モバイルサイトの運営とCMSに求められる機能について筆者の過去の経験、現在の自説や17のポイント、未来の予測を提示する
さまざまなタイプのCMSを実践的な視点から紹介している本連載ですが、最終回の今回は、最近注目が高まっているモバイルサイトやSNSアプリを運営するためのCMSについて紹介します。
最初にお断りしておく必要があるのですが、筆者はモバイルサイトのCMSに関しては中立的な立場というわけではありません。筆者の経営するユビキタスエンターテインメントは、モバイルサイト向けCMSの開発・販売をしております。
しかし筆者は、ドワンゴでサラリーマンをしていたころから、モバイルサイトの企画・開発で10年以上の実務経験があり、CMSを生業とするようになったのも、「モバイルサイトの運営」という難題を通じてでした。
そこで今回は、いつもと趣向を変えて、モバイルサイトの運営とCMSに求められる機能について筆者の過去の経験、現在の自説、未来の予測をお話させていただきたいと思います。
モバイルサイトは当初、非常にシンプルな情報の提示のみを目的として作られました。1999年にiモードがスタートした当初、モバイルサイトはインターネットWebサイトの“サブセット”の域を出ませんでした。
その後、KDDI(au)やJ-Phone(いまのソフトバンクモバイル)が相次いでモバイルインターネットを開放し、現在のモバイル業界の基礎となる部分が成立しました。当初はモバイルサイトといっても、非常に簡単なサイトが多く、「PCに比べてモバイルは簡単なもの、劣ったもの」と考えられていました。
ところが、様子が一変したのはモバイル向けの有料サイトが登場したときです。PCでは、無料で読めて当たり前の情報でも、モバイルでは有料で課金できるということで、雑誌社や新聞社などが相次いでモバイルサイトに参入してきました。
しかし、課金認証を行うということは、課金対象となるすべてのページが動的ページになるということです。
Web 2.0で「REST(REpresentational State Transfer)」という言葉が流行するずっと以前から、モバイルサイトの認証には、そうした仕組みが用いられており、さらにユーザーの登録情報をコンテンツプロバイダが独自に管理する必要があったため、必然的にデータベースのアクセスをチューニングする必要が生まれました。
こうして1999年当時のモバイル業界は、PCより一足先にWebアプリケーションのブームがやってくることになります。PCで「Web 2.0」を合い言葉にWebアプリケーションが流行し始めたのは2003年ごろですから、モバイルの世界は4年ほど先行していたことになります。
当初は非常に簡単なCGIで処理していた課金認証も、モバイルサイトの人気が出るにつれ、パフォーマンス的に足りなくなってきました。加えて、待ち受け画面と着メロのヒットによって、コンテンツの開発競争が激化し、1日に何度もページの更新をしたり、複数のキャリア向けに同時にコンテンツを配信することで、サイトを更新する作業は人力ではとても追い付かなくなりました。
そこで各社は、独自のCMS(コンテンツ管理システム)を作ることになりました。当時のモバイルサイトの場合、CMSの出来・不出来がすなわちサイト運営コストやサイトの人気に直結していたため、億単位の投資が平気で行われました。
PCサイトのCMSを改善するためだけに億単位の予算を使うなど考えられないと思いますが、当時のモバイルサイトは、それほどまでに強烈かつ熾烈なビジネス戦争を繰り広げており、しかも億単位で投資したとしても、1カ月で回収できる場合も少なくありませんでした。
筆者らも、そうした熾烈な「CMS開発戦争」の真っ只中に身を置いていた1人ですが、モバイルサイトにはPCサイトの運営にはないスピード感や効率性が求められることに大変興奮していました。
以下に、2009年12月現在、筆者が「モバイルサイトに求められるシステムの特性だ」と思っていることを列挙します。
会員数が1万人規模のサイトはモバイルでは珍しくなく、ゲームともなれば1日のアクセス数は50万〜100万以上にもなります。これだけのアクセスをさばくには、相当強力なサーバと適切な設計が必要です。
画面が狭いため、ユーザーはほんの少しの待ち時間にも敏感にストレスを感じます。一般的なモバイルサイトでは、1回のトランザクションにつき、50ミリ秒以下でレスポンスを返すのが、理想です。それ以上待たせると、ユーザーはイライラしてストレスを抱えることになります。
人気のあるサイト、勢いのあるサイトというのは1時間のうち何度も更新されます。特に、更新が多いのはトップページですが、大規模なサイトともなると多数の連載を抱えているので、そちらの更新もかなり多くなります。
また、目に見える更新以外にも、狭い画面を最大限に活用するために、ページ内のリンクの入れ替えなどは頻繁に、時には分単位で行われます。
ということは、それだけCMS側で更新が簡単に行えないと闘えないわけです。
例えば動画ファイルの場合、日本のケータイでは、最低でも6種類のフォーマットに対応しなければなりません。これは、端末の世代やメーカーによって表示可能なファイル形式が異なるからです。それ以外にも、Flash(モバイルの場合、現在はFlash Lite)や着うた、ゲームなども同様に、端末ごとに異なるファイルを出し分ける必要があります。
出し分け機能のサポートはモバイルCMSの必須機能といってもよいかもしれません。
非常に限られた面積で適切な情報を伝えたいモバイルサイトの場合、絵文字はなくてはならないものです。
絵文字のデザインは、キャリアによって大きく異なります。共通する部分はできるだけ自動で変換するCMSの方が使い勝手は良いですが、場合によってはキャリアごとに異なる絵文字を使い分けたいこともあります。自動変換をサポートしつつ、ある部分だけキャリアごとに出し分けるような機能を持ったCMSの方がより柔軟な運用を可能にしてくれるでしょう。
モバイルの人気サイトはとにかく常に更新されています。「1日に何件も更新される」ということはそれだけ多くのスタッフを抱えているということです。また、それほどの人気サイトでなくとも、毎日何かしらの更新を行うために、外部のライターを1営業日に1人ずつ、合計5人程度は最低でも確保しています。
つまり、CMSは複数のライターからの書き込みを許可し、さらに編集権限を持つ上位ユーザーの承認機能がないと一貫性を保つのが難しいわけです。権限管理機能のないCMSを使っている場合、担当者=責任者となりがちですが、ただでさえ忙しい責任者がすべてのページを直接管理するのは、いかにも非効率的なので、放任するか、会社によっては責任者が泣く泣く残業を繰り返す、などという実態もあります。
次ページでは引き続き、残りの11項目を紹介し、今後のケータイ用CMSのトレンドについてお話します。
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