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» 2009年08月21日 00時00分 公開

報酬制度の検証IT企業のための人事制度導入ノウハウ(10)(2/2 ページ)

[クレイア・コンサルティング]
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II.存続性の検証:想定人件費シミュレーション

 新制度の導入の際は、報酬制度の切り替えの影響を検証するとともに、新しい報酬制度の「存続性」を検証する必要があります。存続性の検証とは、会社の視点から報酬制度を中長期的に眺めた場合に問題が表出しないかを検証することです。その検証プロセスを「想定人件費シミュレーション」といいます。

 では、具体的にどのように総額人件費の推移を想定するのでしょうか? 必要な情報は、

  • 現行社員の属性・報酬に関するデータ
  • 今後想定される新規・中途採用者数と定年退職者数
  • 昇格モデル
  • 昇給テーブル

です。これらの情報を使い、今後(5?10年)の経営計画を前提として想定される総額人件費を算出していきます。

 はじめに、今後に想定できる新規・中途採用者数と定年退職者数をカウントします。ここで、定年以外の退職者についてどのように対応すべきか迷うと思います。IT業界は人材の流動性が比較的高いので、若年層での退職者数が多い一方で、若年層の中途採用も活発に行われると想定できます。そのため、定年以外の退職者を考慮しなくてもそれほど大きな誤差は生じないと考えます。ただし、会社によっては離職率が非常に高い場合もあるでしょう。その場合は、年齢別の平均離職率などの指標を活用して、一定割合を定年以外の退職者として算出しておく手段などが考えられます。

 次に現在の社員と想定される新規・中途採用者数を新人事制度上の昇格モデル・昇給テーブルに基づいて昇格・昇給させます。昇格・昇給には人事評価が関係するため、評価を仮設定しなければなりません。

 最も簡単な方法として、全員を標準者(標準評価取得者)と見なして、昇格・昇給させる方法があります。ただし、ITベンチャー企業のように実力主義を徹底する会社では、高評価を常に取得し続ける優秀者、逆に低評価を取得してしまう非優秀者、標準的な評価を取得する標準者が比較的区別しやすい可能性があります。そのため、評価の高・中・低で一定の割合を仮設定し、昇格・昇給させることで、より現実的な昇格スピードや昇給率を反映した人件費シミュレーションが可能になります。このような昇格・昇給によって総額人件費の増加分を出し、算出された数値から定年退職者の人件費を差し引くことで、経年の想定総額人件費が算出されます。

 最後に、この想定総額人件費から報酬制度の存続性を考察します。想定総額人件費の推移だけでは、報酬制度の存続性の適否を判断することはできません。存続性を判断するには、算出された経年の想定総額人件費をほかの指標と比較しながら、検討を行う必要があります。例えば、想定総額人件費の推移と今後の経営の収益計画の推移と照らし合わせることで、人件費の増加率が収益の増加率と大きく乖離(かいり)していないかどうかを確認する方法があります。

 また、外部機関の調査を活用する方法もあります。厚生労働省が定期的に実施している報酬に関する統計調査の昇給率を参考に、自社の経年の昇給率と比較して、報酬制度の妥当性を確認する方法です。

 IT業界は、昇給率がほかの業界に比べて高い傾向にあるという特徴があります。前回も紹介したとおり、IT業界は外部人材の報酬面が比較的見えやすい業界です。外部の優秀人材を獲得するためには、外部水準に引けを取らないよう、報酬制度に魅力を設けることが必要だと解説しました。ただし、このような高い水準の昇給率を参考にしてしまい、かつ人事制度上に報酬を柔軟に下げる変動ルールを持たせないまま制度を運用してしまうと、人件費が経営を圧迫する可能性が高まります。IT企業に限っていえば、同業の外部水準のみを参考にするのではなく、全産業や他業界の水準も参考にして、自社の水準が高過ぎないか確認することも必要となります。

 これまで述べてきた検証は、あくまでも“想定”であるため、厳密な数値にこだわらず、前提条件に基づく検証として、ある程度割り切りながら実施する気持ちが必要です。総額人件費の推移に問題があると認識した場合でも、それが報酬制度(報酬水準や変動ルール)の問題なのか、または人材のインフロー・アウトフロー戦略や昇格モデルの問題なのか、的確に見極める必要があります。

 総額人件費の推移にはさまざまな要因が混在しており、報酬制度のみの問題ではない場合も考えられますが、制度の検証を行わなければ、問題の存在すら認識することができません。このような存続性の検証を行っていくことは、不確実性を伴う経営環境が高まっている現在においては特に重要です。


 今回は、報酬制度の設計後の検証ステップについて解説しました。次回、「導入支援」のポイントについて解説します。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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