新しい人事制度の導入支援IT企業のための人事制度導入ノウハウ(11)(2/2 ページ)

» 2009年09月11日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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円滑に制度を導入した事例の6つのポイント

II.スムーズな導入を後押しする施策例

 第I章では、人事制度導入に当たってありがちな失敗とその原因を見てきました。第II章では、ある会社の成功事例を紹介しながら、円滑な制度導入に向けたポイントを考えていきたいと思います。

 設立5年目のIT企業のC社。バックオフィス関連のソフト開発・販売を主要業務としています。社員数は100名で、ここ数年で倍々に増えています。設立時に作った人事制度は、不備が起こるたびに対症療法的な部分修正を行ってきたため、一貫性に乏しい、チグハグな内容でした。そんな中、人員の急拡大に伴い、人事制度の再構築が急務となりました。目標管理や役割給など抜本的な変更を加えた新制度を、12月末に作り上げ、翌年度4月からの導入を想定していました。

 導入に向けてC社が実施した施策はどのようなものだったでしょうか。読み進める前に、読者の皆さまも考えてみてください。

(1)制度改革に対する関心の喚起

 制度導入を4月とするならば、遅くとも前年の年末か年始早々には「来年度から制度が変わる」ことを伝え、新制度に対する関心を喚起することをお勧めします。C社では制度導入に先立って基本骨子としてまとめた「新人事制度を通して実現したい、今後のC社のあるべき姿と社員像」を簡単な資料ととともに、年末に発表しました。

(2)制度改革の目的と背景の伝達

 C社では新年1月に、12月に説明した内容をより具体的に説明する場を設けました。ここでは、制度の詳細な中身よりも制度改定の「必要性」や「目的」といった背景情報を重点的に伝えました。C社ではこうした情報を、社長自らが語り掛ける機会を増やしました。さらに、「詳細は今後、お伝えしますが、皆さんの月例給は制度変更後も2年は下がらないように設計されています」との説明を行い、社員の不安の解消に努めました。

(3)経営陣の意気込みを伝え、管理職を伝道師化(管理職向け説明会・合宿など)

 管理職が新制度に対して前向きな理解や関心を抱くことが制度導入に当たって特に重要になります。A社の失敗事例のように、管理職が「自分はよく分からないから人事に聞いてくれ」と説明を放棄してしまうようでは、部下は新制度を前向きに受け止めようと思いません。

 C社では、人員の急拡大によって社長と社員の間に距離ができているという危機感がありました。管理職は、社長の意思を現場に正しく伝播できるようにすることが重要と考えました。

 このような問題意識から、C社では1月末に管理職合宿を実施し、全管理職をホテルに召集しました。ここでは、12月、1月に経営陣が語った内容を再度管理職に向けて説明し、制度に前向きになってもらうよう努めました。社長だけではなく、創業メンバーである役員も交代で新制度に対する思いを語り、経営陣の「本気度」を管理職に伝えました。結果として、管理職は新制度に込められた経営陣の思いに理解を示し、制度導入を前向きにとらえるようになっていきました。

(4)社員の不安解消・制度理解の促進

 4月導入であれば、1月以降に社員説明会を最低1回は行いましょう。あまり早く行いすぎると、導入までに時間が空いてしまうため、記憶が薄れてしまいます。C社では(1)、(2)で社員へ制度改革の趣旨を説明しているため、ここでは、具体的な制度の詳細を説明しました。

 このように、C社では社員の理解度や意識状態に配慮してメッセージの内容や伝え方を工夫しました。社員への説明では「皆さんの不安を払しょくするために会社は最大限対応します」という姿勢を示すことに留意しました。

 社員は、自分自身の給与や評価がどうなるかという不安を抱えています。社員のよくある不安に対して、Q&A集を用意することや、新人事制度に関する相談室を制度導入時に設けるなどの配慮が必要です。

(5)新制度の具体的運用の理解促進

 C社では評価の仕組みが大きく変わり、初めて目標管理(MBO)の仕組みを導入しました。管理職向けの評価トレーニングだけでなく、評価を受ける側の心構えや考え方を学んでもらう「被評価者研修」も併せて実施しました。

(6)社員の不安解消および不利益変更における労務リスクの回避(個別面談)

 来期の新制度に合わせた等級格付けがほぼ決まった2月から3月にかけて、全社員に対して個別の面談の機会を設けました。(2)の処遇に対するアナウンスもそうですが、処遇の変化について、社員の不安をできる限り軽減するよう真摯(しんし)に対応する姿勢を示すことが重要です。就業規則の変更や不利益変更などの法的リスクへの対応に関してはここでは詳しく取り上げませんが、社員代表との交渉・同意や顧問弁護士への確認など、所要のプロセスを確実に行うことが重要です。

 以上、制度導入時の準備や工夫について紹介してきました。注意していただきたいのは、上述の導入施策はC社の事情に合わせた施策であるということです。どのようなコミュニケーションが望ましいかについては、唯一の正解はありません。繰り返しになりますが、自社の管理職の理解度・評価能力や社員の感情的側面を考慮して、自社に適した導入施策を検討することが重要です。


 この記事で紹介した事例が、自社に合った導入施策を検討するヒントになれば幸いです。

 さて、次回は、実際に人事制度を導入してから発生する問題とその対応方法について取り上げたいと思います。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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