと積極的な活用の仕方として、企業の理念やビジョン、戦略を浸透させ、経営成果を上げるためのマネジメントツールの1つとして活用することも可能です。
ここでは評価制度を経営を支援するツールであるととらえ、その3つの機能について考えていくこととします。
1.社員を方向付ける機能
評価制度の1つ目の機能は、企業が向かうべき方向性を社員に指し示し、企業が期待する方向へ能力を発揮・向上させる機能です。
例えば、これまで「新技術導入へのチャレンジ」が一切求められておらず、汎用機やクライアントサーバシステムなどの旧来型の技術を無難に維持することしか評価されてこなかった企業があるとします。そこに、仮に新しい技術へのチャレンジ意欲が旺盛な社員が入ってきたとしても、「新技術へのチャレンジ」が会社の中で評価されない限り、次第に新技術に真剣に取り組もうとする姿勢を失い、「旧来型の技術を維持していくこと」に関する行動だけが強化されるようになります。
評価制度はこのように、社員を会社の期待する方向へ向かわせる(一方でそれ以外の行動を制限する)機能があるといえます。
2.社員の貢献を正しく把握する機能
2つ目の機能は、会社が期待する行動を社員は取っていたかどうか、またそれによってどの程度成果を上げることができたのかを把握する機能です。
先ほどの例で、仮に「新技術導入へのチャレンジ」という経営目標が掲げられれば、すべての社員が期待する行動を取り、期待する成果(ここでは新技術導入を果たすこと)を上げることが可能なのでしょうか。現実には、本人の努力の度合いや保有する能力の違い、置かれている環境や利用可能なリソースなど、さまざまな背景要因の違いによって、実現できる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
評価を行うことによって、個々の社員が会社から期待されている目標をどの程度クリアできたのかを知ることができ、自分がどの程度会社に貢献できたのかを知ることができます。また満足に貢献できなかったとしても、期待される成果を阻んでいるものが何かといった改善の手掛かりを得て、次の取り組みへつなげることができます。
3.社員を動機付ける機能
3つ目の機能は、社員の貢献を把握した結果に基づいて、社員の配置、活用、処遇を行うことにより、社員を動機付け、次のアクションへと向かわせる機能です。
配置、活用、処遇の代表的なものとしては、給与・賞与などの「金銭的報酬」、魅力的な仕事へのアサインや個人での参加が難しい学習機会の提供といった「非金銭的報酬」、行動面の評価結果を本人へフィードバックすることによる「人材の育成」、評価結果を活用した上位等級への「早期選抜」などが考えられます。
このように評価結果を報酬や育成といったほかの人事マネジメントの仕組みにつなげていくことによって、企業の戦略にのっとった人材の活用を行うことができ、最終的には企業の経営目標を着実に実現することに近づけることが可能となります。
あるIT企業では、営業職と技術職(SE)の2つの職種が存在し、営業職が受注した案件をSEが履行する、といった役割分担を組んでいました。
しかし実際は、すでに取引のある顧客からの継続案件が多く、案件の8割はSEの協力によって受注できているのが実態でした。営業職が行っていることといえば、SEが獲得した案件の契約書の取り交わしや代金回収といった事務作業が大半でした。
SEの間ではそれだけでも十分な不満の種になっていたのですが、実はもっと大きな不満がありました。それは、どれだけ受注活動に多大な労力を割いても、SEが評価されるのは受注後のシステム開発案件を予定工数内に収めることができたかどうか、という部分であり、受注活動に関する評価はすべて営業職のものになってしまうことでした。
この会社の評価制度が、営業の職務は受注活動、SEの職務は開発および工数管理といった画一的な考え方に基づいたものでなく、もっと実態を反映したものであれば、社員はもっとモチベーション高く仕事に取り組むことができたのではないでしょうか。
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